揺れる水風の音が唸る
巻き上がった砂粒が町を覆う
窓を強く揺らし、灯りに暗闇を叩きつける
やけに静かな黒い景色に目を凝らす
この日は昼間だというのにやけに気温がぬるかった。
カーラジオは悪天候の予報を伝え、一行は早めに宿に落ち着いた。
「えらい砂嵐やんか。こらぁ明日は足止めやな」
ジャケットを脱いで砂を払い、サングラスは外してサイドボードに。
休む支度を整えたウルフウッドは、真っ暗に烟る窓の外を虚ろに眺めるヴァッシュに声を掛けた。
「なんやボーッとして。あんま窓んとこおったら危ないで」
「うん」
ヴァッシュもコートを脱いでホルスターを外し、身軽な姿で窓の前に立っている。
ヴァッシュは室内でも夜でもカラーグラスを極力外さない。
カラーグラスに遮られた瞳が窓に映り、その色を伺うことはできない。
「あのさ。もしもこの砂嵐がぜんぶ水だったらどう思う?」
「えらい豪勢なもしもやの。そんな贅沢なことあるんやったら、世界中みな金持ちなんちゃうか?」
この星に雨はほとんど降らない。人々はプラントが生み出す貴重な水で喉を潤し命を繋ぎ、大多数がそれで精一杯だ。
「そういう星もあるんだって」
「金持ちの星か」
「そういうわけじゃないけど」
ウルフウッドは窓に映るヴァッシュと目を合わせた。
瞳の色は伺えない。
「強い風とそれに巻き上げられた水飛沫が、岩を崩して崖を削って家も壊して、溢れた水が何もかもを押し流してしまうんだ」
それをね、台風っていうんだって。
台風、いうんか。
色を見せない瞳が揺れる。
「人は水がなければ生きられないのに、その水の力は全てを壊すこともできる。こわいよね」
ただ静かに発したはずの声はつられて揺れてしまう。
「でもまあ砂嵐かて上手いこと付き合うとんのやし、台風っちゅうやつも、あったらあったで上手いことやり過ごすんとちゃうか」
揺らぎは窓で跳ね返り、ウルフウッドに届いて止まった。
「人は案外しぶといもんや」
そうかな。
そうやろ。
ヴァッシュは少し俯いてカラーグラスを外し、ウルフウッドへ向き直った。
やわらかな水の色をした瞳が鈍色の視線と交わる。
「することあらへんし、もう寝るわ」
「うん、おやすみ」
今夜のアイスブルーは揺れていない。