B/ミズヒス短歌詰め『B』

日輪を下す眼がここに在り全生命はいまから絶える


玉の緒よ絶えなば絶えね絶えたとて消えぬ怒りが稲妻になる


火は光錆びた世界を平らげて笑い遊べよ光の中で


まつろわぬ狼の種の末ならば待つな駆けろよ遠吠えを聞け


禁足の誰も歩まぬ荒れた地に俺らの靴が轍を作る


天国の退屈を蹴る極彩の地獄だったらお前らがいる


ため息をついてカイロを握らせる誰も知らない優しい男


アンタってテディベアみたい柔らかいナリで隠したアイアンクロウ


約束や嘘を吐いたら針千本ついでに小指つけたるからな


ゆっくりとまばたく目には激情を西日は落ちる夜はこれから


何もかも忘れていないこの皮膚の下を走るは熱く重い血


色のない肌の裂け目に覗くのは錆びることなく赤い寸鉄


一歩でも退いたら後は落ちるだけ舞台の幕は既に上がった








『春待ち』

ぬるい風咲いた花の香星に月腹を空かせた春待ちの夜


呻きとか唾を混ぜ合うこの夜でおまえとおれが正しい獣


重ねても溶けず隔てるこの肌を食い破ったらおれに戻れる？


ビル風を浴びてもつれた毛並みさえ愛しく撫でた白い尾の犬


触れる手の骨の硬さが平熱が擦れてひりつく心臓の裏


いっとうに光を集めた硝子越し見えた世界をすべて教えて


この声を産まれたときから知っている最初の鼓動とおんなじ響き


撃鉄に触れて飛び出す弾丸の軌道に落ちる鮮明な影


生命線のばせばよくねぇ？　名案の如く手に持つ油性マジック


やがて来るソファのための空白で交わしたすぐに忘れる話


何かから隠すがごとく身に絡む腕の密度と命の重さ


眠れない夜に口ずさむデタラメな俺たちだけが知る子守唄


穏やかな眠りのために寄せる身を知って背骨を辿る指先


目が醒めて全部忘れていればいい浮いた背骨を撫でて見る夢


花を呼ぶ淡い声なら覚えてる白い呼吸と冷たい指と


待ちかねて咲く花の名に意味はないお前の喉が呼ばないうちは


独り寝の布団を抜けて見る星に薄い幕ひくタバコの煙


もう他の道をお前は選べない俺が選んだ山犬の情


なぁ、のな、の形をさせた口を閉じ飲み込んだ名が胃に積み上がる


衣擦れに名を呼ばれたと欺かれ返したなに？　に揺れるカーテン


窓を打つ冷たい雨の降る夜が明けてしずくは光に変わる


なにひとつ欠けるところのない日々を夢見て春待つ獣のつがい


おれたちはぜんぶだったねともだちでこいびとなかまきょうだいじぶん


明けかねる暗がりで待つ手の中にお前ひとりの声だけがある


ひとりでは立てない場所で息をしたお前がオレに命をくれた