「もう少し、酔っていかれませんか。今日はそういう気分なんです。」
揶揄うように唇で弧を作ると、カウンター内に置かれていたワイングラスを煽る。空になったグラスは粗雑にシンクへ置かれた。
分針が真逆の方向を指す頃には2人はソファに雪崩込んでいた。硬く薄い手の上に重ねられた手のひらはシャイロックのそれよりひと回り大きく厚い。その指が細く節の高い指に絡まり、無骨なブーツに包まれた脚が器用に、細い脚をソファの上に誘う。カインはシャイロックのスタイと胸元のボタンを外し、かさつく手で白く薄い胸板を撫でた。カインの肩に伸ばされた手は、拒んでいるようにも見えた。しかし、カインは駆け引きをする素振りも見せず、物足りなげに開く口元に舌を差し込む。鈍い月明かりに照らされた銀の糸が引いた。がっしりとした腕がもう一度とばかりに細いあごを掴む。
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