Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    Chikuwa01410w07

    @Chikuwa01410w07 らくがき放り投げるところ

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 44

    Chikuwa01410w07

    ☆quiet follow

    ミプ!推敲などない!

    #APEX
    #Cryptage
    encryption

    記念写真、記録映像、生体データ、経歴、伝記、記憶、その他も含めて「自分の存在を証明してしまうもの」たちを可能な限り完璧に避けて行かなければならない。クリプトことキム・ヒヨンやその他の偽名もあわせ、それらとパク・テジュンが結びつかないように。存在しないが存在する幽霊としての人生。あまり痕跡が残らないように完璧に終えねばならない。あくまでAPEXゲームの中だけの存在に留まること。それがクリプトとしての使命だ。
     だから、ミラージュの願いを断ったのは何も一緒に写真を撮る事に不快感があったわけでは決してない。こう見えて彼のことは評価しているし、むしろ感謝だってしている。友人のような関係を結びつけてくれたことにも。それでも譲れないものはある。できることならば人の心にだって残りたくはないというのに、データにしっかりと残るのはまっぴらごめんだった。

    「写真があればさ」

     ミラージュは何も入っていない写真立てを手で遊ばせながら言葉を続ける。俺とお前の写真が入る予定だったのであろうそれは無機質で不気味さすらあって、まるで棺桶だ。今でも誰かがここに納まって沈黙することを待っている。銃声にすら置き去りにされるデスボックスと同じぐらいの孤独だ。
     彼の瞳は仄暗い。いつもの、そう太陽のような熱量を持ったそれではない。吸い込まれそうなほど深い。ブラックホールのような。やはりここは葬式会場なのかもしれない。お前はいつから葬儀屋になったんだ?明るくバーテンダーなんて洒落た仕事をしていただろう。

    「いなくなっちまっても、いなくならねえだろ」

     そういえば太陽はブラックホールにはならないという。質量が不足しているらしいのだ。少し足りないお前と同じ。だけども光り輝いていて偉大で温かくて、なくてはならない存在。だから、やはりミラージュは太陽なので、つまりブラックホール化して周りの星々を吸い込んだりはしない。そう、他人を不幸に巻き込んだりはしない。一人で抱えて何でもないように振る舞って、悟られないよう自分さえ偽れる男だ。だから、いつかは白色経て黒色矮星。太陽系は熱源を失って生物のほとんどは凍え死ぬ。この部屋にように凍てついて無彩色で、虚しく。

    「ずっとさ、大切にしてればここに居てくれるだろ…写真はさ」

     言外に"お前は違う"と罵られている。大切に愛していても、お前はいなくなるだろう、と。棚の上に置かれたいくつかの写真立てにはそれぞれ、家族、母親、兄弟、何人かの見知らぬ男女が閉じ込められているのを知っている。何度も見た。この中で何人が生き残っているのかは知りたくもないし、興味もなかった。お前と写っているのは誰だ?と聞いてやれば、彼は喜んだのだろうか。
     クリプトは考える。考えたところでこの男にしてやれることはない。感謝はしているが、彼の願いや望みを叶えることだけができない。"クリプト"は幽霊ですらあってはいけなかった。証拠のない、すぐに消えゆく都市伝説であるべきだった。だから生きた証を残せない。生きていない。生きてはいないが、いつか死ななければならない。矛盾している。

    「結局お前の名前も…お前が本当に歳上だったのかも知らない。教えちゃもらえなかったからな」

     結局。最後。とどのつまり。彼の中での確定事項。これから教えてやれるかもしれないだろうになぜ諦めるのか。彼らしくもない。

    「もしお前がいなくなっちまったら、どうやってお前を思い出せばいい?どうやってお前がいたことを証明すりゃあいいんだ?」

     いなくなって、そして思い出す必要がどこにある。覚えておくメリットはどこにもない。クリプトを証明するものはどこにも存在してはいけない。それは自分の中での確定事項。恋だの愛だのに本気になるような存在ではないだろう、お互いに。少なくとも自分は違う。そうでありたい。俺たちは友人だった。ただの同僚だった。過ちはあったが、お前の人生を縛るようなことはしていない。契約なんて交わしていない。
     
    「なあクリプト」

     お前がなぜ俺に対して愛を囁くのかが終ぞ理解できなかったが、一過性の気まぐれにはちがいない。お前との関係性に名前をつけなくて本当に良かったとさえ思う。

    「やっぱり、写真、一緒に撮ろうぜ」

     一生に一度のお願いだ、と目の前の歪んだ顔が呪詛を吐く。笑いなれた笑いの表情を貼り付けて。この男も写真なのではないかとさえクリプトは感じてしまう。底冷えのするような恐怖と孤独と、少しばかりの絶望が渦巻いている。誰を見ている。どこを見ている。どうしてそんなに無機質でいられるのだ。

     明日、死にたいと思っているわけではない。
     明日、死ぬ可能性はあるけれど。
     明日、死ぬわけにはいかない。
     明日、死ぬ可能性はあるけれど。
     明日、はいつ来る?

    「いいカメラがあるんだ。フィルム式の…すげーだろ?でもデータでも撮ろう。似顔絵を描いてもらうのもいい。パスにも、記録しといてもらってさ…」

     明日は来ない。明日を知ることはない。だって明日は俺を置いていくし迎えにも来ない。今日という日さえ、俺を祝福しなかった。産まれたときすら。

    「お前に言えてねえことがたくさんあるんだよ」

     ガラスの割れる小さな音。彼の指先が震えている。寒いのかもしれない。ああ、この太陽を温めてやれる存在が必要だ。同じくらいの熱量で、いい距離が保てて、ずっと側にいてやれる存在が必要だ。探せばいくらでもいるだろうに、この男はそうしない。俺みたいなのを捕まえて振り回して、とんだ時間の無駄を晒していた馬鹿だ。

    「お前に言いたかったことがたくさんあって、それで、できれば、そう」

     この暗がりは今だけだ。もう少しすれば日が昇る。部屋は温められて、きっと彼は自分を取り戻せるだろう。そうしたらこの部屋をいつものように出て、出て?どうするのだろう。

    「お前に言ってほしいことが…聞きたいことだって、」

     俺はお前のことをよく知っている。経歴、家族構成、各種暗証番号、寝顔や寝言の内容、街なかでつい目で追ってしまう好みの女の特徴、すると喜ぶ仕草、ほくろの位置、抱えるもの、仄暗い欲望、それから、ええと。でも、泣いている理由はわからない。お前が求めている言葉だって終ぞ見つけられなかった。結局、見えるのは露呈しているところだけ。俺はあくまで監視の才しかないのだ。

    「もうお前の顔が思い出せねえ」

     いいことだ。そのまま忘れてしまえばいいのに。悲しいことは酒とともに飲み込んで消化して、忘れちまえ。二日酔いになって、そんで吐いちまえば完璧だ。そうだろ?これはお前が言った言葉だ。悲しいことが何かは、知らないが。

    「帰ってきてくれ」

     お前さえ忘れてくれれば俺はもうここにいなくていい。もうお前の顔を見るのも飽きた。これ以上俺を縛り付けないでくれ。お互いそんな約束なんかしていないし、例えしていたとしてもそれは"死がふたりを分かつまで"が最高の筈だろう。だから死んだら無効だ。その上もう3年は経つというのに。
     未だ太陽は泣いている。この暗い部屋にひとりぼっちで、寒くて凍えそうになっている。誰か彼を救ってやってほしい。誰でもいいんだ。あたためてやってくれ。彼を幸せにしてやってくれ。ひとりにしないでやってくれ。

     お願いだからもう、忘れてくれ。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤💞👍😭🍼🍑💖❤❤❤❤💗💗👏👏👏👏👏👏👏👍❤❤❤😭😭😭💴💴💴💴🍑😭
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    Chikuwa01410w07

    CAN’T MAKEミプ!推敲などない!記念写真、記録映像、生体データ、経歴、伝記、記憶、その他も含めて「自分の存在を証明してしまうもの」たちを可能な限り完璧に避けて行かなければならない。クリプトことキム・ヒヨンやその他の偽名もあわせ、それらとパク・テジュンが結びつかないように。存在しないが存在する幽霊としての人生。あまり痕跡が残らないように完璧に終えねばならない。あくまでAPEXゲームの中だけの存在に留まること。それがクリプトとしての使命だ。
     だから、ミラージュの願いを断ったのは何も一緒に写真を撮る事に不快感があったわけでは決してない。こう見えて彼のことは評価しているし、むしろ感謝だってしている。友人のような関係を結びつけてくれたことにも。それでも譲れないものはある。できることならば人の心にだって残りたくはないというのに、データにしっかりと残るのはまっぴらごめんだった。

    「写真があればさ」

     ミラージュは何も入っていない写真立てを手で遊ばせながら言葉を続ける。俺とお前の写真が入る予定だったのであろうそれは無機質で不気味さすらあって、まるで棺桶だ。今でも誰かがここに納まって沈黙することを待っている。銃声にすら置き去りに 3023

    recommended works