愛しいヒト「ただいま戻りましたよ」
千切れた右腕を掲げ軽く左右に振って笑顔を向けると、本から顔を上げた観測者の表情が一気に青ざめる。鼻から溢れ出てくる血を舌で舐めあげるのと、観測者が本を投げ捨てて飛んできたのはほぼ同時だった。怒りや悲しみに満ちた瞳は動揺で焦点がうまく合わないのか、かすかに揺れている。
「う、腕、腕が……なんで……」
「ここへ来る途中に少し。すぐに再生しないなんて、人間の体は不便ですね」
力なく垂れ下がる右手の中指を摘み上げ、ぷらぷらと振ってみる。繋がっていればちょうど肘であろう切断口から血液と肉片が飛び散った。千切れた直後は暖かかった肉片も、時間が経った今ではすっかり冷たくなっている。
「新鮮ではなくなってしまいましたが、差し上げましょうか? 貴方の頭を何度も撫でた、貴方の大好きな手ですよ」
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