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    あるちゅうぼっくす

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    POIPOI 15

    🦈🦐

    お題「あぶくの両脚では、上手に踊れない」
    これは まさしく 一文

    おとぎ話やテレビでしか見た事のない、煌びやかな大広間。普段はあまり使われていないと聞いたがそんな風には見えないくらい綺麗で、とても眩しい。
    ワイングラスに注がれシャンメリーを一口味わいながら、ぼんやりと部屋の中央を見つめる。その先には黒のタキシードに身を包んだアズール先輩がとても美人な女性と楽しそうに話している。

    「……ガッツリスリット」

    話している女性のドレスは、身体のラインがはっきりと分かるマーメイドドレスを身にまとっていた。スカートには片脚がガッツリ見えるスリットが入っている。遠目でも分かるスタイルの良さに、主張の激しい胸。ちらりと自分の胸を確認するがそんなものは持ち合わせていない。全くもって真っ平ら。

    「うーん残念」

    改めて比べると何だか虚しくなってきた。別に見せびらかすというか、そういう為に来たわけじゃないけれど何だか悔しいというか虚しい。

    「何が残念なんですか?」
    「はぇ、ジェイド先輩」

    急な声に驚きながらも声がした方向に顔を向ける。この人いつ来たんだろうか。

    「アズール先輩と話してる人、綺麗だなあって思いまして」
    「あぁ、なるほど……僕はユウさんの方が綺麗だと思いますが」
    「ははっありがとうございます」

    余計な気を使わせてしまったかもしれない。
    きゅっと口をつぐんで、またアズール先輩の方へ向き直す。

    「おやおや、信じて下さらないのですか?」

    悲しいですと泣き真似をするジェイド先輩。信じるもなにもないのだが。

    「と言うより自分はそういう柄じゃないと思っているからです」
    「ですがフロイドが言うと喜ぶでしょう?ユウさん」
    「フロイド先輩だからですよ。恋人から言われるのと他の人から言われるのはベクトルが違います、山の標高くらい違います」
    「例え方が微妙ですねぇ……」

    くつくつと笑いながらジェイド先輩はワイングラスに入っているシャンメリーを一口飲んだ。
    アズール先輩と話している女性はとても綺麗だ。スタイルも良くて髪も長くてツヤツヤしているし、仕草も立ち方も全部が違う。大して私はというと、髪の毛は短いしスタイルは平凡で胸もない。おまけに身長が高いせいでハイヒールなんて素敵な靴履きこなせない。コケるのがオチだし余計高く見えてしまう。

    「シンデレラとか、おとぎ話のお姫様みたいに可愛かったら違ったのかなぁ」
    「それなら、お相手は僕が致しましょうか?フロイドは今席を外していますし」

    ちょうどいいでしょう、とジェイド先輩は私の手を取り軽く触れるだけのキスを落とした。眉間にシワが寄ってるのが自分でもわかる。それを見たジェイド先輩は面白そうに笑っている。笑い事じゃないんですよ。

    「何してんのぉ?ジェイド」
    「フロイド、お話は終わりましたか?」
    「ん〜ばっちりぃ、じゃなくて小エビちゃんに何してんのって聞いてんの」
    「ふふふ」

    ふふふじゃねえと不機嫌そうな声色でジェイド先輩を睨むフロイド先輩。上から火花が散って来そうだなとか呑気なことを考えながら少しだけ残ったシャンメリーを飲み干す。
    ちらり、アズール先輩の方へ目を向けるとお話が終わったようで女性が別の人の所へ歩いていった。

    「ジェイド先輩、お話終わったみたいですよ」
    「では、僕はこれで失礼します」
    「オレとの話は終わってねぇんだけど」

    どうどう、まだちょっぴり怒っているフロイド先輩を宥めながらジェイド先輩に気をつけてくださいねと声をかけて会釈をする。ニッコリと笑ったあと、ジェイド先輩はアズール先輩の元へ歩いて行った。あの笑顔に気をつけるのはまあ普通女性の方なんだけれどな。

    「ね、小エビちゃん」
    「なんですか、フロイド先輩」
    「ジェイドと何話してたの」

    拗ねているような、どこか寂しそうな声。
    いつかした喧嘩と同じ流れのような気がする。
    そっとフロイド先輩の手を握ってぴったりとくっつく。

    「お姫様みたいに可愛かったらなぁって話をしてました」
    「……小エビちゃんが?」
    「そうです。胸もあって今より身長が低くて、髪も長くて女の子らしかったらなぁと」
    「ふぅん」
    「なんですか、その目」

    タレ目を細くして黙ってじっと見つめてくるフロイド先輩。せめて反応が欲しいんだけど。
    何なんだろうと思い見つめ返すと、フロイド先輩は細めた目を閉じて怪しく笑った。

    「小エビちゃん、抜け出そっかぁ」
    「っ」
    「はい行くよ〜」
    「ちょっと、先輩?!」

    大きな手が私の手を包み込み引っ張られる。なるべく歩幅を合わせて歩いてくれているけどそれでも早い。ついていくのに精一杯で話しかけることも出来ない、本当にどうしたんだ。

    「忘れてたぁ」
    「へ……?わ、ぁっ!?」

    急に足を止められぶつかるかと思いきや、フロイド先輩は握っていた手を離して私を軽々と抱きかかえた。これはその、いわゆるお姫様抱っこじゃないか?

    「あはぁ♡小エビちゃん顔真っ赤だねぇ」

    誰のせいだと思っているんですか、そう言いたくても驚きのあまり声が出ない。それどころか自分がお姫様抱っこされてると言う事実を受け止められず恥ずかしくて、自分でもわかるくらいカッと顔が真っ赤になった。頬も耳も熱い。

    「な、なん」
    「喋ると舌噛んじゃうよ」

    出発しんこー!なんてどこで覚えてきたのか分からないフレーズと共に元気よく歩き出した。歩き出したというか、早いのですが。どこに連れていかれるんですか私は。舌は噛みたくない、とりあえず黙って先輩に抱っこされておくことにした。




    +++




    「ついたよぉ」
    「ここ、なに?」

    連れてこられた場所はホテルの一室だった。長いことエレベーターに乗っていたから相当高い場所にあるだろう。降ろしてもらって、窓に近づく。カーテンを開けて景色を見ると、大きなビルも家の明かりも街灯も全部が豆粒みたいに小さく、キラキラと光って街を照らしている。

    「こえーびちゃん」
    「はぇ」

    後ろから声をかけられた。情けない声で返事をして振り返ると、先輩はベランダにいた。ニコニコと笑いながら手招きしているのが可愛い。
    ベランダまで近づくと外にはとても大きなプールがあった。なにここ、なんでそんなものがあるんですか。

    「え、あの、え」
    「びっくりしたぁ?」

    それはとてもびっくりしました。口をはくはくとさせながら大きなプールを指差すと先輩はゲラゲラ笑い始めた。笑いすぎじゃないでしょうか。

    「アズールにお願いしてオレらだけ今日泊まる場所変えてもらったんだぁ」

    プライベートプールもあるから元の姿に戻れるし小エビちゃんも気にせず入れるよ、なんて先輩は微笑む。ずるいですよ先輩、ずるいです。

    「ね、一緒に入ろ?」
    「みずぎが、ないんですが」
    「用意してっから!入ろ!……ね?」

    捨てられた子犬のような顔をしないでください。顔がいい人にそんな可愛い顔をされたら勝てません。声に出して返事するのは何だか気恥しくて頷いた。先輩は花が飛んで出てきそうな笑顔でバスルームに用意してあるからと説明をして先にプールの方へ向かっていった。

    「なん、なんだ……?」

    未だに脳の処理が追いついていないけれど、言われた通りバスルームに向かって水着を着よう。







    プールの水面は照明を反射してキラキラ輝いている。ゆらゆらと人魚の姿で泳いでいるフロイド先輩に着替えましたと声を掛ければ直ぐに此方まで寄ってきてくれた。バシャッと水を跳ねさせてプールサイドに上半身だけ乗り上げて尾びれをぱしゃぱしゃと水面を叩いている。

    「小エビちゃん可愛い〜さすがオレ」
    「あの、その」

    初めてする女の子らしい可愛い水着に、どこか変じゃないだろうかと不安に思いながら出てきたけれど、すぐにフロイド先輩がかき消してくれた。
    薄紫色の生地に白い小花柄の水着には、胸にフリルが施されていてとても可愛い。何より気になってた胸が誤魔化されているような気がする。

    「おいでぇ小エビちゃん?」
    「えっあっ、はい」

    滑らないように気をつけながら近づいてフロイド先輩の尾びれの上に跨ると、先輩はキラキラとした目で私を見つめながら、そっと腰に手を添えて落ちないように支えてくれている。

    「さっきのねぇドレスもいーけど、こっちもいいね」
    「そ、んなこと言うの先輩だけですよ」
    「いやオレだけでいいんだけど。小エビちゃんの水着他の雄に見せんのヤダ」

    そう言うとフロイド先輩は口をとんがらせて、きゅるるると喉を鳴らした。それはずるい、なんて口をぎゅっと閉じて悶える。

    「でも、小エビちゃんがスカートとか可愛いの着てんのは好き」

    ぱしゃっ​────……。
    水が跳ねる音でリップ音をかき消すように、フロイド先輩は触れるだけのキスを私の唇に落とした。何度も触れては離して、また触れる。少しだけ慣れたけれど、まだ恥ずかしい。胸の奥がぐわっと熱くなってきゅううっと締め付けられる感覚がする。

    「ん……そういえば今日のパーティー、本当は最後までいる予定でしたよね?」
    「アズール達はねぇ。オレらは別にいーの、小魚がいる所で踊る気分でもねえし、話すんのはジェイドとアズールだけだから」
    「んぅ…んっ……」

    フロイド先輩はちゅっとリップ音をわざと立ててキスをして、話を続ける。

    「それとも、小魚と話したり踊りたかったぁ?小エビちゃん」
    「うーん……それはないですけど、ちょっと踊ってみたかったかなぁとは思います」
    「お姫様ってやつぅ?」
    「そうそう、パーティーとは少し違うんですけどね」

    さっきいた大広間も、お城のように素敵な空間だったなぁと思い出す。かけられていた音楽はクラシックが多めで、話している人の他に踊っている男女や軽いリズムを取って身体を揺らしている人もいた。あの中に入るのはちょっと、なんと言うか難しすぎる。

    「まあワルツとかおどれないので最後までいてもあんまり意味ないですけどね」

    くつくつと笑うとフロイド先輩は、ふぅんと生返事をして私を落とさないようにスイスイと背泳ぎでプールサイドに近寄る。

    「小エビちゃん、その小瓶取って」
    「……なんですかこの奇妙な液体」
    「まほーやくぅ」

    脱ぎ散らかしていた服のそばに置いてあった小瓶を手に取りフロイド先輩に渡すと、片手で小瓶の蓋を開けて一気に口の中へ流し込んだ。

    「ふろいど、せんぱっ……!?」

    バシャッッバシャッッ​────。
    小瓶を投げ捨てて上体を起こしたフロイド先輩にキスをされた。唇をこじ開けられちょっとずつ奇妙な液体を口の中へ流し込まれる。何だこの液体、めちゃくちゃ美味しくない。今すぐ吐き出したいのにそれは叶わず全部飲み込むまで唇を重ねられた。

    「……?い、きが」
    「踊ろぉ小エビちゃん」
    「へ、」

    飲み込んだ直後、息が苦しくなってきた。もしかしてなんて思った瞬間水の中に引きずり込まれた。プールの底は思ったより深く、水面が光を反射してキラキラしている。まるで山の頂上で星空を見ているみたいだ。

    「水ん中なら上手く踊れそうじゃねぇ?」
    「ふはっ上手く踊れますかね?」
    「オレがリードするから、任せて」

    今日は小エビちゃんの王子様だかんね、とフロイド先輩は微笑んだ。普通は逆なのになあと思いつつも折りたたんでいた脚を伸ばしてまるで陸で踊っているかのように、優雅に動かす。
    魔法薬の効果が分かるように足の周りには小さな泡がぶくぶくと出て水面まで上がっていく。

    「フロイド先輩、ありがとうございます」
    「どーいたしましてぇ」

    くつくつと二人で笑い合い、くるくるふわふわと踊る。あぶくの両脚では上手に踊れない、けれどとても特別で贅沢な時間。
    どうかこの魔法が、ずっと続きますように。
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