残鐘「今日は主も大般若も仕事が立て込んでいるようでお互いに顔をあわせてはいなかった。だがそれを気にしている様子もなく、滞りなく仕事をしていた。あの二方は仲が良く、それとなく二方でいるところを見かけるのでそうでないときはむしろこちらが気忙しく思ってしまう」
「主は色恋を好まぬ方であった。ゆえに大般若があの宴の最中に自分が主に恋慕していると告げた時はヒヤリとしたものだ。そう告げず傍に仕えるのみでよしとしようとする刀たちも数は少なくなかった。あの豪気さはあの刀があの刀たる所以だろうか」
「あるいは思いつめてもいたのかもしれない。実際思いを告げたあと、主がそれを断ってからはふさぎ込んでいたし、自身を折ってほしいとも進言したと聞く。主は刀を大切にされる方であったからもちろんそれを断った。どんな思いなら受け取ってくれるのか、大般若は問うた」
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