孤島の逃避行「善逸、抱いていいか」
肩に重さを感じながら、真っ直ぐにこちらを向く彼から目を逸らして窓の外を見た。外は雲ひとつなく、夜空には少し眩しすぎるくらいの満月がうかんでいた。すごく綺麗なんだけど、これが星の光を全て打消して無いものにしているのだと思うと、少しゾッとする。俺は窓越しに見つめてくる兎からも視線を外し、フローリングの線を少しなぞった。喉が渇くな。そう思った。
俺を押し倒すこの男は、名を竈門炭治郎という。小学校低学年時代からの親友で、下手すれば家族と言っていい程に気心の知れた仲だ。彼と俺はそれぞれ、異常にいい鼻と耳を持っている。数いる友人の中でも彼からは特段澄んだ音が聞こえて、俺はそれが好きだった。音と匂いという違いはあれど、それは向こうも同じであったようで、俺たちはいわゆる共依存の関係に嵌っていった。大人になってもその関係性は変わらず、むしろ悪化して、いつの間にか俺たちは半同棲状態になっていた。その次に加わったのは、キス。月が出る晩だけというルールを俺が心の中で勝手に作っていたことを、彼はきっと知らない。
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