ベイビー(ドント)クライ2週間の出張から帰ると、玄関で出迎えてくれた恋人は、眉間にシワを寄せ、大きな瞳を歪ませ、下唇を強く噛みながら、僕へと抱きついてきた。
「悠仁、ただいま」
「……おかえりなさい……」
「いいこにしてた?」
「……うん……」
背中に回した手から伝わる体温が、平常時よりも高い。普段の身長よりも、10cmは低くなった僕の首に埋めた顔からは、静かにしゃくり上げる声が聞こえてくる。この期に及んでも、なお我慢しているのだろうか、僕の上着を握る手は震えていた。
いつもより近くなった顔から聞こえる声に、聞こえない振りは出来なくて、元より、聞こえない振りなどするつもりはさらさら無くて、震える手をそっと包んだ。
「寂しかった?」
返事の代わりに、おでこが鎖骨に押し付けられる。
5693