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    8hacka9_MEW

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    風邪ひいたワタルに虎王がみかんを持ってくる話

    ワタルが、熱を出した。
    学校からの帰り道、なんだかひどくだるいと思いながら、家へとたどり着いた。ぼうっとしているワタルの様子を見た母は、熱を測り、医者へと連れて行った。喉の痛みや鼻水などはなかったが、とにかく熱が高い。熱さましを飲んだものの、すぐに熱が下がるわけではなく、だるさも抜けなかった。額に氷嚢を乗せ、ワタルは薄暗い部屋の天井を、ぼんやりと眺めていた。
    (……だるい…)
    水を飲もうかと思ったが、そのために体を起こすのも、それを考えるのも、ひどく億劫だった。体が重くて、寝返りをうつのも困難だった。それでも、仰向けより横向きの方が、少しは呼吸が楽になるかもしれないと、ワタルは、どうにかベッドの壁際に、顔と体を向けた。
    息がしやすくなった気はするものの、体のだるさが軽減される訳ではなく、眠ろうとしても、眠れなかった。
    「……しんどい」
    ワタルが、ぽつりと呟いた時だった。
    「寝てるのか?ワタル」
    背後から聞き覚えのある声が聞こえて、ワタルは思わず跳ね起きて、振り返る。けれど、相手の姿を確認する前に力が抜け、ヘナヘナとうずくまってしまった。
    「大丈夫か?」
    ワタルの肩に、手が乗せられる。だるさを堪え、ワタルは少し、顔を上げた。
    「……虎王、なのか…?」
    「おうっ、オレ様だ!」
    ぼうっとした頭に、虎王の明るい声が響いた。熱のせいで夢か幻でも見ているのかと、ワタルは訝しむ。尤も、全身の倦怠感が、思考を進ませてくれなかった。ワタルは、そのまま顔を上げ続けていることもままならず、その場にうずくまってしまう。
    「大丈夫か?ワタル」
    「うん…ちょっと…、動けない、かな…」
    熱が高く、体も頭もふわふわしていた。横になった方が楽なのは分かっていたが、体を起こそうにも、上手く力が入らなかった。
    「ちょっと待ってろ」
    虎王の声と共に、ベッドが軋む音がした。虎王、なにを…、と聞く前に、ワタルは背中から抱えられ体を起こされた。
    「え…、とらお…」
    「よ…っと、」
    虎王はそのまま、ぽすん、と、ワタルをベッドへと横たえた。ゆっくりだったので、それほどの衝撃は感じなかったが、ワタルの頭はクラクラした。
    そんなワタルを、虎王が覗き込む。額に手を当てられた。少しひんやりしていて、ワタルは心地良さを感じた。
    「熱いな」
    「うん、…大丈夫…。…虎王…、どうして、ここに……」
    「オレ様か?ワタルにみかんを届けに来たんだ!」
    「えっ……、みかん……?」
    ほら、と、虎王がワタルの目の前に、手に乗せたみかんを持ってきた。橙色のみかんから、かすかに爽やかな香りがした。
    「それ……、どうしたの……?」
    「ドンゴロに貰ったんだ。二つもらって、一つはオレ様が食っちまった。もう一つはヒミコにやってもよかったんだが……。なんとなく、ワタルにやってもいいかなって、思ったんだ」
    「それで…来てくれたの?」
    「おう!どこをどう来たのか、さっぱり覚えてないけどな!」
    「……そっか…」
    ワタルは、虎王の心遣いが嬉しくもあったが、少しだけ、うっとおしくも感じた。なにもこんな具合の悪い時に来なくても…と、内心、思った。
    「食うか?皮剥いてやるぞ?」
    「え……?」
    いいよ、と断る前に虎王がみかんを剥く気配を感じた。これ以上、話すのが億劫で、ワタルは沈黙した。
    「ほら、食えよ」
    虎王が、剥いたみかんを丸ごと見せた。ワタルは、ゆるく首を振った。
    「ごめん…、今は食べれそうもない…」
    「食った方が、きっと元気になるぞ?すごくうまいみかんなんだ!」
    そう言うと、今度は虎王は、小さな房をワタルに見せた。たった今、ちぎった様だった。
    「ほら、口開けろよ」
    「………」
    本当に、ワタルは食べる気にはなれなかったのだが、これ以上断る気力もなかったので、虎王の言葉に従い、口を開けた。
    虎王が、ワタルの舌先にみかんを乗せた。ワタルは口を閉じ、緩慢に、噛み始めた。

    ……と、

    「………!虎王……」
    「ん?なんだ?」
    「……これ、すごく美味しい……」
    口にしたみかんは、すっきりとした甘さと爽やかな香りがした。熱で火照った体を、少し冷ましてくれる心地がした。
    だろ?と、虎王が笑った。
    「もっと食うか?」
    「……うん、」
    本当は、起きて自分で食べたかったが、その気力が出なかったので、ワタルは、虎王の厚意に甘える事にした。
    ワタルが口を開けると、虎王は一つづつ、みかんをワタルの口に入れた。それをワタルが噛んで飲み込むのを見計らい、虎王はまた、みかんをワタルの前に持ってきた。
    そういった事を何回か繰り返し、虎王が持ってきたみかんは、すっかりなくなった。
    「うまかったか?ワタル」
    「うん…、ありがとう、虎王…」
    食べたみかんのためなのか、ワタルは体が、少し楽になった気がした。けれども、まだ体はだるく、少しだけ、うとうとし始める。
    「もう寝とけ」
    肩まで毛布がかけられた。ワタルは、曖昧に頷いた。
    「眠れそうか?」
    「うん…」
    「歌でも歌ってやろうか?」
    「歌……?」
    いいよ、と、言う前に、虎王は小さな声で、何かを歌い始めた。その歌を聞き、ワタルは目を見開いた。
    「虎王……」
    「ん?なんだ?」
    「……その歌…、なんて、歌…?」
    「…何の歌だかは知らん。大分昔に、教わった事があるんだ」
    「……そうなんだ」
    「ああ、そうだ!」
    「……うん、」
    ワタルが小さく微笑むと、虎王も笑って、再び歌い始める。静かでどこか物悲しく、それでいて優しい旋律だった……。
    (この、歌……どこかで聞いた…、でも、どこでだっけ……?)
    考えながら、ワタルは微睡み始める。目を閉じる時、ワタルの頭に、そっと手が乗せられた。その感触と、優しい旋律に身を任せ、ワタルは、眠りについた。

    翌朝、虎王の姿はなかった。けれども、体は大分すっきりとして、起き上がる事も容易に出来た。測ってみると、平熱になっていた。
    ワタルは、机の上を見る。そこには、剥かれたみかんの皮が置いてあった。嗅いでみると、確かに、記憶にある香りがした。

    「まあ、今日一日くらい大人しくしてなさい。学校にも休むって連絡しちゃったし」
    居間に降りると、母にそう言われた。
    「ねえ、母さん」
    「なあに?」
    「……昨日、僕の部屋にみかんを置いていった…?」
    「ええ?しないわよ、そんな事。様子は見にいったけど、あんたずっと寝てたじゃない」
    「うん、そうだよね…」
    では、やはり虎王が来たのは夢ではなかった様だった。ワタルの胸が、ふわっと暖かくなった。
    母が作ってくれた卵入りのお粥を食べつつ、ワタルは、休めて嬉しい気持ちと、残念な気持ちになった。
    (今日、虎王が来てくれれば、もっと色々話せたのになぁ)
    それでも、今ワタルがこうして起きれるのは、虎王が持ってきたみかんのおかげかもしれなかった。口に広がる甘酸っぱさを思い出し、ワタルは、居間の窓から龍神山の方を見た。
    (虎王…大丈夫かな。ボクの風邪がうつってないといいけど……)
    龍神山の向こう側から、虎王の盛大なクシャミが聞こえた気がした。
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