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    ju_pavilion

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    ju_pavilion

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    五悠ワンドロ お題「向日葵」

    ・寂しくなると、赤ちゃん返りをするようになってしまったゆうじくんと、そんなゆうじくんをあやして甘やかす先生の話
    ・先生が、獄門疆から出てきたあとの世界線

    ベイビー(ドント)クライ2週間の出張から帰ると、玄関で出迎えてくれた恋人は、眉間にシワを寄せ、大きな瞳を歪ませ、下唇を強く噛みながら、僕へと抱きついてきた。
    「悠仁、ただいま」
    「……おかえりなさい……」
    「いいこにしてた?」
    「……うん……」
    背中に回した手から伝わる体温が、平常時よりも高い。普段の身長よりも、10cmは低くなった僕の首に埋めた顔からは、静かにしゃくり上げる声が聞こえてくる。この期に及んでも、なお我慢しているのだろうか、僕の上着を握る手は震えていた。
    いつもより近くなった顔から聞こえる声に、聞こえない振りは出来なくて、元より、聞こえない振りなどするつもりはさらさら無くて、震える手をそっと包んだ。
    「寂しかった?」
    返事の代わりに、おでこが鎖骨に押し付けられる。
    僕は、ショートブーツのかたちが変わることも気にせずに、チャックが上がったままのそれのかかとをつま先で踏み潰し、宙で足をぶらぶらとさせ、半ば強引に玄関に投げ捨て、愛の巣へと降り立った。
    「悠仁、ご飯食べた?お風呂は?」
    リビングへ向かおうとするも、しがみついたままの悠仁が僕の足を止める。抱き上げて、無理にでも運んでしまおうかと思ったが、先ほどよりも熱の上がった体を前に、その選択は出来なかった。
    真っ赤になった耳元に口を寄せ、ご機嫌をうかがう。
    「どうしたの?」
    毛並みを整えるようにゆっくりと背中を撫でれば、くぐもった声が胸に響いてくる。
    「ん?悠仁、ごめんね。もう一度聞かせてくれる?」
    耳元に口を寄せ、気を引かせるように、今度は耳たぶを優しく食んだ。そろり、と様子を窺うように胸元から剥がれた顔は、茹で上がったように真っ赤で、その頬には、涙の糸が―今まさにこの瞬間も―生まれていた。
    「…………かった…………」
    何度も息を吸い上げながら紡がれた言葉は、けれど完全な言葉にはならなかった。
    どこでだっただろうか、人は泣いている間は死ぬことはないと聞いたことがある。
    泣いている間は、嫌でも息を吸って、息を吐くかららしい。
    逆に、笑っている時は、息を吐き出すばかりで苦しいから、"笑って死にたい"は、まぁ叶わなくも無い、らしい。
    可愛い恋人が、顔を歪めて苦しそうにしゃくりあげる姿を見て、今僕は『生』に触れているのだと感動している。
    悠仁に言ったら、怒られるかな。
    目の前の命がいとおしくって、自然と声の糖度が増した。
    「うん?どぉしたの?」
    「……さみし……かったぁ……」
    最後まで何とか言い切ると、悠仁は堰を切ったようにワッと泣き出してしまった。
    「ごめんねぇ、さみしかったねぇ」
    全身に巡る血を沸騰させ、肌を赤く染めた子供を抱き上げ、その足を体に巻き付ける。
    まるで生まれたての子供のその誕生を祝うように、抱き締めた体をゆりかごの役割で左右に揺らした。

    悠仁の赤ちゃん返りは、これで二度目だ。

    一度目は、僕が1週間の出張に行っていた時。
    その時も、僕の帰りを玄関で出迎えてくれた悠仁はすぐに抱きついてきたが、今回のように泣くことはなく、どちらかというと、少し拗ねたような顔をしていた。
    眉間にシワを寄せて(意外に感情が眉間に出る)、桃色の唇を突き出して、僕はその時も「どうしたの?」とご機嫌をうかがった。悠仁は、だんまり。
    僕がいくら返事を必要とする言葉を口にしても、その可愛い声が聞こえてくることはなかった。
    YesかNoで答えられるような質問をすれば、首を縦に振るか横に振るかで返ってくる。
    四六時中、僕の腰に回された腕が離れることは無かった。
    1週間も悠仁に会えなかった僕からしたら、思ってもみなかったご褒美だ。翌日、意気揚々と硝子に自慢すると、思いがけない言葉が返ってきた。
    『わかりやすく言えば、赤ちゃん返りみたいなもんかな。自己防衛機能の一種。お前が傍にいないことが、虎杖の心に相当な精神的ダメージを与えてるのかもしれない。お前に甘えることで、ダメージの回復をはかってるんじゃないか。本人は無意識かもしれないが』
    『……やっぱり悠仁には、僕がいないとダメだよね』
    『浮かれるなよ』


    獄門疆から出てきた時、最初に見たのは、悠仁の顔だった。
    眉間から鼻筋、そして口元に出来た見覚えのない傷をなぞれば、僕の指の感触を堪能するように、ぎゅっと瞳を閉じた。次に開いた瞳は、水分を多く含んでいたけれど、それが僕の目の前で流れることはなかった。

    まさか、こんなかたちで、悠仁の泣く姿を見ることになるとは思ってもいなかったが。



    体を揺らす間にも、定期的にトン、トン、と背中を叩いてあやす。嗚咽はまだ静まりそうにない。
    水分を取らせた方がいいかと思い、キッチンへと足を向ければ、「やだぁ!」と駄々をこねられる。
    「んー?お水取ってくるだけだよ?いっぱい泣いて、のど渇いてない?」
    「い、ら、な、い!」
    首もとに埋もれた顔からボロボロとあたたかい涙が溢れる。首を伝ってゆくそれが、くすぐったかった。
    指の背でもみ上げをさすると、それに釣られてこちらに顔が向いたので、露になった真っ赤な頬ごと滴をべろりと舐め上げる。
    「僕はゆうじの涙で水分補給できるけど。ゆうじは出来てないでしょ?ね。お水取ってくるだけだから」
    首から離れた顔は涙と鼻水でぐじゅぐじゅで、前髪は寝癖みたいに跳ね上がっていた。生え際にうっすらと汗をかいている。
    二度三度、瞬いた目からは、その度涙がぽろりと流れる。一瞬、静まった泣き声は、冷蔵庫に辿り着く頃には、「うー……」という唸り声に変わっていた。
    「よっ」と掛け声を上げ、左腕で悠仁を尻から持ち上げると、右手でミネラルウォーターのペットボトルを2本取り出した。
    「じゃあ今度は、ゆうじの行きたいところに行こっか。どこに行きたい?おしえてくれる?」
    「…………おふとんいく…………」
    「うん、そうしようね。ちゃんと言えてえらいね、ゆうじは」
    ポンポンと、左手で太もものつけねあたりに称賛の合図を送れば、腕の中の子供は、満足そうにへらりと笑った。


    寝室に入ると、窓から月明かりが差し込んでいた。
    今日は満月らしい。夜だと言うのに、外が明るい。
    元より、夜だろうが昼だろうが関係なくよく見える目を持っているが、目隠しを外した今その視線は、いとしい子にすべて注がれていた。
    「ゆうじ。僕、上着脱ぎたいから、先にベッドに寝ててくれる?」
    「…………やだ」
    ふるふると首を振ると同時に、上着を掴む手にぎゅっと力が込められる。自分でも頬がほころぶのがわかった。わがままが、こんなにも嬉しい。
    「やだかぁ。やだもんねぇ?」
    僕がコーヒーだとするならば、もう角砂糖が10個は投入されているだろう。普段、僕が飲んでいるのよりも、ずっと甘い。それくらいの声が出たと思う。
    僕の背中に足を巻き付けた状態の悠仁を抱えて、ベッドの上へと膝立ちになる。
    そのままベッドへ下ろそうとすれば、「やだぁ」とぐずる声と共に、足に力が籠った。
    腰に手を添え、上着を掴む右手を包み、その中心に親指を入り込ませて、ゆっくりグーからパーへと解していく。
    悠仁の上半身をそっとベッドへ引き渡しつつ、左手もパーのかたちに変えたところで、シーツの上で恋人繋ぎをしてみせれば、僕を見上げる顔は、少し不満げに口をへの字に曲げた。
    「いま上着脱ぐから、ちょっと待っててね」
    隙をつき手を離すと、素早く上着のジッパーを下げ、ベッドの外へと投げた。ズボンのベルトも手早く外す。
    「……うっ……」
    悠仁の顔が歪む。泣き出す5秒前だ。
    「ごめんね、待っててくれてありがとね」
    何とかギリギリ、泣き出す前に悠仁に覆い被さり、慈しむように頭を撫でた。
    次に、腰に巻かれていた足をゆっくりと下ろして、横に寝そべり、悠仁の頭の下に右腕を潜り込ませる。その間にも、爪先を使って靴下を脱いだ。ひんやりとしたシーツが気持ちいい。
    「おいで」
    左手を広げて迎え入れると、胸におさまった顔からワイシャツ越しに、あたたかな水分を受け取った。
    「ゆうじ、もうだいじょうぶだよ。ずっと一緒にいようね」
    ズッと鼻をすする音が聞こえてくる。シャツの袖で涙と鼻水を拭った。
    「ゆうじはかわいいねぇ」
    頬骨を親指でさすれば、悠仁はまた幼い顔を歪めて、「うー……」と泣き出す。
    つむじにキスをして、背中をトン、トン、と一定のリズムで叩いて、子守唄のように「だいじょうぶだよ」と何度も口にした。


    くぅくぅと、子犬のような寝息が聞こえてきたところで、すっかり常温になった水を悠仁へ口移しする。
    コクン、と喉が上下するのを見れば、たまらない気持ちになった。
    呼吸する体、あたたかな体温を、この腕に閉じ込める。
    「ゆうじは、いいこだね」





    「……う……?」
    「悠仁、おはよ」
    「……おはよ……あれ?……おれ、きのう……」
    寝起きの悠仁は、幼さの残る声をしている。
    まだ半分寝ている頭で、昨日のことをぼんやりと思い出しているようだった。
    「……なんか、まぶたが重いんだけど……」
    「昨日いっぱい泣いたもんねぇ」
    「おれ、泣いてた……?」
    一重から二重になった悠仁は、キメ顔というのか、少しだけ渋めな顔つきになって、おもしろ可愛い。目を強くこするから、その手を取り上げれば、今度は僕の胸にぐりぐりと目をこすりつけてきた。
    「悠仁。あんまり強くこすっちゃダメだよ」
    ピタリと動きを止めた悠仁は、ぼんやりと僕を見上げると、覚えたての言葉を声にするように、ぽつりと話し始めた。
    「おれ、しょうがくせいのころ、ひまわりの種食ったことあってさぁ」
    「うん」
    「ともだちん家がハムスター飼ってて、ひまわりの種食ってたんだよね。で、ひまわりの種って食えるんだぁっておもって」
    「……まさか、ドッグフードは食べたこと無いよね?」
    「……食いそうになったことならある」
    親指と人差し指で柔らかい唇をむにむにと摘まめば、パクリと咥えられてしまった。何でも口に入れるクセ、直そうね?
    「でも、学校のじゅぎょうで、ひまわり育てることになって。そん時に、もしかしたら俺の腹ん中からも、ひまわりの種が芽ぇ出して、花が咲くんじゃないかと思って、ビビって大泣きしたことがあってさぁ」
    「学校で?」
    「んーん。うち帰って、じいちゃんにひまわりの種食ったこと言って、そっから泣きついて。じいちゃんにゲンコツ食らって、また泣いてさぁ」
    「おじいさん、容赦無かったねぇ」
    「ん!はは。中学校入ったらそんなこと無かったけど、小学校の時はしょっちゅうゲンコツ食らってたよ。あとで撫でてくれんだけどさ」
    ここらへんかな?と、ゲンコツを食らったかもしれない頭部を撫でれば、悠仁は「もっとして」と可愛いことを言ってのけた。
    「俺、そん時ぶりかもしんない。こんなに泣いたの」
    「泣いてる悠仁も、可愛かったよ」
    「んー……俺はあんまり泣きたくないかなぁ」
    「どうして?」
    「だって、かっこ悪ぃから」
    可愛いんだから、かっこ悪くてもいいのにね。


    一度目の赤ちゃん返りの時には、幼稚園の頃の話をしてくれた。
    石ころをたくさん集めて、こっそり押し入れにしまっていたら、おじいさんに見つかって、庭に捨てられた話だ(庭に集めるのは許してもらえたらしい)。
    以前、子供の頃の話をもっと聞きたいなぁとねだったことがある。悠仁は、『でも、俺覚えてるのってほんのちょっとだよ』と言って、少し寂しそうにしていた。

    ―多分、今日はこれでお別れ。また、会う日まで。

    心の中で手を振ると、寂しがりの子供は手を振り返して消えていった。



    すっかり目が覚めた様子の恋人は、布団の中で、何やら恥ずかしそうに足をもじもじと動かしている。
    僕の長い足で挟み込み、その動きを止めれば、観念したかのような上目遣いを寄越された。
    「なぁに」
    「……今日は、休み?」
    「休みだよ。2週間も留守にしてごめんね。5日で終わらせるつもりだったんだけど、上層部の奴等が……」
    「じゃ、じゃあ…………1日一緒にいて」
    2週間ぶりの恋人を前に、昨夜手を出さなかった僕の理性に国民栄誉賞を。正賞は、恋人の口づけだ。
    「わっ……ちょ、先生待って」
    顔を近づければ、汗ばむ手のひらで押し退けられてしまった。
    「えー、なんで。悠仁、ちゅーしよ、ちゅー」
    「俺、昨日、歯磨いてないし、風呂も入ってないから。……それから、しようよ」
    口移しで水を飲ませ、汗をかいたつむじにキスをした僕からしたら、今さらそんなことは気にしないけれど。
    休日の可愛い恋人のお願いは、何でも聞くことがこの国の決まりなので。まっ、2人きりの国だけど。
    「じゃあ、お風呂準備してくるね。ちょっと待ってて」
    おでこに口づけを残し、布団を出て風呂場へ向かおうとすれば、シャツの裾をぐんっと強く掴まれた。
    「や、やだ……行かないで……」
    「…………可愛い~~~~~っ」
    いそいそと再び布団の中の体温にしがみつけば、少し罰の悪そうな顔をした恋人が言った。
    「先生、鼻の下伸びてんよ」
    「悠仁がそうさせてるんだもーん」
    ふふ、と笑って、見つめ合えば、それだけで充分だった。
    今日はもう、このままでもいいかな。
    そう思い始めたところで、思わぬ敵襲を受けることとなった。

    ぐごごごごごごごぎゅーきゅるるる

    「……悠仁、今のって」
    「うわぁー、俺の腹タイミング悪ぃ!ほんとごめん!!」
    優先順位を見直して、最優先を朝食に。それから、手を繋いでキッチンへと向かった。


    「ねぇ、悠仁。もしかしてさっきのお腹の音さ、ひまわりが咲いた音じゃない?」と言えば、ノリのいい恋人は、
    「そうかも!じゃあ水あげねぇと!」とコップ1杯の水を飲み干した。


    その水が、いつかまた、子供の涙になるのだろうか。


    泣いている間は死ぬことはないとしても、やっぱり笑った顔がとびきり可愛いなと、僕お手製のスクランブルエッグを頬張る恋人を見て、思った。
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