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    おたぬ

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    おたぬ

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    梅雨の日の🍁❄

    爽やかな日差しとは無縁な6月特有のジメジメとした朝。
    制服に着替え、朝食も終えて、後は家を出るだけの状態となった東雲彰人は自身の映る鏡の前で眉を寄せた。普段からそれなりに自由奔放に跳ね回る毛先のひとつを指で摘み、下に引っ張り伸ばして、離す。途端、ぴょんっ、と跳ね返り、オレンジ色のそれは元の状態に戻った。言うことを聞かない己のそれに息をついて、彰人は洗面台を離れる。この時期はいつもこうだった。湿気で髪が決まらない。脳内では苦労が少なそうなストレートヘアの姉が「いつもと大して変わらない」と呆れた顔で呟いた。

    リビングにいる母にひと言声をかけ、靴を履き、自分用の傘を手に取った彰人はガチャリと外へと繋がるドアを開ける。すると目の前に広がるのは、ザーッと周囲の音を掻き消すような音を立て、盆を覆したように降る酷い雨。これは髪も跳ねるはずだ。もう一度ため息をついて、傘を広げた彰人はきっとこの雨の中、どんなに彰人が遅れても時間ギリギリまで律儀に待ち続けるだろう恋人がいる合流地点を目指して、足を踏み出した。



    雨脚が弱まることもなく迎えたお昼休み。彰人と冬弥は昼食を購買で購入し、1年B組の教室で買ったそれらを食べていた。彰人は冬弥の席のひとつ前の椅子を拝借している。

    校舎の外は昼間とは思えぬほどに暗く、雨に濡れた窓ガラスには教室の様子が映り込んでいた。その窓に映る自身が目に入ってしまった彰人はやはり跳ね回っている己の髪が気になって、また毛先をぐいーっと引っ張ってみる。けれど、その結果は今朝と何も変わらない。いや、むしろ登校中に雨の中を歩いたからか、気持ち髪の乱れが自宅で見た状態よりも悪い気さえした。

    ドンドンと降下していく気分に、購買で買ったジュースの紙パックに刺さったストローをガジガジと八つ当たりをするように噛んでいると、目の前で小さな口をもきゅもきゅと動かしてパンの最後の一欠片を食べていた冬弥がそれをゴクンと飲み込み、クスリと笑う。

    「髪、ふわふわだな」
    「……ふわふわ?」

    ふわふわなのはお前では?と聞き返したくなるほどに柔らかい笑みを浮かべた冬弥は、そっと手を伸ばして彰人のオレンジ色に指を潜らせる。湿気を含んでいつもより我儘になっているそれを愛でるような優しい触れ方に、思わずドキリと胸が高鳴った。

    「やはりふわふわだ、彰人」

    ふふふ、と。冬弥は至極楽しそうに、人が朝から必死にあの手この手で整えてきた髪を撫で回す。その触れ方は決して無遠慮ではないけれど、きっとその手が他のクラスメイトであったなら彰人は全力で拒み、睨みつけていただろう。それができずに、自然と頬が熱くなるのは触れてくる恋人があんまりにも可愛いから。

    湿気の多い梅雨の時期。生まれ持った髪質のせいで憂鬱になりやすいが、こういうこともあるならば、これからはちょっとくらいなら好きになれる。彰人は何となく、そんな気がした。
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