.憧れの人の隣に立ちたいから努力をする。なんて、当たり前過ぎて宣言するのもおかしいけれど。今まで何にも本気になれなかった私が、やっと見つけた頑張る理由はそれだった。
「あー、もう全然だめだ! 諦めてもいいかな!」
「いやダメだろ。もう少しなんだから頑張れって」
「で、でも……。……うう、ごめん。もう一回教えて」
「だからな、ここは……」
膨大な量の宿題を前に「もうやだ」と言うこと三回目。同級生のよしみで今のところ私を見捨てずに勉強を教えてくれているエースは私に優しいので(厳しいけど……)こうして面倒を見てくれる。私は頭がよくないのだ。勉強って苦手。だって何をどうしたらいいかわかんない。
ただ暗記をすればいいの? 違うでしょ? じゃあ何? 知識として身につけるってどういうこと?
私の親は勉強を私に強いたりはしないひとたちだった。子どもはのびのび自由にしているものよって笑ってた。その結果が! これ! 多少は親のせいにしたいきもち。八つ当たりだ。
この寮の寮長のリドル・ローズハートさんは幼い頃から勉強、勉強、勉強と、ひたすらに学んで生きてきたらしい。それはそれで息苦しそうだと思うけれど、現に立派に寮長を務めているのだからやはり勉強は大事だし優秀な人間は努力をするものだ。
私はその隣に並んでみたいと思っている。努力がしたい。頑張りたい。優秀になりたい。
……けど!
わかんないものはわかんない。やっぱり投げ出したい!
「……ごめん、やっぱりわかんない……」
「あーっ、いやお前ほんとバ……いや、俺の教え方が悪いのか?」
「今バカって言った!?」
「言ってない言ってない! まだ言いきってなかっただろ!」
「やっぱり言おうとしたんだ!」
「お前たち、うるさいよ」
言い争う私たちの頭上から、大好きな声が降ってきた。ピャッと固まった私と同じくエースもぴたりと動かなくなる。エースは何度か首をはねられているから余計に怯えるのだろう。私は一応、まだ未経験。……ちょっとされてみたいなって気持ちもあるけれど、そこにはマイナスの感情がついてくるだろうからできれば避けたい。