計算違いだったと後に恋人は語るカドモリ魔力供給ネタ
「ゴチソウサマ」
藤丸が使う食後の挨拶を片言で伝えてきたモリアーティの唇が自分の唾液でてらりと光っている。それを舐め取る真っ赤な舌が、白い歯が、濡れた口腔が、いつまでも頭から離れない。
「っ、……」
曲がり角の出会い頭で目が合った。ジェームズ・モリアーティ。トレードマークの軍服に重そうなマントを付けているいつもの姿だ。これまでなら何のことはない日常で、他のサーヴァントにするのと同様カドックは何も考えず道を譲っただろう。
「あ、悪い……」
相手の顔が直視できず、不自然に目線を逸らしながら後退りする。そのまま踵を返そうとした瞬間相手が言葉を発した。
「待ちたまえ。カドック・ゼムルプス」
「な、なんだ……」
少し腰が引けている自覚がある。男は下から覗き込むように漆黒の瞳を無理矢理合わせてきた。その白い肌も整った鼻梁も染み付いたインクの香りも何もかもが毒だ。
すうっと、猫のような目が細くなる。
「君……私を避けていないかネ?」
避けてなんかいない、と嘘をついたところでこの賢しいサーヴァントは絶対に信じない。これまで何度か彼と組んでレイシフトしたこともあるから全く知らない仲でもないというのがカドックをさらに不利にさせた。
「私、何かした? ……オホン、まぁ、君如きに避けられたところで別にどうとも思わないが」
すぐに取り繕ったものの、一瞬だけ見せた気遣わしげな表情をカドックは見逃さなかった。
ちくり、と良心が胸を刺す。サーヴァントにも心があるのはカドックとて痛いほど理解していた。ましてや何度か助けてもらっている相手だ。
「わ、悪かったよ……」
理解はしていても、この感情をなかったことにはできないのだが。小首を傾げ、普段とは打って変わって歯切れの悪いカドックを少し観察したモリアーティはぱちりと目を瞬いた。
「……まさか先日の魔力供給が恥ずかしかったのか?」
「うっ……」
そう、先週のことだ。レイシフト先で藤丸とはぐれた上に敵に囲まれ、頼りはモリアーティだけとなってしまったタイミングがあった。宝具を撃たなければ生き残れない状況で、カドックの魔力をモリアーティに分け与えるしか選択肢がなく──彼と口付けで魔力供給を行った。
「魔術師とは、あの程度のことを忘れられないほどピュアな存在だったかネ?」
揶揄の多分に含まれた悪い笑顔だった。ああ、弱みを握られたのだと本能的に察する。しかし、反論できない。自分でもどうかと思うのだから。
カドックが怯んだ顔をじっくりと眺めてモリアーティはさらに笑みを深めた。
「これでも君のことはそこそこ気に入っている。どうせ忘れられないのならば……もっと楽しい思い出を作ればいいのではないかネ」
いつの間にか壁際に追い詰められていた。鼻先が擦れ合うほどの距離でクスクスと悪魔の囁きが耳に注ぎ込まれる。
頭がぼうっとする。こんな男に誘惑されるなんて破滅への道筋だと分かっているのに美しさに抗えなかった。
「……君の魔力は中々美味だ。誇りたまえヨ」
すぐ近くだったモリアーティの部屋に連れ込まれ、口腔に舌をねじ込まれた。唾液と一緒に魔力を少し奪われた。薄暗い部屋の中、爛々と黒の瞳が輝いていた。
高揚しているのか、いつもは白い頬がほんのり色付いている。重力を操作されてふわりと脚が浮きベッドへと倒される。
「怖がることはない。私と一緒にワルイコト、しようじゃないか」
カドックの腰に馬乗り状態で服のジッパーを弄びながら、重たげな装飾を消していく。ワイシャツとスラックス一枚になったモリアーティはもう一度カドックの唇に軽く口づけた。
「んんッ!? ぁ、ふ、は…ぁ……!?」
こいつが悪い。
両腕を引いて前傾させて、驚いて半開きの唇に今度はこちらから舌を捩じ込んだ。びく、と肩が上下する様が獣性を呼び起こす。小さな口の中を全て舐め回すかの如く貪った。
ひく、ひくと腕の中で震える身体が可愛らしくて淫らで、キスしているだけで腰が重くなっていく。
くったりと出来上がってきたところでくるりと身体を反転させ、カドックはモリアーティを組み敷いた。
「……へ?」
目をまん丸にして、まじまじとカドックの顔を見上げる。もっと色々な顔が見たくてワイシャツのボタンを外し、胸元に舌を這わせた。
「あ、ひぁ、っ、待て、待ちたまえっ!」
噛んだのはやり過ぎだろうか、とピンク色の乳首に吸い付きながら上目遣いにモリアーティの顔を見る。涙目になった瞳が分かりやすく狼狽していた。
「君、まさか私を……抱くつもりなのか!?」
「今更怖気付いたとか言うなよ」
モリアーティの下肢を脱がし、頭をもたげかけている雄を弄ると涙のように先走りが垂れた。それを指で取り、慎ましく閉じた穴を撫でる。その一つ一つの動きにびくびくと反応する美しい肉体に見惚れてしまう。
「あ、違、ひぅ、そうではなく……」
「なら、いいだろ」
平素のカドックであればモリアーティの様子からお互い行き違いがあったのだと理解できただろう。だが茹で上がった頭ではここに自身を押し込めば、どれほど気持ちいいのだろうという妄想しか出力されなかった。
足を開かせ、やや性急に中を探れば強い締め付けが指を拒んだ。それを宥め、モリアーティの体内を自身のための雄膣に仕上げていく。
「ヒ、ぐッ、ぁ、……やめ、っ……。いっ、あっ?♥♥」
苦しげであった声に艶が混じってくる。染み一つない、真っ白な肉体がほんのりと桃色に染まり悶える身体が艶かしく暗がりに浮かび上がった。この姿だけで達してしまいそうなほど興奮しているのを自覚する。
「いれるぞ」
「や、ひゃ、ん、く、ぅ、ぁ……っ♥」
半ばほど埋めると、モリアーティは顔を隠すように腕を上げていた。それが不満でその指を絡め取りシーツに押し付けた。
「綺麗なんだから、隠すな」
「ヒっ♥」
ぽろぽろと、真っ黒な瞳から涙が溢れている。それを唇で吸い取りながら腰を進め、ゆるゆると前後に穿った。
まだ固さのあった蕾が徐々に解れ、カドックを歓迎するかのように吸い付いて絡まってくるのが堪らない。まだ達したくない、と小さく息を吐きやり過ごした。
「……ッぁ♥ちが♥ぼく、こんな♥♥はずじゃぁ……ひぁん!♥♥♥」
ちがう、と言いながらそのペニスからは白濁混じりの愛液がとめどなく流れ落ちているし、自ら快楽を享受するかのように腰が揺れていた。
閉じられない唇を塞ぎ、もう一度舌を絡めて魔力を与える。それを喜ぶかのように瞳が揺らいでいく。一段と雄に媚びるように絡みつく身体が絶頂が近いことを告げていた。
「イきそうなのか?」
「きもひいっ♥イく♥いくぅ♥♥」
どくどくと、欲望の丈を中に出しながら鎖骨にも首筋にも所有印を付ける。全て出し切ろうと緩く腰を動かしていると、ぴゅく、と少量の精液がその腹に散った。
「かどっくぅ……♥」
舌足らずに名前を呼ばれて視線を合わせれば、ふわり、花の綻ぶような笑顔を向けられる。心臓がうるさい。この悪どいサーヴァントがこんなに可愛らしく笑うなんて、今まで知らなかった。
「あ♥また♥♥♥おっきく…ッ♥♥」
再びモリアーティに体重をかけて腰を進める。先ほどの行為で甘く蕩けた蜜壺を突き上げれば、喘ぎ声と共に背中に腕が回されてたまらない気持ちになる。その心の赴くまま明け方まで身体を重ねたのだった。
「……」
ふと目を開けると腕を枕にしてモリアーティがすやすやと眠っている。夜目の効くカドックはその白い肌にいくつもの噛み跡や印が散っているのを見た。
まさか他人のサーヴァントとここまでしてしまうとは。己の自制心にはそれなりに自信があったが、今回の一件で完全に打ち砕かれた。
乱れた髪を直してやりながら、その髪の手触りを堪能する。重たげな白銀の睫毛がゆっくりと持ち上がり、ぼんやりとカドックを映した。
「あ、起こしたか……」
「ん……」
モリアーティは緩く微笑んで懐いた子猫のように胸板に擦り寄ってくる。ああ、と気持ちだけで天を仰ぐ。
──こんな可愛い生き物だったのか、こいつ。
ほんの少しだけ力を込めて、カドックはモリアーティを抱きしめた。