プレゼント「大般若、こっち向いて」
「はいはい」
「次あっち行くよ」
「……なに、やってるの、あれ」
「記念撮影、だって」
本丸内のあっちに行ったりこっちに行ったりして、大般若長光にポーズをとらせてはシャッターを切る。修行に出たらかれの装いが変わるから、我ながら必死だ。初期刀と初鍛刀が、何ともいえない視線を送ってくる。
「なあ、ひとりで撮ってもつまらんのだが」
「私は楽しいよ」
「……そうかい。でも、俺はあんたと撮りたい。一緒に撮ろうじゃないか」
「え、だって普段着だもの」
着替えるのは億劫だった。そういう写真は前に撮ったし、というと、大般若が肩をすくめる。
「私はいいから」
「いいから、な」
私の持つカメラを、大般若が撮った。ながーい腕で自撮りする。確認すると、身長差があるから、変な写真が撮れていて笑う。
「ほら、ふたりで撮ったほうが楽しいだろう」
「ええ、そうかなあ」
「でも、これをしたほうがいい」
と、どこから出したのか、大般若の手のなかには新品の口紅があった。驚いて、口をまぬけに開けていたのでするすると塗られる。
「ん、別嬪さん。……ちょっと濃いか」
「あ、じゃあ……」
手近にあったティッシュを探していると、大般若が両肩を抱いた。ちゅ、と薄い唇に軽くプレスされる。
「よし、ちょうどいい」
「……大般若に、ついちゃったよ……」
「箔がついたろう?」
からからと笑う唇を、私の指で拭う。かすかに口紅がついた。
「──写真、撮ろうか。美人さん」