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    ※カミズモードとドリフェスのクロスオーバーです。
    ※捏造しかないです。
    ※海怔の留学先がロンドン
    (2021/03/22 up)

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    その音色は赤「今日の特訓はここまで!」
    土俵に相方のリグルガングの声が響く。
    程なくして土俵を覆っていた架空の背景は消え、いつもの河川敷の風景に戻っていく。
    その場にいたのはカミズモウ大会で勝つための特訓として集まった、四人の親方とその相方であるゴウリキシンたち。始めた時は青空であったが、今は鮮やかな夕日があたりを赤く染めていた。

    「なあリン、あの新曲聴いたか?」
    「もちろん!いま耳コピしてるとこ」
    「すげーな」
    互いにおつかれ、と言い合い家路に向かい歩き出すとダイがリンに声をかけている。

    「新曲?」
    「ダイの好きなドラマーのいるバンドの、新曲が出たんだって」
    二人の後ろを歩きながら疑問をそのまま呟くと、隣にいたススムが答えてくれる。

    「丹波さんも好きだったみたいで、いつのまにか意気投合してたみたい」
    「へえ、ススム君も知っているのか?」
    「いやあ僕はあんまり知らなくて……ルナちゃんの事なら分かるんだけどね!この前のテレビでね……」
    ススムが亜山ルナについて語ろうとすると、名前を呼ばれたからかリンがこちらを振り返る。
    「そういえば聞いたことなかったけど、海怔くんはどんな音楽を聴いたりするの?」
    「僕?僕はそうだな、父さんの影響で洋楽……特に古いロックバンドとか聴いていたかな」
    「ふうん、てっきりクラシックかと思ってたけど、なんだか意外かも」
    「俺、英語の曲は有名なのしか知らないなあ。好きなバンドしか興味ないし」
    「えーもったいないよダイ!この機会にルナちゃん全曲聴いてよ!」
    「いや敵じゃん……」

    なんて話をしながらみんなと別れ、リグルガングと歩きながらぼんやりとさっきの夕焼けの中の会話を反芻する。同年代の子と音楽の好みなんて話をしたのは今日で二回目だな……そう、あの時も、
    「なんだかロンドンで見た夕日を思い出したよ、リグルガング」
    「あの広場の時か?ああ、見事だったな、海怔」
    「つい何ヶ月か前のことなのに、なんだか懐かしく感じるな」


    初めての異国の地、ロンドンに降り立ったときは、日本とは違う空気に緊張したのを覚えている。しかし念入りにした予習が功を奏し、すぐに馴染めたと思う。
    留学した最大の目的は、岸家の当主として親方の修行や勉学に励むことだが、個人的な楽しみだったのが、日本で聴いていたこの国で生まれた音楽に実際にふれることだった。
    あのスタジオも、あの横断歩道も、あの童謡で有名な橋も、なにもかもが訪れたかった場所で、両親やリグルガングを連れて、日本でリサーチしてきた観光地はあらかたまわった。

    ……、…………いま留学中の頃を振り返ると、明らかに興奮していて、テンションが尋常じゃなかったような気がする。いまでいう聖地巡礼、に、なるのか? ススムやリグルガングが笑えなくなるくらい恥ずかしくなってきた……。


    ……月日が経ち、いよいよ日本に帰国する時が近づいてきた頃。その日は両親の都合が合わず1人で---正確には側にリグルガングがいたのだが---地下鉄に乗り、ナショナルギャラリーに向かっていた。いちど両親と訪れたが帰国前にもう一度見たかった。
    ロンドンには無料で入れる美術館が多くて、修行の合間の気分転換によくリグルガングと周り、写真でしか知らなかった芸術にもふれられるのはとても有意義だったな。

    じゅうぶん美術館を見納めし、建物を出ると目の前が眩しくて、目が慣れるといちめん夕日に包まれていた。噴水はスパンコールのようにキラキラと光り、ライオンの銅像の向こうにはこの街のシンボルである時計塔も見える。霧の街ロンドンの名の通り、雨に振られる日も少なくなかったがこの時は運良く、絶好の時に居合わせることができた。
    「すごく綺麗だな……」
    「いい景色が見れたな、海怔」
    「ああ、帰国前に見れてよかった」

    地下鉄の駅に向かい足を進めるとふとギターの音色が耳に届いた。あたりを見渡すと噴水のそばに黒髪の少年が自身の身体ほどのギターを抱え、座っているのを見つける。
    近づくと少年は自分と同じ年くらいだろうか? シャツに紺色のベスト、ハーフパンツとどこか既視感が……「海征と服が似ているな」というリグルガングの声で気が付いた。
    少年はその手には大きいギターのネックを掴み、きちんとコードを押さえ音を奏でながら、メロディを口ずさんでいる。
    「……すごいな」
    思わず口に出ていてしまっていた。自分は岸家の当主として幼少より親方の特訓をし、メトロノームのように正確に太鼓を叩けたが、どうしても太鼓以外の楽器を操ることには若干……不得意な自覚はあった。(特に問題ない範囲だとリグルガングは言うが、僕は納得していない。)
    聞こえてしまったのか少年が顔を上げ、僕と目が合う。少年の驚いて見開いた赤い瞳が、美術館で見たような宝石のように綺麗で目が離せなかった。

    目を合わせたまま互いに沈黙していたが、先に口を開いたのは少年の方だった。
    「……日本人?」
    「! 君も、日本人なのか?……えっと、ここにはひとりで?」
    辺りを見渡すが、少年の親らしき人影は見当たらない。

    「いや、リョウ……一緒にいたやつがちょっと仕事?で電話しに行ってて」
    「そうか、じゃあ戻ってくるまでいいかな?」
    なんだか少年ともっと話したくて、半ば強引に少年の隣に座り、こちらから一方的に質問する。彼は戸惑った顔をしながらも、ぽつぽつと答えてくれた。
    少年は黒石勇人という名前であること、自分と同い年であること、……これは彼は暗い顔をしていたが、お互い家の都合で勉強しにこの国に来ていること、と境遇が重なる点が多く、ますます親近感が湧いた。

    「この国の音楽も好きでさ、スタジオとか行ってみたり、アビーロード行けたときはうれしくてたくさん写真を撮ってしまったよ、あはは」
    「いや……べつにおかしくない、と思う。俺も前リョウに連れていかれて、そこで初めてアルバム聴いたんだけど、よかった」
    「ほんとか?!」
    音楽の趣味も同じだったようで、会話が弾む。
    岸家の当主になるための修行としてやってきた異国の土地で、純粋に好きなことだけを無邪気に話せるのは気楽で、なんだかとても嬉しかった。


    その頃、
    人混みの中、首からカメラを下げた男性が噴水広場まで走ってきた。

    「はあ、はあ…………悪い勇人、待たせ、た⋯⋯」
    少し離れた位置で立ち止まり息を整えてから顔を上げると、そこには似たような服装の少年ふたりがこちらに気が付かないほど話に花を咲かせている。
    背景の噴水の水飛沫が沈みかけている太陽光に反射しキラめいて、まるでギャラリーに飾られてもおかしくない様な、そんな神々しさがあるように男には見えた。
    思わず首から下げていた愛用のカメラで、二人をこっそり撮り、液晶で写りを確認する。うん、いい……
    『いい写真だな』
    「うわっ?!」
    顔の近くになにか気配を感じて、驚いて周囲を見渡しても誰もいない。
    ひとり慌てるリョウに気がつき「リョウ! 遅いぞ!」と怒る勇人と、リョウの隣にいつの間にかいる相方の神に苦笑している海怔がいた。


    『海怔、そろそろ帰るのが遅くなってしまう』
    「……わかった」
    気がつくと広場の街灯に明かりがつき始めていた。
    「? 何か言ったか?」
    「いや、もう帰らないと。……もうすぐ日本に帰るから、もうここには来れないかもしれない」

    また会えるといいな、と勇人に手を差し出す。彼はジッと手を見つめてから、自身の手を差し出し握手をする。
    「……俺もいつか日本に帰ると思う……。その時まではギターも歌も上手くなっておくから、また聴いてくれると……嬉しい」
    「もちろん!楽しみにしてるよ」

    勇人の瞳を真っ直ぐに見つめる。あたりは徐々に薄暗くなって来たが、勇人の赤い瞳だけはずっと明るく、ルビーのようで、とても、美しいもののように思えた。

    あの瞬間が、約束が、異国の国でのいちばんの思い出であり、宝物になった。
    いまでもあの国のことを思い出すときはあの赤色が脳裏に浮かんだ。



    その赤色と再開できたのは年月が過ぎ、高校の制服を着るのもあと一年のみかという頃。
    交差点の信号機の色が変わるのを待っていると、ふとどこか聞き覚えのある音が耳に入ってきた。
    顔を上げた先には巨大なオーロラビジョンがあり、そこにはそれぞれ金、銀の煌びやかな衣装に身を包んだ同世代の男性二人組が歌いながら踊っている映像が流れていた。

    「アイドル?………………、あ」
    最初は気のせいかと思ったが、黒髪の男性の方が画面にアップで写った瞬間、目を見開く。
    声は低く、精悍な顔立ちに変わってはいた、しかし赤く輝く瞳を見た瞬間、あの時のあの少年ーーー勇人だと分かった。
    衣装がライトに当たってキラキラと光り、解像度の荒い液晶の画面でも彼は全身宝石のように輝いて見えた。
    踊りはよくわからないが、彼の力強い低音が全身に響く。

    「……そうか、君は約束を果たしてくれたんだな」

    画面が別のCMに切り替わったのをみて歩き出す。
    「アイドル、かあ……ふふ」
    昔からアイドルに心酔するススムとリグルガングを見ていただけに、彼がその偶像になっているのだと考えるとすこし笑いが込み上げてくる。
    いや、何であれ彼の音楽はこの瞬間、自分まで響いた。それがとても、とても嬉しい。

    (また、彼と話せるだろうか)
    自分だけ約束を果たされても意味なんてない。
    帰ったらリグルガングに伝えよう。そして彼に会える方法がないか教えてもらおう。
    高揚する心は一色に染まっていた。
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