盲目博士×悪玉森くん(続)階下に広がる玄関ホールを見下ろしながら、今後の事へと思考を巡らせる。氷川邸……今や私の物となったこの屋敷と財産、そして一人の男。それが、見知らぬ世界にポンと投げ出された今の私に残された全てだが、元々何も持ってはいなかった事を思えば寧ろ上々だ。ひとつ面倒があるとすれば、足音に気を遣わねばならぬ事だろうか。
寝すぎたせいで、朝食より昼食に近い時刻になってしまったが、誰も咎める人間はいない。彼を呼び出す為に、真新しい革靴の音を態と響かせながら大階段を降りて行く。この家はカーペットが敷かれている部屋も多いので、意識的に体重をかけなければ音が鳴らないのだ。
「玉森くん、そっちに居らっしゃるのですね」
すると私の足音を聞きつけた博士が、杖を片手に二階から顔を出した。
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