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    「DRIFTER」の長めのあとがき

    2022/12/18発行「DRIFTER」の長めのあとがき本文のネタバレ解説になります。
    すべてを解説しすぎて味気なく感じられる方もいるかもしれません、読後感を損いたくない方はご遠慮いただき、大丈夫そうな方のみご覧ください。


    ::::::


    構成について

    ネロ、フィガロの話のweb掲載時は「真木晶を忘れたあとの話」としてそれぞれ展示し、本ではネロ、クロエ、フィガロの短編はすべて「真木晶の再訪の話」だったという形で時系列を意識して再構成し一本の物語にしています。

    真木晶不在の話を描く予定が、思った以上に真木晶の話になってしまい、期待と違うよという方がいたら申し訳なかったです。

    最初は3人の話をそれぞれ別々に描こうと思っていました。生活の端々に真木晶を見つけられる話になればと題材を衣食住に割り振りました。次に各話の後に晶視点のSSでも差し入れればお話にふくらみが出るのではと考えました。そうして晶視点の話を考えるうち、彼女を主体性のある主人公として描いた方がいいのではないか、彼女がふだん抑えがちな感情を描いてみたいという気持ちがむくむくと高まり、今回の構成でまとめました。
    絵を描くのが苦手でいつもものすごく時間をかけてしまうので、描いている間に構成についてあれこれ考える時間がありすぎたんだと思います。今回は自分の不得手が面白い結果につながってよかったです。

    真木晶さんって、魔法舎の中にあって異世界人で異種で(女性の場合は)異性で、孤独だと思います。もしも誰とも恋愛状態にならないと決めているとしたらさらに。それなのに「本当の孤独を知らない」と言った控えめすぎる真木晶のことがずっと気になっていました。なので今回描けてよかったです。
    以前出した2冊の本で彼女をあまり魅力的に描けなかったんじゃないかという心残りも、今回のモチベーションになりました。でもあいかわらず彼女を描くのは難しかったです。

    そんなわけで今回の本はそれぞれの魔法使いの個性も描きつつ、真木晶の心を描こうと決めました。その上で彼女がたとえ本当の孤独を知ったとしてもそれを否定しない話にしたいなと思いました。


    ネロの話

    お料理キャラが好きなら一度は憧れるプルースト効果というものを私も描いてみたいと思って描きました。(匂いや味をきっかけに過去の記憶が蘇る現象、効果。プルーストが『失われた時を求めて』の冒頭で使ったのが有名でこの名前で呼ばれているらしいです。)

    まあ、それでも思い出せないんですけどね。

    後半で出てくる照り焼きサンドを頼む女性は真木晶です。「テリヤキ」を「照り焼き」と認識している人物は作中では彼女だけです。一読目では気づかなくてもいいように作ってあるので、再読で気づいた、再読では賢者に感情移入できたと感想いただけてとても嬉しかったです。実はTwitterに単独で上げた段階で気づいてくださった方もいて、驚きました。

    ネロが名前を読んでくれずあだ名を多用することを今は寂しく感じますが、真木晶の名前が忘れられたとき、あだ名という新しい名前を与えてくれる行為がとても愛情深いものに感じられると思いました。

    ネロが恐れながらも他人との関係を自分の言葉で(すごく遠い位置にですが)置き直しているのが愛おしいです。


    クロエの話

    先にweb展示したネロとフィガロの話が感傷的だったので、クロエの話は絶対に出会いを肯定的に生かしている話にしよう!明るい話にしよう!と意気込んで描きました。
    視点をほぼ対話者(晶)に固定したので画面に悩むかと思ったのですが、クロエがいっぱい喋ってくれたので埋まっちゃいました。セリフが多くて読みにくかったかと思います、すみません。クロエがおしゃべりだとかわいいなと思ってつい…

    ネロとフィガロの話を名前に関するエピソードで揃えてしまったため、クロエで名前の話を出すにはどうしようかなと悩み、最終的に友だち候補として名前を聞くという落ちにまとまりました。クロエとなら何度でも友だちになれそう!という期待をこめて。記憶の喪失という苦い経験があったとしても新しい友だちができたらという期待が止められないところ、傷ついてもわくわくが止められないところがクロエのチャームポイントだと思っているので、それを描けてよかったです。

    フィガロの診療所に着て行った白いフードの洋服はほぼ賢者時代のものと同じデザインですが、これはクロエの中に過去のあの服への特別な感情が残っていて、目の前の女性の魅力をいちばん引き出す服として再現されたとイメージしています。

    ネームが多すぎて削ったのですが、お店の設定として「平均待ち時間3~5年。あなたが腕のある魔法使いなら他人の予約を奪うのが手っ取り早いだろう。予約譲渡に生存有効の署名が必要なので殺さないように注意。」というものがありました。晶の予約は後述しますが他人から譲り受けたものです。その上で「西の魔法使いらしく店主都合により予約を反故にされることも。あきらめよう。」という設定もありました。
    喜んで仕事を受けているうちに他人の欲望で予約がいっぱいになり自由なはずなのに店に缶詰めになる姿もクロエには想像できました。それをどう思っているのかラスティカがふらっと遊びに来てはクロエを連れて旅行に出たりしちゃうといいなと思いました。閉じ込められているクロエを連れ出すのがラスティカ。花嫁を鳥籠に閉じ込めるラスティカがクロエには自由に羽ばたいて欲しいと願う種類の愛が大好きです。


    フィガロの話

    衣食住にこっそりと残る真木晶の話が描きたいと思い、ネロとクロエは当然のように決まったのですが、住はちょっと無理をしてフィガロをねじ込みました。
    とまり木を探していると例えられるフィガロの前に「真木」の名前を持つ人物が立っているということをフィガロにも知って欲しかったからです。個人的に大好きで大切にしている設定です。

    漫画ではセリフ・絵・モノローグの三つの視点を一度に伝えることができますが、そのうちの一つをずらす表現が好きで(例えば作中では; ありがとう・笑顔・おまえのことなんかどうでもいい)、フィガロという複雑な人格にはその表現がよくはまるなと思いました。
    フィガロに限らず私たちの中にはいつも複数の感情が渦巻いていて、それを他人に伝えきれなかったり自分でも整理しきれないことに苦しんでいるんだと思います。

    自分で社交が得意だと思っているフィガロ、他人に弱さを打ち明けられない嘘をつきがちなフィガロは表情が豊かだろうと思っているので、彼の顔を感情的に描くのは楽しいです。(公式からも「表情身体共によく動いてくれる」という言及がありますよね)
    人が感情を揺らす瞬間を描くのが好きです。

    「全部に大丈夫だよって答えてあげる」はうれしいようなさみしいような不思議な言葉で、フィガロを象徴するような言葉だなと思います。
    この言葉をかけられた晶は、単にやさしくされてうれしかっただけじゃないと思っています。やさしかったり、人を助ける能力を持っていたり、でも相手の心を汲む以上に分析的でやりすぎてしまったり、自分をよく見せたがったり、自分のさみしさは隠してしまったり、そういうフィガロらしさ全部が見つけられて苦しくもうれしくもあったのかなと思っています。(このあたりもセリフ・絵・モノローグが錯綜するようになっていますね…分かりにくくてすみません、癖ですね)

    魔法使いと賢者の関係性が好きで、フィガロにとって何が起きたら真木晶が特別な存在になるだろうとよく考えます。今回は特別な感情があったか絶対に思い出せないことで逆に特別な存在になってしまう話になったのですが、もっといい展開を別の機会では考えたいです。
    あれだけ強い加護魔法をかけたのだからきっと特別だったのだと私は思いたいのですが、フィガロは気づきたくないみたいですね。
    フィガロには一番辛い話を用意してしまったのですが、真木晶が帰ってきて、彼が弱い部分を隠し持っていると知る人がいる、それに心を砕く人がいる、その事実がこれからの彼の幸せにつながるといいなと願います。

    テリヤキ/照り焼きの件と同様、真木晶をマサキさんと音で復唱しただけのフィガロにはこの名前に木のニュアンスがあることは分かっていません。また下の名前を呼ぶには早いなと思い苗字を呼んでもらいました。


    ムルの話

    議論好きのムルの質問攻めにあうとなぜだか勝負のような、勝敗のつくゲームのようなものとして会話に参加してしまう人が多い印象です。ですが本来なら会話というのは勝敗ゲームではなく協力ゲーム、相手を打ち負かすものではなく参加している全員が成果を得て喜べるものでもいいはずです。
    真木晶は後者の考えで会話をしたい人かなと思います。ムルに勝とうとなんてしないと思います。意見を討論や多数決で決めたくない人なんじゃないかなと思います。彼女の誠実はそういうところに出るんじゃないかと思います。

    ムルが欠片を渡した理由は、真木晶の誠実に心打たれたからではもちろんないです。彼女が誠実などというものを貫いた結果、自分と同じ未知の探究にたどり着いたからです(あとは少しの負けず嫌いもあるかもしれません)。ムルがどうやって感情を動かすのか私にはまだよく分からないのですが、その別の道からやってきた一致を喜ばしく感じてくれたらいいなと思います。ただただ彼女らしくした発言がムルにとってはこれ以上ない口説き文句になっていたら面白いですよね。真木晶らしいままムルを振り向かせる会話として、これが今の私が思いつく精一杯でした。

    実はここでの会話は、自分のネタ帳のムルとフィガロの会話から転用したものでした。ムルとフィガロの刃物を撫でるような危うい会話が大好きでストックがあったんです。「ムルも分からないから聞いている」は、フィガロにとっては自分の負けないフィールドに論点をずらすために放つ賢しい言葉になる予定でした。同じ言葉を真木晶がしゃべったとたん「分かりたいと思ってくれる」と続きとても誠実な発言になったので自分でも驚きました。会話って不思議ですね。

    この本は3周年ストまで読んで描きました。新しい世界でも大切なものが見つかること、大切なものの置き場には容量があり何かを取り出していかなければならないこと、だから忘れたくないものを記録に残し伝えていくこと。3周年ストでゲストキャラが学ぶことはそのままいつか元の世界に帰る真木晶にも敷衍でき、正しくて前向きで少しさみしいなと思っていました。だからそんなときムルの言ってくれた「たとえ見えなくなっても、外に出て、もう一度、この世界を見る方法を探すのはどう?」「俺なら何度でも、愛する人に再会できるまで探究する!何かを追い求めることはこのまま死ぬより命を賭す価値があるよ」という言葉があまりにも嬉しく、泣きました。あの世界に帰るという選択肢も自信を持って描くことができました。

    好きという感情がいつか揮発していくことはうっすらと分かっています。今の好きが消えないうちに今回のような本を描けてよかったと思いますし、いつか薄らいでしまうだろうあの世界に入りたいような叶わない願いを晶ちゃんに託して世界を渡ってもらった気持ちも少しあります。


    真木晶の話

    この部分は自分の捏造が多く、またエピソードも薄く、申し訳ないです。

    真木晶さんの他人の猫に餌をやりにいく習慣、同じ習慣を持っている方がいたら申し訳ないのですが、私にはすごくさみしいものだと感じられました。いいなと思うものを手に入れない状態。このエピソードをきっかけに真木晶さんは何かに熱烈に恋をしたことがないんじゃないかなと勝手に想像を巡らすようになりました。

    本当の孤独を知らないと言ったのも、強く求めたものがなかったからではないか。孤独と愛は裏表で、世界を渡るほど好きなものができたなら孤独も現れるのではないかなと想像しています。
    本当の孤独を知ったとしたら、それは魂を守った対価です。価値です。

    今回は真木晶の心を描きたかったので、彼女の誠実ややさしさのような綺麗な面だけを描くのは避けようと思いました。彼女が苦しんだり傷ついたりする場面もきちんと描きたい。そのせいでずいぶんさみしい女の子にしてしまったのですが…。

    また彼女がヒロインのように大事にされるだけだったり、ヒロイックに与えるだけになるのも避けたいなと思いました。
    彼女が魔法使いの中に残せたものがあるなら、同じように彼女の中にも魔法使いたちから残してもらったものがあるはず。魔法使いから教えてもらった「自分の魂を守る」と彼女がもともと持っている「誠実に他人とつながろうとする」、その二つが実るようなお話になればと思いました。…なりましたかね?

    描いてみて分かったのですが、魂を守ったからといって必ずしも幸せになれるわけじゃないんですよね。でも納得はいくのかなと思っています。

    ちなみに、彼女があの世界に帰って一番最初に行った場所はベネットの酒場です。誠実な彼女ならまずムル本人に欠片を返しに行くだろうからです。
    ベネットの前で立っている晶に「人間は入れないよ」と声がかかる、「あなたに会いに来たんですよ」と欠片が示される、そのとたんただの人間だと思って声をかけた相手が急に興味深い存在だと気付くムル、という流れを考えていました。
    なのでこのあとの晶のパトロンはムルです。クロエの店の予約もムルが都合しました。晶の抱えている未知はムルの興味を引きますし、「人間の女の子を飼っている」と言うとシャイロックがとても面白い顔をするのでムルもこの状況を気に入っています。
    その後ネロ、クロエ、フィガロの順に訪問しますが、これは居場所がわかっていて、なおかつ初対面の客を受け入れる用意がある場所だからです。彼女はできる限り相手の望む他人として会いにいくと思います。


    結末について

    真木晶のことは絶対に思い出さないという想定で描きました(これから先のことはわからないので読んでいただく方には自由に想像いただいて大丈夫です)。
    奇跡が起きる結末ももちろん救いがあって大好きですが、今回は奇跡なんか頂戴しなくても私たちは幸せに向かって歩いていける!という気骨を示したいと思い、こうしました。

    ハッピーエンドと言い切れない話を描くとき、こんな話を描いて意味があるのかなと悩む時間がいつもあります。今回もそうやって落ち込む時間があったのですが、ふと自分の本棚を見返してみると(今はまほやくのキャラ名の元ネタ小説が目立つところに置いてあります)意外とハッピーエンドの物語ばかりではないなと気づきました。ハッピーエンドの物語でなくても長く残ることもあるし人の支えになることもあるのだなとぼんやりと思いました。
    二次創作でそこまで考えなくてもとも思いますが、今回は過去の読書が自分を支えてくれました。

    幸せは寄せては返す波のようなもので、どのタイミングで話を終えるかで印象が変わってしまうと思います。今回は波の引いたタイミング、晶の泣き顔で物語を締めることにしました。
    理由のひとつは、今回の本ではだいぶモノローグに頼ってしまい心の内面を文字に起こしすぎてしまったからです。心を分かち合えないことこそ今回描きたかった孤独というものの出発点なのに。なので最後くらいは読み手の方に詳らかにしない真木晶の感情を描いておこうと思いました。自由に想像したり共感してくれればうれしいです。
    もうひとつの理由は、きれいごとで終わらせるのはやだなと思ったからです。きれいごとを言うのはわりと好きですし、キャラクターにも言わせてしまいがちなのですが、だからといってそれが完璧にまかり通ると思い込むほど賢者は愚かではないよと示しておきたかったからです。傷つくこともわかって真木晶はあそこにいます。

    このような結末のお話を受け入れていただけるか不安でしたが、希望があるというお言葉もいただけて心からうれしかったです。


    BGMとタイトルについて

    タイトルはキリンジの「Drifter」からお借りしました。「Drifter」は決意の歌かなと思っています。サビで繰り返される「この街の空の下あなたがいるかぎり 僕は逃げない」「この僕の傍にいるだろう?」に対し、あなたからの返事は決して帰ってきません。それでも他人に流されず自分の生き方を選ぶという決意の歌です。魔法使いたちに忘れられたあとも魂を守ろうとする賢者にぴったりの曲だと思います。冒頭の「交わしたはずのない 約束に縛られ」の歌詞から最高なのでぜひ曲で!聴いてみてください。
    「ムーンリバー」は上記の「Drifter」にも引用されている曲です。今回あらためて聴きましたが、めちゃくちゃいい曲ですね。歌詞全編にでてくる“you”が示すのは、ムーンリバーのことであり、また忘れたくない子供のころの夢の例えだと一般的に理解されているようです。you=ムーンリバーはほかにもドリームメイカー、ハートブレイカー、ハックルベリーフレンド(子どものころ一緒に冒険遊びをした大切な友だち)にも例えられています。それを考えると今回は賢者の魔法使いたちをyouに当てはめてもいいかなと思っています。「ハッピーエンドが待つ虹のふもとを あなたと目指そう」という歌詞がとても素敵な意味を帯びる気がします。
    ムーンリバーをタイトルに持ってこようかとも考えたのですが、ロマンチックな印象を与えすぎると思い、より険しいDrifterを採用しました。ムーンリバーもまほやくの世界観に美しく合う言葉なのでいつか使ってみたいです。
    表紙はムーンリバーを渡ってくる晶をイメージして描きました。ムーンリバーをdrift(漂流)してあの世界に帰って行きます。


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    ここに書いたことは本来なら本に込めるべきことですよね。いろいろ考えましたが本の中に込められたのはごくわずかで、表現も拙く、笑っちゃう話かもしれません。それでもいろいろ汲み取ってくださった方がいてうれしかったです。また頑張りたいなと思えました。

    感想をくださった方もありがとうございました。本当に励みになりました。いただいたお言葉であらためて描いたものを見返すこともあり、人の意見で自分の考えも豊かになるようでとてもうれしい経験でした。これからも心細くなったときに何度も読み返すと思います。
    まほやくをお好きな方とお話しする機会がなかなかないので、感想を送っていただいたときにわ〜いっぱい話しかけてもらった!って喜んじゃっています…
    気軽に送っていただけるとうれしいです!

    ここまで読んでくださってありがとうございました。
    偉大な原作に感謝と敬愛を込めて。


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    この話を描きながら同じ「記憶のある元賢者があの世界にいる」設定でクックロビン前賢説をよく妄想していました。彼がなぜ月蝕の館に向かったのかあたりが熱い展開になって楽しいです。
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