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    k_hizashino

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    k_hizashino

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    2016年5月時点でのオールキャラものとなります。梅酒つくろうぜって話。

    本丸梅酒づくり 使いから帰った加州や大和守たちが荷台から積み荷をおろした時、本丸の中には爽やかで瑞々しい甘い香りが満ちた。
    「もー。つーかーれーたー」
     酒が四斗樽に三つ、触れればカランカランと音を立てる氷砂糖が蓋付きの桶に二つ、恐らく一番の重荷になったであろう、厚いガラスの大瓶が十、そして薫り高い紅青梅が麻袋に三つ。庭に茣蓙を敷き、それらを並べると圧巻であった。
    「お、随分と景気がいいねぇ」
     そんな風に目立つ場所に目立つものが置いてあるものだから、通りかかる者達は足を留めるし、口々に言葉を交わせばさざめきは本丸中に広がる。半刻も待たずして、縁側と庭先にはほとんどすべての刀剣が集まり、中には酒のにおいを嗅ぎつけてか杯やグラスを携えている者達もいる。
    「おい。呑むなよ」
    「あぁ? なんでだよ」
     酒の匂いを嗅ぎつけた筆頭とも言うべき日本号に長谷部は厳しい視線を投げ、その後ろに並ぶ次郎太刀やさもありなんという風に酒樽に歩いていく三日月宗近を静止した。
    「なんだい長谷部。こんだけお酒があるってのにさーあ?」
    「誰か器を持ってきてくれ」
    「だから呑むなと言っているだろうが」
     呑兵衛たちはぶうぶうと文句をたれ、三日月宗近は当然のように杯を求める。審神者からこの提案を聞いた時、ある程度予測できたことではあったが、しかし実際に目の当たりにした時の鬱陶しさは想像の比ではない。いっそのこと立ち入り禁止の札をつけた縄でも張り巡らせてやろうかとは思ったが、これだけの量を捌くのに人手はいくらあっても足りないのだから邪険にするわけにもいかない。
     長谷部の言葉に一旦は酒樽から離れつつも、しかしその実隙あらば呑んでしまおうという刀剣たちに対する威圧も忘れず、主から渡されたそれを長谷部は読み上げる。
    「……以上。ここにあるのはその材料だ。手順に関しては先の通りだが、質問はその都度受け付ける」
     現時点で何か質問はあるか?という視線を、庭先に集まった面々に投げかけると、最初はぽかんとしていた刀剣たちが次第に頬を紅潮させて湧きたつ。光忠やら歌仙やらが用意したのだろう黒豆をいつのまにやらつまんでいた鶴丸は「面白そうだな! それで、味噌は入れていいのか?」などと冗談を言い出し、冗談とわかりつつも味噌を入れた時の悲惨な末路に些かの吐き気を催した大倶利伽羅が鶴丸の袖を掴み、一期一振がフードを掴んだ。
    「それにしてもいい香りじゃのお。これはまっこと良い紅青梅ぜよ!」
    「えへへ、本当ですね。あ、虎さん。食べちゃだめですー!」
     紅青梅の香りを堪能しようと集まったのは陸奥守と五虎退。ころころと転がる梅にネコ科の習性が疼いたのか、小さな虎たちが五虎退の腕を飛び出して梅にじゃれつく。それを平野や秋田、前田や厚が短刀特有の素早さで一人一匹ずつ捕まえ、五虎退のまわりに固まった。
     一向に作業を開始できそうにない喧騒に、さらに一つ声が加わるが、長谷部にとってそれはこの喧騒に見切りをつけるいいきっかけだった。
    「うめのしゅうかく、おわりましたよー!」
    「一つ残らず刈りつくしてやったわ!」
     背の高い岩融がその両腕に籠を二つ、岩融に肩車された今剣が背中に一つ、中にいっぱいの梅をつめてこちらに向かってくる。
    「終わったか。ではこちらの茣蓙に置いてくれ」
    「はーい!わかりました!」
     岩融と今剣がきたことで、そちらに視線を向けた面々の意識を、長谷部は両手を叩いて自分の方に向ける。
    「それでは、作業を開始する。主に最上の梅酒を!」
     元気な声も、大きな声も、苦笑まじりの声も、小さな声も。
     一つ一つは異なるものではあったが、それでも一様に「応」と答えた。

     茣蓙のまわりにいの一番に用意されたのは洗濯用に使っている大きな桶が五つと、日よけのための屋根だった。少し土を掘り、棒を四隅と中央に組み上げて縄を粗く渡す。その上に適当に布でも掛けようかと思案していた所、どうせだからと堀川がシーツを持ってきた。どうせだからはその後五人ほど続き、重ならないように気をつけながら六枚のシーツが日よけの屋根になった。本格的な夏にはまだ遠いが、からといって長時間外で作業するには強すぎる日差しだ。白いシーツを縫うようにして入り込む日差しはただやわらかかった。
     桶の中を水で満たし、その中に積んできた梅と本丸で収穫した梅を分けて入れる。まずは丁寧に洗わなければならない。
    「こっちにホースの水を注いでくれ。まったく……真作に何をやらせるかと思えば……」
    「蜂須賀、袖が濡れてしまう」
     文句を言いながら、しかしそれでも手際よく青梅を洗う蜂須賀の袖を、後ろから小夜左文字が持ち上げる。いかんせん豪奢な着物であるから、傍から見ていると恐々としてしまう。小夜としてはもう少し動きやすい物を選んだ方が良いのではないかとは思うが、それは口にはせず、袖を持ち上げている小夜に気付いてたすきを持ってきた江雪左文字と一緒に蜂須賀の袖を括った。
    「すまないね」
    「いえ」
     礼を言う蜂須賀に短く返事をし、小夜は江雪の方を見る。内番の時もそうだが、甚平というのはなかなかに動きやすそうだと思う。
    「どうしましたか、お小夜」
    「ううん。何でもない」
    「そうですか。さて、洗い終わった梅を運びますよ」
    「はい」
     洗い終わった青梅を、空いた桶に入れ、たっぷりの水を入れる。おおよそ一時間から二時間あく抜きをする。積んできた青梅も、収穫した青梅もどちらもそれほど硬い物ではなかったから、それ以上浸しておく必要もないだろう。
     あく抜きをしている間に、手の空いた者たちで交代しながら昼食をとる。シーツを干したい刀剣が石切丸を筆頭として六人集まったので、先に干していた刀剣のシーツと入れ替えて新しい日よけができた。乱と愛染は干したシーツに顔をうずめ、そのやわらかさととろけそうな香りに顔を緩める。ともすればそのまま寝入ってしまいそうな二人に蜻蛉切と御手杵が声を掛けると、名残惜しいような表情はしたものの、きちんとたたんでそれぞれの部屋にシーツを持っていった。
     今日の昼ごはんは交代でとることもあって、時間が経っても美味しい物をということで、小狐丸と鳴狐と山姥切に山伏、薬研に鶯丸がえっちらおっちらと大量の稲荷寿司をこしらえた。燭台切や歌仙が料理当番がてらこさえた佃煮を混ぜてみたり、わさび菜を加えて辛味をつけてみたり、これでもかというほどにゴマを入れて歯ごたえを変えてみたりする。あまりに夢中で作るものだから途中でおあげが無くなってしまい、しかし味付けされたご飯はまだ残っていたのでとろろ昆布や海苔で巻いておにぎりをこしらえた。作りすぎかと思いきや、稲荷寿司もおにぎりもあれよあれよという間に刀剣たちの腹におさまってしまい、あとには綺麗な皿ばかりが残った。
     全員が昼食を終える頃にはすでにあく抜きは完了しており、梅は水からあげられていた。水からあげられた梅を紙の上に置き、布で水気をきちんととって、今度はヘタを取る作業に移る。
     梅の積まれた山は六つほどで、それぞれの山を数人程度で囲んで、手に持った竹串でヘタを取っていく。山を囲んだ面子によって、ヘタ取り作業は騒がしくもあり静かでもあり暑苦しくもあり緊迫してもいた。とりわけ戦好きの同田貫や獅子王、長曽祢、和泉守が集まった山ではヘタ取り誉を決めるための戦いが暗黙のうちに開始し、あまりに白熱しすぎて梅をいくつか駄目にしてしまった。なお、浦島や明石も彼らと同じ山を囲んでいたが、明石はそもそもにおいてだらけるばかりで我関せずを決め込んでいたものだから、浦島は助けを求めることもできず、水を差すこともできず、からといって参加することも憚られ、唇を噛みしめながらヘタを取りつづけた。
     それぞれの前に梅のヘタの山ができる頃にはヘタを取り終わった梅はガラス瓶の中に氷砂糖と交互に入れられ、酒を注がれるのを待つのみとなった。酒を注ぐに関しては間違えても瓶の口と自分の口とを間違えなさそうな体の大きい太郎太刀にまかされ、体は大きいが確実に自分の口に酒を注ぐであろう次郎太刀や日本号などは、宗三や長谷部に牽制されて注がれる酒に「ああぁ……」と悲しげなうめきを漏らすのみとなった。
    「まったく……日頃あれだけ呑んでおいて、なんたる体たらくだ」
     情けない呻き声を漏らす呑兵衛たちに長谷部が声をかけると、「瓶からちびちび呑むのと、酒樽から景気よく呑むのじゃぁ心持ちが違うんだよ!」というような言葉を返された。
     酒を注ぐ頃には南東にあった太陽も西に傾いており、シーツの日よけとそれを支えていた棒はいつのまにか撤去されていた。ヘタ取りに心血を注ぎすぎて手入れ部屋に放り込まれたもの、夕餉の支度のために庭を後にするもの、縁側から足をだらりとたらして眠りこんでしまうもの、その者たちに布をかけてやるもの、馬糞を手にした鯰尾とそれを必死で止める膝丸、それをガラス瓶を支えながらのんびりと、あるいはいつもの光景だと思いながら見ている骨喰に蛍丸に髭切がいた。
     透明の酒は梅と氷砂糖を交互にその身に湛えながら乱反射する。チラチラと輝く反射光に目を細めて青江が微笑む。注ぎ終えた瓶に蓋をし、地下の蔵へと運ぶ。蔵へと運ばれた梅酒の瓶に、漬けはじめの日にちを書いて、あとは待つばかりとなる。
     おそらくは効果は無いだろうが、蔵の入り口に梅酒に手をつけるべからずの旨を記した貼り紙をし、雑然とした庭先の片付けをする。
     ゆっくりと、ゆったりと日は傾く。
    「不思議なものだな……」
     暮れる日を見ながら、骨喰はぽつりとつぶやく。
    「うむ? 何がだ?」
     三日月は誰に投げかけられたでもないその言葉を拾い、骨喰の方を見る。手に持っている扇はそれが癖なのか、あるいは別の要因があってなのか開いたり閉じたりを繰り返している。
    「酒は、作っているだけで酔うのだな、と」
    「ほう」
    「……呑むのは随分先のことになるだろう。けれど、今日は作って酔った。今夜は楽しみで酔う。明日が、明後日があるのかはわからないけれど、待っている間も思い出したり思いを馳せたりして酔う。……だから、か」
     言葉をどこから持ってきたらいいのか迷っているかのように、口元に指を当てて骨喰はそう答える。
    「そうさなぁ……」
     三日月はぱちりと音を鳴らして扇子を閉じ、懐にそれをしまった。目を伏せた顔には笑みが浮かんでおり、骨喰の言葉を噛みしめるように、あるいは今日の余韻を楽しむように、「……そうさなぁ」ともう一度呟いた。

     傾いてしまえば暮れるのも早く、山際の白さをほんのりと残すのみになった昼が尽きる。本丸のそこかしこに灯りがともり、今日の疲れを癒すべく、今日の楽しさを語るべく、テーブルに盛られた料理を食い、自前の酒を呑み、笑い、口論し、時折泣いたりする。あんまりにも愉快な気分になって湯船に身を浮かべて調子の外れた歌を歌うと、野次やら水やら石鹸やらが飛んできて、しかし湯船の隅に三角座りをしていた一人が少し調子を合わせて一緒に歌ったりしてくれる。大部屋に、あるいは二人部屋に布団が敷かれ、枕が並べられ、今日シーツを干した者の布団に相部屋の者が集まったりする。
    「みな、そろそろ電気を消すよ」
     一期一振は弟たちの集まる部屋に訪れ、それぞれにおやすみと声を掛け、電気を消して去っていく。
     今日は皆眠るのが早い。そう気付く一期一振にも、抗いがたい眠気が訪れている。

     瑞々しく、そして甘い香りは、梅酒づくりが終わってもしばらくの間は本丸に漂いつづけた。
     いずれその酒を呑むその時まで、期待は甘く漂いつづける。
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    k_hizashino

    DONE恋愛関係じゃないんだけど長い付き合いでやたら距離感の近い大般若と主。今日ふっとみたらいつも凛々しい姿の主が縁側で大般若にもたれかかってうたた寝をしていた。お互いの選んだ関係がどうあれ、大般若のそばでならあんな風に安心できるのならそれは喜ばしいことだ。みたいな本丸の刀による日記。
    残鐘「今日は主も大般若も仕事が立て込んでいるようでお互いに顔をあわせてはいなかった。だがそれを気にしている様子もなく、滞りなく仕事をしていた。あの二方は仲が良く、それとなく二方でいるところを見かけるのでそうでないときはむしろこちらが気忙しく思ってしまう」

    「主は色恋を好まぬ方であった。ゆえに大般若があの宴の最中に自分が主に恋慕していると告げた時はヒヤリとしたものだ。そう告げず傍に仕えるのみでよしとしようとする刀たちも数は少なくなかった。あの豪気さはあの刀があの刀たる所以だろうか」

    「あるいは思いつめてもいたのかもしれない。実際思いを告げたあと、主がそれを断ってからはふさぎ込んでいたし、自身を折ってほしいとも進言したと聞く。主は刀を大切にされる方であったからもちろんそれを断った。どんな思いなら受け取ってくれるのか、大般若は問うた」
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