◆わんぱくツインズのハロウィン(新と快と降と赤)「とりっく・おあ・とりーと!」
「おかしをくれなきゃ、いたずらするぜー!」
がおー! と勢いよく両手を上げてオオカミのポーズ(?)を取ったのは、黒羽快斗だ。その隣の工藤新一は、少し恥ずかしそうに控えめに「が、がおー」と手を丸めて鳴いていた。
そんな彼らを喫茶ポアロで出迎えたのは、優雅にモーニングコーヒーを飲んでいた赤井秀一と、カウンターで仕事の愚痴をこぼしていた安室透こと降谷零だ。
新一と快斗がタッグを組んで、赤井と降谷を驚かせるのはいつものことだった。日本警察の救世主と言わしめた名探偵と、稀代のマジシャンである確保不可能の大怪盗のしでかすことは、いつも大人たちの想像を上回り、振り回すのである。
しかしこれは、予想外にも程がある。大人二人はじっと新一と快斗を見つめ、それからきょとんと互いの顔を見合わせ、そして。
「ジーザス……」
「はあ?」
赤井は額に手を当てて首を振り、降谷はぽかんと大きく口を開けた。
それもそのはず。今年十八歳になったはずの黒羽快斗と工藤新一だが、オオカミの仮装をする彼らは、どうみても五歳くらいの可愛らしい坊やにしか見えなかったからだ。
*
『あのねぇ、超常現象が起こったからって何でも私の薬のせいにしないでちょうだい』
「でも、志保さんなら彼らの身体を小さくする薬を作れるんじゃないかと思って」
『作れるわけないじゃないそんなもの』
電話越しにぴしゃりと言い捨てられ、だよねぇと降谷は苦笑する。
『工藤君と黒羽君が縮むくらいどうってことないわ。そもそもの存在が規格外なんだから。それにハロウィンだから仕方ないわよ』
「仕方ないかぁ……」
『そうよ。じゃあ私、子どもたちのお菓子を準備するのに忙しいから切るわね』
志保の口ぶりから、降谷の言葉を信じているのかどうかも怪しいまま、通話が切れた。降谷がため息を吐く一方で、二人の幼児の前にしゃがんだ赤井が、首を傾げた。
「あー、新一と、快斗だな?」
その言葉に、幼い快斗の顔がパァッと明るくなる。
「! おやじ!」
「え?」
そう言って快斗は、赤井にぎゅっと抱き着いた。飛んできたエネルギーのかたまりを落とさないよう、赤井は戸惑いながらキャッチした。
「おやじだろ? 声が一緒だもん! なぁなぁそれ誰の変装? 人間のフリをするドラキュラの地味ハロウィン?」
「ぶふっ」
降谷が口を押えて吹き出した。赤井がむっとする。
「おいどうして笑うんだ降谷くん」
「だって、素でドラキュラって。顔色悪いもんなお前」
「……快斗。あのお兄さんは何の仮装だと思う?」
「んーと、カフェ店員のふりをする結婚詐欺師!」
快斗少年は元気いっぱいに答えた。赤井は咄嗟に横を向いた。
「ンフッ……」
「後で覚えてろよお前ら。コナ……違った、新一君はそんなこと言わないよね?」
降谷は安室のスマイルを浮かべて、幼い新一を抱きあげようと腕を伸ばす。しかし新一は、手に提げたバスケットの中から防犯ブザーを素早く取り出すと、ブザーのわっかに手をかけた。
「寄るな、胡散臭いやつめ! ハロウィンだからって何しても許されると思うなよ!」
「それはこっちのセリフだよ」
とうとう声を上げて笑った赤井めがけて、銀色のお盆がフリスビーのように飛んだが、赤井は「快斗に当たったら危ないだろう」と難なく受け止めた。
歯を剥き出しにして唸る降谷に、「快斗とおやじさんをいじめるな!」と新一少年のキックが炸裂していた。子どもの力なので降谷にとってはどうってことはないはずなのであるが、彼はサッカー少年で脚力があるので地味に痛かった。
→気が向いたら続きます