『お手をどうぞ、賢者様』 魔法舎に灯る明かりのひとつに、フィガロは音を立てずにそっと近づく。
カーテンに遮られていない窓からは、部屋の中で賢者の書に何か書き込む晶の姿が見えた。
よく考えながら記しているのだろう。フィガロには読めない彼の世界の文字を書く手を時折止めて、考え込むように顎に手を添え本を見つめる。そして書き込む内容を決めると、すっかり扱いが上手くなった羽ペンにインクをつけて、滑らかに紙面を走らせた。
しばし真剣なその様子を眺めていたフィガロは、ふう、と晶が一息つこうとしたところで窓を軽く叩く。
「こんばんは、賢者様」
すぐに音に気がつき窓に振り返った晶に、ひらりと手を振り声をかける。しかし返ってきた反応は何度か瞬くばかりで、姿が見えていないのかとフィガロは小さく首を傾げた。
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