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    aoi88114514

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    若トマの序章。ここからえっちにしていきたい

    無題人というものは、大抵誰かを好きになり、付き合ったり疎遠になったり、そういった経験をするものである。稲妻の社奉行で家司を担うトーマという青年も例に漏れず、ある人間に恋をしていた。

    「若、おはようございます。」
    「あぁ、おはよう。いい匂いをさせているね、卵焼きかい?」
    「そうですよ。もうお嬢は居間に向かわれましたので、若もそちらでお待ちください。」
    「トーマの朝ご飯を食べられるのは何日ぶりかな、最近忙しかったから。楽しみにしているよ。」
    「あははっそんな、変わり映えのないものですが。若が喜んでくださるならいくらでも。」

    トーマがそう言うと、若、つまり社奉行の主である綾人は機嫌良さそうに居間へ向かう。トーマは、綾人が過ぎ去ったのを音で確認してから、ふーっと息をはき肩の力を抜いた。別に彼が仕えるべき主人であるから緊張したというわけではなく、ただただ、朝のなんてことないやりとりにドキドキして仕方なかったのである。

    トーマは、自分の主人の一人である綾人に恋をしていた。初めは綾人の妹である綾華に連れられこの社奉行に来たものの、いつの間にか綾華の相手をするだけでなく神里家の家政をするようになった。幼い頃から様々な重荷を負い、簡単に他人に素顔を見せないような綾人とも、時間が経てば信頼し合い、時には揶揄われ笑い合うような、そんな関係を築いていた。神里家での日々はトーマにとって、平穏を感じられる良いものであった。
    しかし最近は様子がなにかおかしいようで、綾華や綾人、他の使用人たちといる時はトーマは和気藹々と普段通りに過ごせるのに、綾人と2人きりでいると、どうにもむずむずとしてしまうのだ。いつからかもはっきり覚えていないし、どういった時にむずむずするかも言語化できない。でも、心当たりがあるとするならば、原因は綾人の態度にあった。

    トーマは、他人の感情に聡い。見た目の違う異邦人を受け入れるのに慣れていない稲妻で、モンドから1人で流れ着いた少年がこうしてここまで生きてこれたのはその証拠であろう。トーマは相対する人間によって関わり方を柔軟に変えられた。この人には、気安く接した方が適切に距離を縮められる、この人には、いつもより慎重に、控えめに振る舞った方が後々良い関係まで持っていける、この人には……と。トーマは一見明るく真面目で気の良いお兄さんのようで、しかし冷静に相手の機微を捉える策士の面を持ち合わせていた。
    トーマのその性質は主人の綾人に対してでも発揮される。綾人が沢山の書類に埋もれて神経質になってしまいそうな場面では、彼の仕事の邪魔にならないようそっと茶を淹れたり、息抜きする場面では、何度負けることとなっても挑戦の姿勢を崩すことなく彼の棋の相手をし、楽ませることもできる。多くの責任がのしかかり、安心してもたれ掛かれる人も身近にいない綾人の癒しになりたいとトーマが意識したのはいつからだったか。綾人がよくトーマに妙な味をした食べ物を食べさせることも、彼の息抜きのひとつなんだと思えば、無碍にできない大切なやりとりの一つになった。変な味に気持ち悪くなりつつも結局は毎度食べきってしまう自分を見て彼の心が軽くなるならば、それでよかった。彼が社奉行の主としているための助けになるならば、それでよかった。


    「ただいま。トーマはいるかい?」
    「…っ!はい!こちらにいます。すぐ向かいます。」
    「綾華は…出ているようだね。はい、トーマ。いつもの土産だよ。」
    「いつもの、って。あれですか、牛乳とある素材を合わせた……」
    「ふふ、今日はユウトウタケにしてみたよ。ほら飲んでみて。」

    帰宅して落ち着く暇もなく、彼は妙な味の牛乳を差し出す。トーマはそれをいつも通り飲みほし、妙な味ですね、と感想をこぼす。綾人は微妙な顔をするトーマを見つめて微笑んだ。
    まただ、と思うと同時にドクドクと胸が妙に苦しみ出す。ユウトウタケのせいではない、綾人の視線を感じるからだ。あの優しげな垂れた目が、綺麗な菫色の瞳がこちらをじぃっと見ている。トーマの最近のドキドキの原因はこれだった。綾人の態度が、自分に向けられる目や声色が、やたらと甘い。綾華と三人でいる時には気にならないのだが、二人きりになると少しの沈黙のうちに、自分を愛おしむような視線がこちらに降り注ぐのだ。トーマは人の感情に聡い。だからどうしても、自分達が男同士で、主人と従者で、そんなことありやしないと思っていても……他に向けるのとは違った、自分の名を呼ぶ声や、目線や態度の甘さに、こう感じてしまうのだ。この人は、自分のことを好きなのではないか、と。

    「あの、若…そんなに見られると困ります。」
    「可愛いことを言うね。どうして困るのかな?」
    「ぐぅ…!か、可愛いだなんてよしてください。主人に見られながら飲み食いするなんて、緊張するに決まっているじゃないですか。」
    「うーん、でも、人って緊張するだけで赤くなるものなのかい?ねぇ、トーマ」

    すり、と少し赤くなった耳に綾人の指が触れる。なんだ、なんなんだとトーマは暴れだしたくなった。しかし全く身体は動かない。逆に固まってしまった。どう動けばいいかわからない。トーマと綾人は主人と従者で、自分はこの人と神里家に忠誠を誓っていて、でも綾人からはそんな関係を越えてしまっている好意を感じていて、そしてその好意に乱されている自分がいるのもわかっていた。ここ最近のドキドキが心に溜まってしまっていて、ぽろっと口から何か出てしまいそうで。

    「っすみません、俺まだ仕事があるので」

    適当に言い訳をつけてさっさとその場から逃げ出す。赤くなった顔は何一つ隠せていなかった。こんなでは、自分は綾人が好きだと言っているようなものだ。これからどうすればいい、従者のトーマとして、これからも神里家にいるには、どうすれば。


    「……今のは少し、あからさますぎただろうか。」
    その場に残された綾人は、トーマの体温が少しうつった自分の指先を見つめて、そう呟いた。


    __________________________________




    トーマは思いついた、自分が従者に徹することで、甘い雰囲気にしなければいいのだ。綾人側の態度のことは何も考えられていないヤケクソのような案だが、それでも何もせずずっとドキドキさせられるよりかはマシだ。綾人の前で緩んだ表情や態度を見せなければ、適切な距離感を保てるだろうと希望的観測を持ったトーマは、これからはもう少し堅めに接してみようと心に決めた。

    「おはよう、トーマ。」
    「若!おはようございます。」

    トーマはハキハキと挨拶を返して綾人と目を合わせる前に庭の掃除に戻ろうとする。それを綾人は不思議そうな目で見ていたが、自分の仕事があるのだろう、それ以上は何も言わずに離れていった。
    手短に、必要最低限の会話で、でも敬意はしっかりと持って綾人に接する。今のはドキドキしなかった。そうだ、これでいい!とトーマは小さな成功に喜ぶ。
    その後も、次の日も、不自然なくらいにトーマは無駄に元気に社奉行内を動き回り、テキパキと家政の仕事をこなしていった。家司殿は近頃気合が入っているなぁ、と警備係にも言われるくらいで、トーマも社奉行に仕えている充足感があって、犬っころのように疲れを知らずあれやこれやと仕事をして走り回った。
    そんな日が続いた時、トーマは久しぶりに綾人と2人きりになる場面に出会った。この前までなら緊張していただろうが、今のトーマはもう違う。綾人にベラベラと最近の社奉行内の様子や、離島での働きを伝え、よし、これでもう話すことはないなと、一言断ってその場を離れようとした。が、

    「ちょっと待ちなさい。」

    綾人に腕を掴まれ、その場に留められる。うわ、やってしまったかもしれない、と冷や汗が垂れる。トーマは綾人の声に少し怒りや苛立ちが含まれているのを感じ、しおしおと綾人の方へ身体を向けた。

    「どうしたんだい、最近私とゆっくり話してくれないね。そんなに常にやることがあるのかな、私も手伝おうか。」
    「いえ、…わ、若の方がお忙しいでしょう、ゆっくり休まれてください。」
    「それだと意味がないだろう。私はトーマと過ごして息抜きしたいという意味で言っているんだよ。」
    「しかし…神里家の従者として、その、戯れるようなやりとりは…」

    緊張で喉奥が締まり、語尾が小さくなっていく。はぁ、と頭上で小さく溜息が吐かれ、トーマが恐る恐る顔を上げると、綾人はニッコリと美しい笑顔を作ってこう言った。

    「そんなに仕事がしたいなら、特別な、トーマにしかできない仕事をあげようか。」

    グッと強く腕を握られ、恐ろしいほど綺麗な笑顔で放たれた言葉に、これはまずいことになったと頭の片隅で思いながら、逆らうことができないトーマは、はい……、と小さく返事をした。


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