ワンドロ お題:コーヒー「焔、何か飲むか?」
バーの1階、隅のカウンターに腰掛ける焔に声を掛ける。
「ん、あぁ、じゃあコーヒーで」
だろうなと思った。以前きみが飲んでいるのを見たから。
「お前がそういうこと言うなんて珍しいな」
「いいだろう、たまには。」
そういう気分のときだってある。以前寶に教わったように、ドリッパーにフィルターを広げて、挽いてあった豆を入れる。熱湯を少しずつ注ぐ。香りがふわっと2人きりの空間に広がった。
「砂糖は?」
「いらねえ」
「ミルクは?」
「うーん、いらねえ」
2人分のブラックコーヒーが入り、焔のすぐ隣ではなく、ひとつ席を開けた隣に座った。
澄んだ黒色のコーヒーは、覗き込む僕の顔さえ映す。特に会話もなく、ただコーヒーの匂いと2人がいるだけ。人間界に来てからというもの、紅茶を気に入っているため、コーヒーの香りはまだ慣れない。焔はよくコーヒーを飲んでいるが、この香りが好きなのだろうか。
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