双子ループ17歳、ある夏の日の午後。フロイドは死ぬ運命にある。理由はない。ただそういう運命であるからと。
一回目は森の奥で
二回目も森の奥で
三回目は飛行術で箒から落ちて
ジェイドは三度目の繰り返しの時に、絶望のなか、白い空間に飛ばされる。
そこには見たこともないような生き物がいて、それは無邪気に笑った。
「なぁジェイド・リーチ。ゲームをしないか?お前は今から目覚めるが、10日後にあの兄弟はまた死ぬ。そういう運命だ。しかし俺ならその運命を変えてやる事だってできるんだ。ゲームのルールは簡単。お前の周囲の人間からお前に関する記憶を全て抜く。お前が目覚めると同時にジェイド・リーチという存在は無くなるんだ。
わかるか?愉快だなぁ?さてお前の勝利条件は、10日後までにお前の兄弟にジェイド・リーチである事を思い出させる事。そうすればお前の兄弟は無事死なずに生き延びられるってわけだ。
ただし、負けたらどうなるか…それは」
ジェイドは藁にもすがる気持ちで条件を呑んだ。それしか道はない。ここにはいないアズールが聞いたらきっと呆れるだろうと思うがそれしかないのだ。
次にジェイドの意識が浮上すると、見知らぬ部屋にいた。隣のベットには少しだけ知ってるようなそうでないような人物が寝そべっている。ただの同じ寮生。
その寮生はジェイドの事を違う名前で呼ぶ。
そういう事か。ジェイドはフロイドとアズールの所へ行く。フロイドはいつものようにそこにいた。しかし二人に誰だお前?という顔をされてしまった。
空いた副寮長の座には見知らぬ男が。そいつはジェイドを見ると、二人に見えないようにジェイドに向けてにやぁっと笑う。その男は、まるで自分が最初からその位置にいたかのようにアズールとフロイドに声をかけ、二人もそれが当然であるかのように振る舞う。
僕がジェイド・リーチだ!そこにいるべきはその男じゃない!
声を大にして訴えたかった。しかし、自分の名前を言おうとして違和感を感じる。うまく発音できないのだ。紙に綴ろうとしてもまるで何かに阻まれているかのように文字を忘れてしまう。
ジェイドは何か作戦を考えなければ、とふらふらとしていると、偶然監督生とグリムとぶつかってしまう。
監督生はびっくりしてすみませんと謝ると何事もなかったようにその場を離れようとするが、グリムが「なんだジェイド、オマエがそんなふらふらしてるなんて珍しいんだゾ」と。
ジェイドはびっくりする。自分の周囲の人間から記憶はなくなったはずだと…そこで気づく。グリムは人間ではない。魔獣だ。
ジェイドの中でいつもの悪だくみの表情が顔をだす。あちらの契約ミスだ。ならば存分にその「穴」を利用させてもらおうじゃないか。
ジェイドの沈んでいた心が嘘のように跳ね上がる。
その様子をみていた監督生は初めてみる上級生の筈なのにトラウマを思い出したかのように震え、グリムは「また何か企んでるんだゾ…」と呆れた眼差しを向けるのだった。