暮らしはじめて気づいた貴方の一面　少し曇り気味な休日。とはいっても、どこかへ出かけるとかそういうことはなくて、ただのんびりとテレビに映るミミンのアニメをぼんやりと眺めていた。
「ミミン～ミミン～」
　うっかり歌ってしまったので、思わず手で口を押えた。というのもすぐ横に、PCのキーボードを叩く音が聞こえている。紅也さんは今日、学会というお医者さんにとって大切な会のために作業をしていた。
「……」
　私が歌を歌っても無反応。それほど集中している証拠とみえる。多分今、ほっぺたを突っついても無反応なんだろうなって横目で見ながら、私はミミンのアニメをずっと見ていた。
　アニメを数話見終わる頃、紅也さんのキーボードを叩く音が消えた。ということは作業が終わったという事かしら。ちらりと顔を見ると、なんだか疲れた顔をして机に突っ伏していた。
「……疲れた」
「はいはい、お疲れ様なのだわ。今、お茶淹れるから」
「ありがとー……」
　台所に行って、私は紅茶を淹れる準備をした。この間、少しお高めのアールグレイの茶葉を買った事を思い出して、とびっきりのお茶をあの人に出してあげようと思い、戸棚から取り出す。
「はい、どうぞ」
　あたたかい紅茶を紅也さんの前に出すと、紅也さんはゆっくりと起き上がってお揃いで色違いの鳥の絵が描かれたマグカップを持って、紅茶を飲んだ。
「これ美味しいね」
「当たり前よ。それ高い茶葉なのだから」
「僕に黙ってそういうの買ってたとは」
「いいじゃない！？い、一応私のお金で買ったんだし！」
　とはいえ、このお金は紅也さんから毎月少しもらっているお金を貯めて買ったもの。紅也さんのお金で実質買っているようなものだけれど。
「ところで一緒に暮らし始めて1ヵ月以上経ったけど、蒼さんは慣れた？」
「ええ？まあ、そうね。そこそこ慣れたと思うわ」
　紅也さんと一緒に暮らし始めて一ヵ月以上が経った。屋敷から出てからは慣れない事がたくさんあって、その都度戸惑いもあったけれど、何もかもが新鮮でそれはそれで楽しいと感じている。
「でもね、私一緒に暮らし始めて一つ気づいたのよ」
「何を？」
　屋敷から出て気づいたこと、それは――
「紅也さんって屋敷で一緒に過ごした時と、こうやってお家で過ごしている時のギャップがあったことかしら」
「え」
　私の発言を受けて、紅也さんは石のように固まった。
「なんていえばいいのかしら……。屋敷で見ていた紅也さんは、完璧超人で隙もないって感じだったのよ。まあ、かっこいい部分だけしか見えてなかったというか」
「は、はあ……」
　思い返せば、私と紅也さんは屋敷内もしくは病院内での交流でしかなかった。それに後から聞いたけれど、紅也さんは空庭家の屋敷に行く度に緊張をしていたらしい。
「今こうして一緒にお家で過ごしているのを見ていると、その、だらしないというか」
「だらしなかったのか、僕……」
「言葉が浮かばなかったのよ！……紅也さんの素っていうのがはっきり見えたと言えばいいのかしら。つまりそういうことよ」
「どういうこと！？」
　家にいる紅也さんは、かっこいい面というよりかは素が100％出ているという状態だったので、それはそれは最初驚いたものだった。
「確かにかっこいいという面はあるわ。でも、だらだらと映画を見てたりその辺で寝ていたりとか、人らしい人の様子が見れてそれはそれで感動だったわ……」
「それ感動する所じゃないよね……？」
　でも私はそんな一面が見れてほっとしている。屋敷で見た通りの完璧超人のままであったら、私はきっと窮屈に感じていたのかもしれないのだから。
「そういう一面がある紅也さんも好きってことよ」
「ぐふっ！そ、そそそそういの急に言わないでくれるかな！？」
　慌ててそう言う紅也さんの顔が可愛くて、思わずふふっと笑ってしまった。これからも貴方の色んな表情、しぐさを見せてくれるわよね？

～END~