千年紀の終りに 前日譚ガルフを見送った日は、どこまでもどこまでも青い空が広がる、晴れた日だった。
「オレが死んだからって、湿っぽいのはナシだぜ!」
生前にガルフが言っていたのを思いだす。
泣いたらもうとまらない気がして、余計な事を考えないように、思い出さないように、ギルドで依頼を次々に受けて、アイードの家にはしばらく帰ってなかった。
「あ、ライラさん、良かったー!ハンターライセンスの更新が明日までなんですけどー!」
何回目かの依頼を終えて、ギルドに戻った時に受付嬢がそう伝えてきた。更新に必要な書類は自宅だ。もちろん事前に聞いてはいたが、その頃には大丈夫になってるだろう、なっていて欲しい、と一縷の望みを託していた。…が、大丈夫ではなさそうだ…。
仕方なく重い足を自宅に向ける。
自宅の玄関前で逡巡する。
ドアノブにかけた手が動かせない。
ここをくぐれば、一人になってしまったことを突きつけられる。
「はいはい、夜風も冷たくなってきたからさっさと入る」
弾かれたように振り返ると、いつの間にか、スレイが後ろに立っていた。
「え?…え?スレイ?なんで…?」
スレイは扉を開け、戸惑っているライラの背を押して玄関に押し込んだ。
扉を閉めると、ライラの顔を見て、一呼吸おいてから静かに言った。
「…泣いていいんだ。ここは、ガルフがライラのために用意した、ライラの家なんだから」
堪えていた涙がひとつ、ふたつ、とこぼれたあとはもう止まらなかった。玄関先でへたり込んで泣き続けた。
どの位の時間がたったか、ライラがふと顔を上げると、スレイの横顔が目に入った。ライラが泣いてる間、スレイはじっと隣に座っていた。
ライラが泣き止んだのに気づいて、切れ長の瞳がすっと細められた。
―ああ
―自分はもう独りではないのだ