ピピッ、と乾いた電子音が鳴る。私の手の中の小さな機械を覗きこんで、左馬刻くんがはあ、とため息をついた。
「やっぱりな」
「私としては、いつもより調子が良いと思っていたのだけど」
顔を合わせた途端、「まだ測ってないだろ」と左馬刻くんが差し出してきた体温計の窓には、『37.8℃』と無機質な表示が浮かんでいた。
「よく分かったね左馬刻くん、医者顔負けだ」
そう言うと、左馬刻くんはまた大きくため息を吐いた。
「……先生の事だからな」
それより朝メシ作るから待ってろ、とキッチンに向かった背中を見送り、急に熱っぽさを自覚する。
(…今日は、ゆっくり休もう)
ーーこの熱は、暫く冷めそうにないから。
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