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    8hacka9_MEW

    @8hacka9_wataru

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    ワタルがうたた寝している虎王を見つける話。

    その日、帰り道に龍神山を登っていったワタルは、目を丸くした。
    龍神池のすぐ近くにある桜の木の根元に、虎王が倒れていた。慌ててワタルは、虎王へと駆け寄り……『倒れていた』のは誤りだと気付いた。
    虎王は、寝息を立てていた。木から落ちて、気を失っているという訳ではなさそうだった。近くに座り込んで顔を覗き込むと、何とも平和そうな顔だった。
    ワタルは、虎王を起こそうかと思ったが、あまりにも気持ち良さそうだったので、それは止めた。代わりに、自分の首に巻いたマフラーをほどいて、虎王の腹にかけてやった。今日は暖かな日とはいえ、まだ真冬なのだから、地面に寝転がったら体が冷えそうだと思ったのだ。
    虎王は、すぐに起き出す気配はなかった。ワタルは、しばらくしてから起こしてみようかと思い、虎王のすぐ側に、腰を下ろした。そういえば、今日の宿題は何だったっけ、と、柄にもなくワタルは、鞄の中から算数の教科書とノートを引っ張り出し、鉛筆片手に計算問題を始めた。尤も、それは長くは続かなかった。虎王の呑気な寝息を聞いているうち、やがてワタルも眠気を誘われ、木の幹に寄りかかり、そのまま眠ってしまった。
    そうして、どのくらい経った頃か。
    はっとして起きて、辺りを見渡すと、虎王の姿はなかった。日が少し傾きかけているので、かなりの時間、寝ていたことになる。夢だったのだろうかと思ったが、ワタルは、自分の体にかかっているものに気づいた。ワタルが虎王にかけてやった、青と赤のチェク柄のマフラーと、見覚えのある白いマフラーだった。
    虎王が、ワタルを気遣い、かけてくれていったものだろうか。白いマフラーを首に巻いてみると、虎王の匂いがする気がした。
    体を起こすと、パサリと何かが、ワタルの体から滑り落ちた。白い包みの物が、ワタルの腿の脇に落ちていた。拾って、包みを開けてみる。中には、丸くて、中央に大きなアーモンドがついた、焼き菓子が一つ、入っていた。匂いを吸い込むと、とてもいい香りがした。口にすると、とても香ばしくて美味しかった。
    虎王は、今日これをワタルと食べるつもりだったのだろうか。
    起こしてくれて良かったのに、と、ワタルは少し、残念な気持ちになった。

    その夜、ワタルは自分の部屋の机の上に、虎王のマフラーをきちんとたたんで置いた。その上に、ワタルが好きな、おまけのシール入りのウエハースの包みを乗せた。最近、ワタルが好きなものだった。虎王がくれたと思われる菓子と釣り合いが取れるかは分からなかったが、もし、一緒に食べれるのなら、これが良いと思ったのだ。
    今夜、虎王が来る保証はないし、その時、虎王が自分を起こすのかも分からなかった。
    けれど、少なくとも、虎王がマフラーと菓子を残していった事が嬉しかったのだという気持ちが、伝われば良い……と思い、ワタルは電気を消し、窓の鍵を掛けずに眠りについた。

    翌朝、机の上から、マフラーも菓子も、なくなっていた。それだけで、虎王が来たという痕跡はどこにも残っていなかった。それでも、ワタルは何だか嬉しかった。自分の部屋の窓を開け、白い息を吐き、龍神山の方を見た。

    「今度は、ちゃんと起こしてよね」

    龍神山の向こう側に、ワタルは微笑んで言った。
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