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    おたぬ

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    おたぬ

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    無音に響いた恋の歌(🍁❄♀)

    ⚠️注意⚠️
    ・耳が聞こえない❄♀
    ・支部からのお引越し
    ・当時情報が少なくて猫を被らない🍁
    ・モブが出る

    人で賑わう真昼間の商店街。その日の予定を早々に終えたオレは、昼食でも食べて次のライブに向けて練習をしようかと人の行き交う波に乗って道を歩いていた。客を呼び込む店員の声に、買って買ってと親にせがむ子供の声。ガヤガヤとうるさいながらも平和な休日の音の中に、突然それは混ざりこんできた。

    「そんなに怖がることねーじゃん」
    「そうそう、俺たちイイことしかしないし」
    「ちょっとそこのホテルまで来てくれればいいからさ」

    人通りの多い道の脇。人々の目から外れたそこから聞こえてきたのは、3人の男の何とも低俗な誘い文句だった。こんな太陽が高い時間からよくやるな、と思わずため息が出る。別段オレは正義感に満ち溢れた好青年というわけではない。ないのだが、自然と動かしていた足は止まり、声の方へ目を向ける。ただ、何となくよからぬ事を考えていそうな奴らの声を聞いて、知らぬ存ぜぬで無視を決め込むのは少しだけ目覚めが悪い。そんな気がした。それだけだ。

    「なぁ、いいだろ?」

    オレは足早に近付き、男たちの間から渦中の人を視界に捉える。その人は艶やかな長い髪と銀灰色の瞳に左の泣きボクロが印象的な、俺と同い歳くらいの女性だった。彼女は矢継ぎ早に喋る男たちをオロオロとした様子で見ており、どう考えても明らかに困っていた。

    (仕方ねぇか)

    パリッとした純白のブラウスに黒のロングスカートを着た女性はいかにも育ちが良さそうであり、こういった知能指数が低そうな輩の対処法など知りもしないだろう。軽く息を吸って、わざと足音を立てながら歩み寄ったオレは、喧しい男どもの声を遮り彼女へと声をかけた。

    「悪い、待たせた」

    もちろん待ち合わせなどしていない。ただの口からでまかせだが、それでも堂々と言えば案外何の疑いも持たれずに済んだりもする。なんだよ男いんのかよ、と騒ぎ始めたチンピラどもを横目に、オレはきょとんとしている彼女の手を引いて、そのままその場を急いで離れた。



    「ごゆっくりどうぞ」

    オレと彼女を席へ案内してくれた店員が笑顔でそう言い、去って行く後ろ姿を見送ってオレは目の前に座った彼女へと視線を移した。彼女は何の変哲もないファミレスの何が珍しいのか、キョロキョロと店内を不思議そうに見回している。3人の男たちの中から手を引いて連れ出した後、隠れるようにこのファミレスに入店してしまったのだが、よかったのだろうか。さっきからひと言も喋ってくれないため、これから予定があるのか、それとも暇なのかすらわからない。

    「……いきなり連れ込んで悪かった。お詫びに奢るから、好きなの頼めよ」

    終始無言というのも居心地が悪い。メニュー表を広げて彼女の方へ差し出すと今の今までソワソワとしていた彼女がこちらを向き、そこで初めて彼女と目が合って銀灰色にオレの姿が映りこんだ。たったそれだけなのに、不思議と息を飲んでしまう。ハッとさせられるほど、それほどまでに綺麗だと思わされた。まるで、ひとつの芸術品のようだと。

    オレがボーッと、いや、白状するならば彼女の瞳に見蕩れていると、慌てた様子で彼女は鞄を漁り1冊の手帳を取り出してそこにサラサラと何かを書き留め、オレの方へと見せてくる。

    『助けてくれて、ありがとうございます。
    とても困っていたので、助かりました。』

    紙面にはとても繊細そうな整った字で、そう書かれていた。

    (………筆談?)

    これは、もしかして。脳内に浮かんだ可能性に驚くよりもオレは納得する。なぜなら彼女は絡まれていた時も、そして今も。一度も声を発していないのだ。こちらに見せていた手帳を手元に戻し、彼女はたった今書いたその下にさらに文を書き加えてまたオレに見せる。

    『ごめんなさい。私、耳が聞こえないんです。
    ですから、ゆっくり話していただけると嬉しいです。
    ゆっくりなら、唇が読めるので。』

    唇を読む。読唇術、というやつだろうか。ゆっくりなら、ということは先ほどの男たちが畳み掛けるように話していた言葉のほとんどは読み取れず、自身がナンパされていることも理解できていなかったのか。それは対処できずに困るはずだ。

    出会ったばかりのオレに真実を打ち明け、不安そうにこちらを伺う瞳に、わかった、と意識的にゆっくり、はっきりと口にする。すると彼女は花が綻ぶような笑顔を返してくれた。

    (…………あ)

    恋に落ちるのは一瞬だという言葉がある。そんな言葉とは生涯無縁だとずっと思っていたのだが、どうやらそれは違ったらしい。まるで落雷が落ちるように、あるいは天啓が下るように。オレはまだ名前すら知らない女性の笑顔に強く惹かれ、いとも容易く心を奪われてしまった。

    オレは断じて惚れやすい男ではない。これまでの人生で恋にうつつを抜かすような経験はなく、夢や目標を優先して生きてきた。なのに、こんなにあっさりと簡単に落ちるものなのか。

    (嘘だろ……?)

    信じられない。信じられないが、胸の鼓動がすべての答えを示している。なら、認めるしかないだろう。中学からずっと音楽、歌一筋で生きてきた東雲彰人は今日、この日。耳の聞こえない彼女の笑顔に一目惚れしたのだと。

    しかし何となく本人を前に恋心を自覚するというのは気恥ずかしく、途端に座りが悪くなり、それを髪を掻き乱して誤魔化す。

    オレの中でそんなことが起きているなど知る由もない彼女は心做しか嬉しそうな顔で手帳を見せてきた。

    『ありがとうございます。
    優しいんですね。』
    「いや、優しくはねぇけど……あー……それと、敬語、別に使わなくていい。同い歳くらいだろ?」

    オレの言葉に彼女はこくん、と頷き、また手帳にペンを走らせるが、それは途中でピタリと止まる。そのまま眉尻を下げて数秒考えた末、彼女は申し訳なさそうに、そして困ったように、こう書き綴った。

    『すまない、まだ名乗ってすらいなかったな。』
    「あぁ……そういや、そうか」

    出会ってからここまで、オレの気持ちの上ではジェットコースターのようだったせいで忘れそうだが、オレも彼女もまだ互いに名前を知らない間柄なのだ。この遅すぎる初恋の果てがどうなるのかは未知だが、そう思える相手の名前を知るくらいは許されるだろう。

    「オレは彰人。東雲彰人だ」

    彼女が読み取りやすいように、1音1音をしっかりと発音して見せると、彼女は手帳に『東雲』と書き、ペン尻を軽く唇に当てた。どうやら『あきと』の漢字を考えているようだ。

    (そうか、漢字わかんねぇと書けねぇもんな)

    意外に筆談をするのは大変そうだと思いながら、彼女へ手を差し出してペンを受け取り、彼女が書いた苗字の横に『彰人』と書き足して手帳を返す。彼女の整った文字の横に書くと比較対象が綺麗な分、自分の文字が乱雑で汚く見えてしまうが、まぁ、読めればいいだろう。

    オレの書いた名前をまじまじと見詰めた彼女はオレの名前の下にペンを走らせた。

    『私は冬弥だ。
    今日は助けてくれてありがとう、彰人。』



    ガタン、と音を立てて取り出し口に景品が落下した。これで都合7つ目ほどだが、UFOキャッチャーというものはこうも簡単に景品が取れるものだっただろうか。

    「すげぇな……」
    『コツがわかると意外と簡単だから、きっと彰人もできる。』
    「いや、コツって……お前ゲーセン今日が初めてだろ」

    初日にこんなに取るような才能、オレにはねぇよ、とオレは冬弥が取ったそれを取り出してビニール袋に詰め込んだ。

    「本当に今日1日ゲーセンでいいのか?また動物園とかでもよかったんだぞ。お前好きだったろ、動物園」
    『あぁ、ゲームセンターは前から気になっていたし、思っていた以上に楽しい。』
    「そうか、冬弥が楽しいならいいけどよ」

    楽しげに笑う冬弥が見られるのなら、それでいい。そう自分に言い聞かせて、近くに設置されている機体から流れてくる音を意識の外にできる限り追いやる。こんな騒がしい空間にいても、彼女には無音の世界が広がっているのだろう。どこからか突然爆音がしても、冬弥はまったく反応することなく、集中を途切れさせることもなく、次々に狙ったものを手に入れていく。

    こうして冬弥と様々な場所を訪れて娯楽を楽しむのも、もう何度目かになる。

    彼女に恋をしたあの日から、連絡先を交換したオレと冬弥は時おりこうして会うようになった。別段会って特別何かをしようというわけではなく、食事だけをして別れる日もあれば、先ほど言ったように冬弥が行ったことのない場所に行くこともある。もちろん、片思いをしているオレに下心がまったくないとは言えないが、しかしそれ以上に冬弥の笑顔が見たくて、初めて目にするものを前にはしゃぐ冬弥が、とにかく可愛くて。オレは彼女を色々な場所に連れて行った。

    動物園に水族館。それからテーマパークに、今日はゲームセンター。普段のオレであれば絶対に行かないような場所も、どこだって冬弥となら最高に楽しめた。

    ガタン。
    今日1日で何度も聞いた音に、オレは思考の海から引き上げられた。機体下部の取り出し口前にしゃがみ込んだ冬弥がお目当ての物を取り出して嬉しそうにオレに見せてくれる。手の平に収まるサイズの、人間のように服を着た青色の熊のぬいぐるみ。頭に紐と金具が付いたそれは、どうやらストラップのようだ。

    「また取れたのか、すげぇな、冬弥」

    熊を手に立ち上がった冬弥はスカートを直すと手早く手帳に何かを書いて、その熊をオレに差し出してくる。

    『これは彰人に持っていてほしい。』
    「オレに?」

    こくん、と冬弥は頷いた。

    『今日、ここに連れてきてくれたお礼だ。』
    「礼?そんなのいらねぇけど……まぁ、くれるんならもらっとく。ありがとな」

    青色の熊を受け取って鞄の中にしまいながら冬弥の方を見ると、彼女はもうひとつ同デザインで色違いの熊を持っており、そちらはオレンジ色をしていた。オレが考え事をしていたのはそんなに長い時間ではなかったと思うのだが、その短時間に2つも取っていたらしい。

    オレは冬弥が頭を撫でてからオレンジ色の熊を大切そうに鞄の中へしまい込むのを見守る。オレには冬弥はUFOキャッチャーを景品狙いというよりも、ひとつのゲームとして楽しんでいるように見えていたのだが、複数個取って他の景品とは別にするあたり、冬弥には景品の熊が余程魅力的に見えたのだろうか。

    (そんなに熊、好きなのか……?)

    こっそり冬弥の好みについて頭の中で更新をかけつつ、ゲームをやり始めてから大分時間が経っていることを時計で確認する。UFOキャッチャーは基本立ちながらやるものであるため、ずっとプレイし続ければそれだけ足も疲労してしまう。

    「冬弥、少しそこのカフェで休まないか?」
    『わかった。』

    ゲームセンターのある商業施設内のカフェ。そこに冬弥と2人で入店する。すっげぇカップルっぽいな、とときめきそうになる胸を鎮めて案内された席へと座り、飲み物を注文した。

    「ゲーム、楽しかったか?」
    『あぁ、私ばかりプレイしてすまないなとは思ったが、とても楽しかった。』
    「ん、オレも見てて楽しかったし、気にすんなよ」
    『そうか。ありがとう、彰人。』

    オレが終始見ていたのはUFOキャッチャーではなく冬弥の横顔なのだが、そこは言わなくてもいいだろう。そんなことよりも今は彼女が楽しんでくれたことが素直に嬉しい。

    「そんなに楽しかったなら、また今度来ような」

    それは何気なく出た言葉であり、今まで何度も言ってきた言葉である。しかしその時、いつもならすぐ首を縦に振る冬弥はなぜか少し寂しそうな目で、曖昧に首を傾げるだった。

    「………冬弥?」
    「お待たせしました。ご注文のブレンドコーヒーです」

    彼女の様子に何か嫌なものを感じたオレは冬弥の名を呼ぶが、そこでちょうど注文していたコーヒーを持った店員がやって来て、話が途切れてしまう。注文の品を受け取り終え、再び冬弥を見ると美味しそうにコーヒーに口をつけており先ほど見えた寂しそうな空気はどこにもない。

    『美味しいな、ここのコーヒー。』
    「…………そう、か。そりゃよかった」

    オレの視線に気がついた冬弥が、笑ってそう書き綴った。どこか胸に棘が刺さったような違和感は拭えないが、冬弥が言わないのであれば無理に聞き出すことはしたくない。

    好きな女性が嫌がることはしたくない。
    そんな単純な心理だが、話題を戻すのもはばかられて、オレは別の話を振ることにした。

    「あ、そうだ。冬弥」

    冬弥が、なんだ?と首を傾げる。

    「今、少しデカいイベントに呼ばれてて、しばらく会えそうにねぇんだ。練習とか準備とか色々あるから」
    『そうなのか。』
    「あぁ」
    『大きなイベントに呼ばれるなんて、凄いな、彰人は。』

    夢に近づけてよかったな、と自分のことのように彼女は喜び、どんなイベントなんだ、どんな歌を歌うんだ、と興味津々に聞いてくる。それにオレはひとつひとつ答えつつ、説明をしていく。たったそれだけで、日が傾き外が暗くなり始めるまでオレたちの談笑は終わらなかった。

    あぁ、やはり、冬弥とは何かと波長が合う。どれだけ共にいても苦にならないのだ。

    (………好きだ)

    本当に。言えはしないが、共有した時間が長くなるたびにそれを強く実感する。
    オレは冬弥が好きなのだ、と。



    自室の机に置いていた携帯から振動を感じ、私は映し出された文字に目を通す。メッセージの差出人には父の名前があり、内容は読まなくとも予想できるものだった。

    『今日も外に出ていたのか。』
    『すみません、父さん。明日からは練習に戻ります。』
    『当たり前だ。次の演奏はカメラも入る。多くの人がお前の演奏を聞くんだ。その意味を理解しなさい。』
    『はい。わかっています。』
    『その演奏が終わり次第、また次のオファーが来ているから、そちらの練習も怠らないように。』
    『はい。』

    そこまで返して、携帯から手を離す。
    カメラが入る。多くの人が、演奏を聞く。
    父さんの言った言葉に笑いが出そうになる。
    違う。違うんだ、父さん。彼らは私の演奏が、青柳冬弥の演奏が聞きたいんじゃない。耳の聞こえないピアニストの演奏に興味があるだけなんだ。同じ条件なら彼らは私じゃなくても構わない。そういう人たちだ。
    これまでも、時々テレビ出演のオファーが来たことがあり、両親はそれを快く引き受けて私はカメラの前に立たされたことがあった。だから、わかるのだ。彼らの目は音楽を愛する人の目ではなく、ただの好奇の目だと。

    私じゃなくても、構わない。

    そして、父さんだって、きっと同じだ。私が青柳の家に生まれたから、耳が聞こえなくともピアノを弾く才能がたまたま私にあったから、こうして口を出してくる。みんな、そうなのだ。

    私じゃなくても、構わないのだ。

    (………彰人、だけ……)

    耳が聞こえない私じゃなく、ピアノを弾ける私じゃなく、ただの冬弥を見てくれたのは。

    机の鍵が付いた引き出しの中にしまってある数冊の手帳から1冊を取り出してペラペラとページを捲る。それは彼に初めて会った日、絡まれていたところを助けてもらった時に使っていた手帳。

    小さな頃からピアノの練習ばかりで外に出してもらえず、耳も聞こえないため人との交流が苦手な私はあまり人と話すことはない。だから実のところ、筆談に使っているこの手帳たちは彼に出会うまであまり出番はなかった。なのに、彰人に出会って色々な場所に連れて行ってもらうたびに信じられないスピードでページを消費していき、足りなくなって気がつけば複数冊にわたっている。

    それほど、彼との会話は楽しかった。

    (………楽し、かった……)

    捲っていたページがあの日に辿り着いて、私は探していたその2文字を指で優しく撫でる。

    『彰人』

    私の文字で埋め尽くされている中で唯一筆跡が違うそれは、とても目立っていた。自然と口角が上がり、愛おしさが込み上げてくる。勢いがあって、真っ直ぐ。そして力強いそれは、彼の人柄をよく表していた。

    さらにページを進めていくと、そこには沢山の思い出がある。

    テーマパークで2人で別の物を買ってシェアしたクレープの味。水族館で少し肌寒く思っていた時にそっと肩にかけられた彼の上着の大きさ。動物園ではぐれないように、と言われて繋いだ手の温もり。

    どれも昨日のことのように思い出すことができる記憶。初恋の思い出である。そして、今日もそこに新しいものが加わった。

    足元に置いていた鞄の中から、今日連れていってもらったゲームセンターで取った熊を取り出す。彼の髪色によく似たオレンジ色の熊のぬいぐるみ。それは、本当は取るつもりなどなかったもの。けれど、青とオレンジの熊を見てどうしても欲しくなってしまった。

    これから、きっと離れ離れになってしまう私の代わりに。

    そんな女々しくて醜い感情から、私の髪色と同じ青色を彼にあげてしまった。

    (………ごめんなさい)

    綺麗なオレンジ色の熊の頭をそっと撫でる。安価なのだろう毛並みは触り心地がいい、とはあまり言えないが、それでも彼と一緒に行ったゲームセンターで取ったものだと思うと、それはとてつもなく価値あるのもに見えた。立食パーティーで見知らぬ男性がくれた高価そうなネックレスには何も感じなかったのに、恋の力を思い知らされる。

    彰人は、あの熊を大切にしてくれるだろうか。それとも、趣味ではないとすぐに捨ててしまうだろうか。どちらでも構いはしないけれど、もしも数日でも、数分でも、大切に思ってくれたなら私はそれだけで満足だ。

    (………また、会えるだろうか)

    今度のイベントが成功すればもっと前に進めると、成長できる子供のように、けれど現実を見据えて話す彼はどこまでも輝いていて、周囲の望む見世物になることを許容する私とは違った。伝説を超えたい、と夢を抱き自分の意思で進むそんな彰人をずっと見守っていたい。

    スケジュール帳に書き記されたオファーの中にある海外からの出演依頼から目を背けて、私はオレンジ色の熊を抱き締める。

    彰人は、どんな声で、どんな歌を歌うのだろう。音のない世界しか知らない私にはどんなに言葉尽くして説明をされても本当の意味でそれを理解することはできない。けれど。

    (彰人の歌が、沢山の人に届きますように)

    その沢山の人に自分は入ることはできないが、それでも彼の夢が早く叶いますように。

    零れた涙は熊のオレンジに吸い込まれて誰に知られることもなく、消えていった。
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