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    sinsen1ban

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    sinsen1ban

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    リクエストでいただいてたパロです
    死ネタ注意
    めちゃめちゃ短い
    死ネタ注意 えろは全くなしです

    エリステパロ死ネタ注意


     ほんの数センチ先すら白く瞬いて見えないほどスポットライトで明るく照らされたステージの上。鼓膜が破れそうなくらいの音響に、耳障りな大声に囲まれ逃げられない僕らは、只々、隣だけを見ていた。
     いつもはゆったりとしたバラード調の歌をしっとりと歌う濡れた低い声は、今日ばかりはアップテンポなリズミカルで激しい曲調に合わせて旋律を刻んでいて。汗が伝うこめかみ。長めの銀色の前髪の下で涼しげに細められた目。その奥でターコイズの瞳が僕を映した。薄く形の整った唇が開き、よく通る低い声はマイクを通して、会場中に美しく響き渡って。
     僕は、ああ、好きだなぁ、と改めて実感した。


     僕と彼の出会いは施設だった。ステージの上で歌唱させ、どちらが魅了したかの投票で人間の生死が決まるバケモノの悪趣味な娯楽に参加するためだけに集められた子どもが管理された施設。
     彼はその施設の庭にある木陰でよく本を読んでいた。周りにいる子どもたちに見向きもしないで、ひとり分厚い本を読むあの子に声を掛けたのは、少しの好奇心だった。
     歌のレッスンのとき、まるで金糸雀のように美しいテノールを紡ぎ、周りを魅了したというのにあまりにも無感情で。興味がないとばかりにバケモノに怒られることも気にせずそれからは黙りを貫き通していた。僕は思わず凝視してしまった。あいつらにそんな態度をとった子どもは僕を抜けば、彼が初めてだったからだ。あまりにも見ていたせいか、視線に気づいた彼が僕を見た。それで、ああ、そうだ。その瞳が美しかったから、近くで見てみたかったのだ。それが彼に声をかけたきっかけ。
     僕たちはすぐに仲良くなった。お互いが隣にいることが当たり前になった。彼が隣にいると、とても落ち着いた。
     このバケモノしかいない世界で、僕ら人間は愛玩具で、娯楽の消耗品で。それでも僕らは確かにここに生きていた。生き抜こうと、していた。
     二人で夜にこっそり夜空の星を見に行った。よく晴れた日芝生に寝転がり指先を絡めた。歌の練習を気づかれない程度に手を抜いて、二人で笑い合った。僕はいつしかそんな彼が好きになっていった。
      
     バケモノの娯楽のために綺麗に着飾った彼が、出会った頃よりすっかり大きくなった美しい彼が、真っ直ぐに僕を見た。こちらに伸ばされた手を迷いなく僕は取る。

    「カーヴェ」

     ライトの光を反射して瞬くターコイズの瞳が、雄弁に僕の名前を呼んでいた。僕も負けじと彼の名前を呼ぶ。声帯は絶えず旋律を刻んでいるのに、瞳はずっとずっと、まるで求めるように互いの名前を呼んでいた。
     この歌は、バケモノの娯楽のための歌なんかじゃあない。僕が彼だけに、彼が僕だけに、うたった、うた。
     気持ち良く重なる声。絡まる視線。響く旋律に合わせて口ずさむ、互いのための歌。たった二人だけの世界。
     すきだ。僕は、君が好きだ。出会った頃から、ああ、きっと一目惚れってやつだったんだ。僕は君だけいれば、それでいいんだ。
     最後のワンフレーズが、僕らから離れていく。終わった。漸く声に出して、彼の名前を呼べる。僕は嬉しくて、彼を見た。いつもは無表情の仏頂面のくせに、こちらを見て珍しく微笑んでいる彼に向かって僕は笑い、抱きしめようとした、その瞬間だった。
     ぱしゅっと軽い音がして、頬に生暖かいものが掛かる。ぬるりとしたその飛沫が口に入り込む。そうすれば、歌ったせいでからからに乾いていた口内にあっという間に広がる鉄臭い不快な味。それから、ゆっくりと、まるでスローモーションで倒れる彼。
     必死に手を伸ばした。もう頭の中は真っ白で、それでも彼を抱きとめろと叫んでいた。しかし、そんな僕を嘲笑うように寸のところで手は届かず、鈍い音と共に彼の身体は磨き上げられたステージの上に転がる。遅れてじわじわと侵食する赤に、僕は只々呆然とそれを見下ろす。

    「アル…ハイゼン…」

     返事は、ない。代わりにステージを揺らすほどうるさく汚い歓声が僕と彼を包み込む。やめろ、そんな汚い声で僕らを呼ぶな。やめろ、そんな卑下な目で彼を見るな。やめろ、やめろ、やめろやめろやめろやめろやめろっっ!
     どうして、なんて、無駄な思考はやめた。僕らは愛玩具。娯楽の消耗品。どんなに声を上げても、主張しても、このバケモノたちにはちっとも伝わらないのだ。
     だから、なぁ、アルハイゼン。アルハイゼン、僕の、大好きな人。
     力なく、真っ赤な花の上で眠るように横たわる彼の、しなやかな指に触れる。少しだけ、あたたかい。さっきまで、彼が生きていた証。さっきまで僕の隣で、彼が、歌っていた証。

    「アルハイゼン、」

     きゅう、と握った。彼から握り返されることはない。僕はそれが堪らなく悲しくて、虚しくて、もう一度「アルハイゼン」と彼の名前を呼んだ。

    「…君は、赤が似合わないなぁ」

     昔、僕のこの真っ赤な瞳が綺麗だと言った。嬉しかった。そのとき僕は「きっとアルハイゼンにも似合う」と言ったのだ。前言撤回しよう。君に、赤なんて、似合わない。

    「なぁ、アルハイゼン、」

     もうすっかり冷たくなった彼の指は段々と硬くなっていく。それでも大好きなその人の名前を呼び続ける僕に、バケモノがゆっくりと近づいてくる。そして、忌々しい真白い首輪を首に着けた。上手に僕を縛り付けられた合図に「ピッ」と無機質な電子音が耳鳴りが止まない耳に、やけに大きく聞こえた気がした。
     頭上のモニターに映し出される勝者の顔写真。華々しい「Win」の文字。それからバケモノたちの歓声と綺麗とは程遠いペンライトの光の群れ。
     舞い落ちるきらきら輝く花吹雪に包まれ、僕はいつまでも、いつまでも、動かなくなった冷たい彼の指先に縋った。

     ああ、結局最後まで、彼に、アルハイゼンに「好きだ」て伝えられなかったなぁ。






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