休日「あ、安達。これなんかどう?」
「どれー? おー何か文字とか入ってかっこいいな」
「うん。サイズが少しゆったりめだけど」
「部屋着にするからこれくらいでいいよ。黒沢は買わないの?」
「んーそうだなあ」
休みの日に、黒沢が住むマンションから少し歩いた所にある商店街に来ていた。部屋着として着ていたTシャツが少し綻んでいて、休日だしせっかくだから散歩がてら買いに出かけようかと言う流れになったのだ。
朝が弱い黒沢を起こすのに苦労してしまい、すっかり陽が高くなってしまったけれど、普段出歩かない時間帯だから目に飛び込んでくる日差しの強さが新鮮だった。
「じゃあ、俺が選んでやるよ」
「え! ほんと? うれしいなー」
本当に、嬉しそうに黒沢が笑う。
会社では絶対に見られないリラックスした雰囲気を纏っている彼を見ると、なんだかこっちの心までふわりと暖かくなる。
「どうしたの?」
「あ、いや、なんでもない」
慌てて選ぶために横を向いたけれど、一瞬赤らんでしまった頬を見られただろうか。いや、バッチリ見られたな、これは。
「こ、これなんかどうかな」
その証拠に、黒沢の目尻が下がっている。本人は無意識みたいだけれど、俺のことが普段以上に可愛いとか思っている時にする表情だ。
「安達…」
「ストップ! お前が言いたいことはじゅうぶん伝わってる」
手で制するようにするとにこやかな笑みを浮かべて腕を掴まれた。
「ほんと? もう魔法使いじゃないのに?」
「わかるよ。お、俺だって…」
「うん?」
俺が少し慌てるの見てますます黒沢目尻が下がっている。
「お前の事可愛いっておもってんだからなっ」
早口で一気にそう言うと、黒沢の動きが固まった。
「黒沢?」
声をかけると黒沢の頬が少し赤くなる。
「切り返されると思ったけど、可愛いなんて言われるとは思わなかった」
「カッコいいし可愛いよ、黒沢は」
「もー、どうしたの今日は。すっごい嬉しい事ばっか言ってくれるね」
「付き合い始めて何ヶ月経ったと思ってるんだよ。俺だって少しは成長してる…と思うぞ」
「うん、そうだね」
黒沢が、目尻の下に皺が深く刻まれるほど思いきり破顔する。
うん、こんな休日も悪くないな、と思った。
おわり