羽衣古着を着ないものはいない。親から譲り受けた。友からもらった。古着屋で買った。だいたいの衣類は古着になるし、みすぼらしくなければ貰い手はつく。しかし消費社会となってしばらく、人の環を回る衣類の多くは特別なものに限られた。成人式の振袖などその象徴だろう。姉は祖母が袖を通した振袖を美しく着こなして、これは娘に着せるのだと晴れやかに笑っていた。
しかし決して回らぬ衣類もある。天女の羽衣などは最たるものだ。
取り戻せぬほど汚れるのだ。
もちろん、天女は清潔そのものだ。彼女らは汗をかかず、涙を知らず、垢を出さない。
――死に際を除いて。
天女五衰という言葉がある。天女にも寿命があり、命尽きる五つの兆しを指すのだという。
1870