明け方の獣 宇随が煉獄の自宅に姿を見せたのは、明け方近くだった。鬼狩り後の、血塗れの隊服もそのままに、全集中の常中すらやや乱れがある。戦闘時特有の殺気も収まっていない。
例えて言うなら、今の彼は狩りをする獣のようだった。理性よりも闘争本能を剥き出しにしている、美しく大きな獣。
「煉獄」
己を呼ぶ声を聞いて、宇随が何をしにきたか、煉獄はすぐに悟った。
宇随が煉獄を求めて来るのは、自分に余裕が無い時だ。何も動じないような顔を常にしているが、宇随も人間だ。鬼狩りのあと、本能が抑え切れない時はある。
抱え込んだ欲望をぶつけるために、煉獄に頼ってくるのだ。
それは彼なりの、甘えだった。
今夜の任務は比較的簡単で、夜半過ぎにカタがついて早めに戻ってきていた。しっかり湯を浴びた後だったのが、今夜はいつもと違って幸運だった。そうでないと、こうなった状態の宇随は汗も汚れも気にしない。
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