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    ho_kei_trab

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    ho_kei_trab

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    【ぐだンド】周囲から俺様攻めだと思われているンド様のの俺様攻めに見える部分だけ書きました。
    おいたわしいジュナくんを添えて
    楽しかったです

    驚天動地の勘違いを 朝の冷気を切り裂くように、弦の音が静かなシミュレーションルームに響いた。
     的の中心に突き立った矢を確認し、アルジュナはわずかに頷く。
     今日は良い一日になりそうだ。足取りも軽く食堂へ向かう。
     しかし扉を開けた瞬間、その予感は一瞬で霧散した。
     いつもなら聞こえる雑多な談笑が、妙に浮ついている。ちらちらと何かを窺うようにアルジュナを盗み見るような視線まで感じる。
     ──前言撤回。嫌な予感しかしない。

     軽い朝食を終えて食後のチャイを飲んでいると、向かいに腰掛けてきたのはイアソンだ。クラスも戦い方も異なるが、色々と縁があって彼はアルジュナにとって気の置けない友人だった。
     その友人は何というか、見たことのない顔でアルジュナを見つめた。何度か口を開いては閉じ、とても言いづらいことをこれから言わなければならないとその顔に書いてある。
    「……なあアルジュナ。お前の父ちゃん、マスターに手出したってさ」

     ごふっ!
     熱い液体が気管に入り、アルジュナは盛大に咳き込んだ。話しかけるタイミングを誤ったことを悟ったイアソンに謝罪と共にナプキンを渡されて口元を抑える。
    「っ!? っ……っ、説明を」
     辛うじてそれだけは発言できた。ちょうど隣で食事をしていた岡田以蔵が茶碗片手に口を挟んでくる。

    「昨日の宴会の途中でなあ、帝釈天様がマスター連れて消えよった」
     インドラはインドから遠く離れた日本でも信仰される神だ。日本語名を帝釈天という。信心深い日本出身のサーヴァントはあれやこれやとインドラに供え物をして、それで気分を良くしたインドラが酒宴を主催して──近ごろはそれを繰り返している。以蔵もその一人だった。もっとも彼はタダ酒目当ての比重が高いだろうが。
     だから、彼はインドラが偶然居合わせたマスターをその酒宴に招き、二人で話していたところまでを目撃していた。そして衆人環視の中、インドラは一瞬のうちに神隠しを成した。

    「このわしですら反応できんかった。さすがは帝釈天様じゃ」
     感服したような、どこか悔しそうな顔で以蔵はその場面を回想した。基本的に善神の類いではあるが神は神。召喚されたわけでもなく自主的に居着いているという経緯もある。だから周囲のサーヴァントの殆どがインドラ神がマスターに何かすれば即座に動く心算で酒を飲んでいたのだ。かの神には無駄な警戒だったが。
    「ほいて慌てて探したら……」
     宴会に参加していたサーヴァントが手分けしてカルデア内を捜索したがしばらく行方不明になっていた。
     マスターのバイタルサインも一時消失し、もう少しで警報が鳴るところだったらしい。
     以蔵、坂本龍馬、お龍も同じくカルデアのあちこちを探し回っていた。お龍がマスターの自室を指差す。
    「あそこから匂うぞ」
    「っ、勝手に入って申し訳ないが緊急事態だ。マスター! あ……」
     お龍に導かれて立香の私室に入った以蔵と龍馬の目の前で──

    「マスターと帝釈天様は、それはもう仲睦ましゅうて抱き合うちょったがよ……」

     その場面は絶対に想像したくない。
     嫌な頭痛がアルジュナのこめかみを叩いた。鍛錬とチャイで温まった身体が、一気に冷える。
    「……イン、ドラ神……」


     慌ただしく食堂を出たアルジュナは足早に廊下を歩いていた。折よく向こうから目的の人物がやってきた。
     藤丸立香――我が主人、我がマスター。
     青い瞳がこちらを見て微笑む。少なくとも元気そうではあるようで内心胸を撫で下ろした。
    「アルジュナ? どうしたの」
     鬼気迫る顔で向かってくるアルジュナを見て少々面食らったようだったが立香は一見すると普段通りに見えた。変調をきたしていないかどうかを探りつつも、まずアルジュナは主人に頭を垂れた。
    「ち、父がマスターにご迷惑を……」
     アルジュナが何を言いたいのか察した立香は言葉を選ぶような間を取った。そして。
    「迷惑は、してないよ」
     静かに、しかしきっぱりとそう言い切った。しかしたった一言で安心できるわけもなく重ねてこう問うた。
    「……同意の上、なのですか?」
     もしも──流石にないとは思いたいがマスターを無理矢理どうこう、という事があれば父神インドラとはいえ容赦しない。眦を強めたアルジュナの内心をどう推し測ったのか立香が眉を下げた。
    「あー、アルジュナにとっては複雑だよね」
     この期に及んでアルジュナの立場などを心配する言動に対して苛立ちすら募る。それに任せてアルジュナは立香に一歩詰め寄った。
    「私の事などどうでも良いのです! 良いですか、かの神はヒトの尺度では測れない方。貴方の常識など一切通用しない。恋多き方でもある。今は良くても、いずれ──」
     勢いのままマスターの両肩を掴んだ瞬間、それを拒むかのようにパチッと音がした。アルジュナはそれがただの静電気などではない事を知っている。自分の失態を悟り、慌てて手を引っ込めた。
     急に湿度を増してざらつく空気が頬を撫でる。それは研ぎ澄まされた刃を押し当てられたかのように剣呑で。
    「──いくら息子とはいえ、神の物に気安く触れるな」
     雷鳴のような声と共に白髪の男が現れた。
     彼の神こそ雷霆神、天空神インドラ。理不尽な自然現象の擬人化とも呼べる神の長い腕の中には、当然のように立香が収まっている。堂々たる抱擁は所有の証のようだ。
     眉を顰めて軽く咎められるだけでアルジュナの背中から悪い汗が噴き出てくるようだった。
    「ぁ……申し訳……ありません……」
     気圧されるアルジュナに、立香は笑みを向ける。
    「……アルジュナ、ありがとう。でも大丈夫だよ」
     その幸福そうな顔を見て、アルジュナはもう何も言えなかった。ズキズキと痛む頭を抱え、医務室の方へとぼとぼと歩き始めた。
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