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毎日顔を合わせる。一緒に住んでいて、お互いの部屋はあるが、夕飯とかは一緒に食べることが多いから。防音室が取り合いになれば、そのあいだ中、個室に二人で閉じ込められた。
防音室が欲しい、でも、一人で毎月払うには尻込みするような家賃だった。そんな話をメンバーにしていて、じゃあほかに個室がふたつあって、少し値は上がるが―――二人で割り勘なら現実的じゃないか? そう提案してきたのは架羅で、少し意外だった、他人と共同生活したがるようにはとても見えないから。
それは魅力的な提案だった。架羅とはとくべつ会話が多くもなかったけど、一緒にいて居心地悪いという感じもしない。架羅のギターが好きだし……すごく。
「どこかに行くときは、大きな駅まで出なくちゃいけないな」
架羅の言う通り乗り換えこそめんどうだけど、最寄りの駅からはそれほど遠くもない。内見で訪れた街の閑静な雰囲気を、おれはいいなと思った。
「壱は料理とかするのか」
大掛かりな引越しの日とかはなく、お互い少しずつ荷物を運んでは、じわりと生活の拠点を移し始めていた。
見慣れないマグカップを傾ける架羅を一瞥して、いや、と首を振った。
「必要ならするけど」
「どうだろうな、これからどういうふうに生活していくか、まだ検討もつかない」
「架羅は? するの、料理」
聞き返すと、架羅はいや、と肩を竦めてみせた。
お互いが持ち込んだものの中に、鍋だとかフライパンだとかもあって―――それはどちらもほとんど新品みたいにきれいだ―――ひとつの家に二つも必要なのか、わからないけど、キッチンの戸棚に重ねてしまいこんだ。
結局、料理らしい料理をしたことも、振舞ってもらったこともない。
共用スペースに置いてあるのは、架羅が勝手に買った黒い革張りのソファと、飾り気のないローテーブル。
それまで使っていたものを、お互いが未だに好き勝手使っているせいで、変な感じがした。テーブルに置かれたコップも、皿もバラバラだった。
夕飯に何を食べるかで言い合いになった。出前を取るにしても、好きなものをバラバラに頼めばいいのに、なぜかそれができない。ついにおれが勝ち、フライドチキンを諦めた架羅は、おれよりよほど美味そうにカレーを食べた。