補充の心得長柄の武器の付き合いは長い。戦斧とはまた違うけれど、重量のある物の扱いはよく知っている。
ドルシラから教わったリーパーの技がガレマルドでふるう、というのは感慨深くもあった。
「急に勝手が違うのを頼んで悪いな」
「大丈夫、こっちも慣れてるから」
最初は盾役の二人目ということで戦士としてあるパーティーの補充に入ったのだが、盾役は一人にして短期決戦とする路線変更が出発前に入ったのだ。
今回の標的は長期戦に強く、時間をかけると厄介になっていくと新たに情報が入った故に。
元々モブハントは自身の戦闘技量の研磨と経験を積む為にたまにしかやらないし、特定の人々と組むことはない。
だから基本、余程目にあまる要求でなければアムも応えることにしている。補充に入る際に学んだことは臨機応変に実行できること、見切りも含めて決断は早くすること。
方向感覚を無くしそうな雪原を無言で進む。進み出した当初はレンやココアが賑やかに話していたものだが、無慈悲な寒風に段々と口数を減らしていった。
今回のパーティーは全員ベテランであるようだった。ナイトのユキミが中心となっていて実力も安定している。
赤魔道士のロイズもまた高い実力の持ち主だ。華やかな出で立ちに埋もれない美しい顔立ちで、どことなく品がある。
会話らしい会話はあまり出来なかったが、まあ、気難しい人や周囲を下に見て取り合わない人はさんざ見てきたし関わってきたので、そのように扱われたり無視されてもアムは気にしなかった。
時折彷徨う魔導兵器を相手取る時に全員の戦い方、傾向を見たが全員慣れているだけあって流石の殲滅速度だ。
手の内や癖を分かっているだけでも連携はしやすくなる。アムが必要以上に手を貸さなくてもいいというのは心地よい。そうして順調に進んでいったのだが、途中、魔導兵器が密集する地点があった。
『────』
それは今まで見たことのないような、異形の魔導兵器だった。あれが今回の標的に違いないのは、周辺の魔導兵器を従えていることから間違いない。今回の目的であるリスキーモブだ。
手配書にあった通りの特徴を携えた魔導兵器を捉えた面々はすぐ様戦闘に移れるよう、ほどよく緊張感を巡らせている。
ユキミがハンドサインで各自に最適な距離をとるよう伝え、パーティーは静かに配置についた。
アムもまた大鎌を構えつつ、周囲にも注意を向ける。
リスキーモブを中心に据えると、周囲にある他の魔導兵器の動きにも変化が現れる。
魔導兵器同士には何かしらの繋がりがあるのか、あるいは互いに意識を共有し合っているのかは不明だが、種類もてんでバラバラな魔導兵器が組織だった動きを見せている。あのリスキーモブは周囲の機械仕掛けどもを掌握した上で指揮しているようだ。
──確かに、一気にかたをつけたいたな。
群がる魔導兵器はガレマルドの市街地跡などでも見かける物が多い。つまり、魔導兵器が多くうろつくこの周辺で長く戦うのは悪手ということ。
センサーに感知される範囲のギリギリで合図を待つ、ユキミが素早くハンドサインを送る。それを視認すると同時、アムは駆け出し、ユキミとレンに続いて敵集団の前に飛び出した。
魔導兵器どもは一斉にこちらを振り向く。無機質なレンズがこちらを見つめる光景は不気味だったが、アルテマウェポンと比べれば怯むほどではない。
周辺の魔導兵器を蹴散らして肉薄し、リスキーモブの側面へアムは大鎌をふるったが胴体部に大鎌の先端が食い込む。いや、隙間部分へ通った刃を感知してリスキーモブが内部構造を使い無理やり隙間を閉じたのだ。
アムはひやりとした予感に突き動かされてその場から離れる。瞬間、先程まで立っていた場所が爆ぜ飛んだ。視界の端ではユキミたちが同じように攻撃を凌いだようで、体勢を立て直す動きをしている。
アムは即座にバックステップをとり、敵の射程距離から逃れた。
「ちっ」
舌打ちしたのはロイズだ。彼の細剣の柄頭から放たれた光の剣の束が周囲で一斉に開かれた魔導兵器の銃口をたちまち焼き潰していく。
「ありがとう!」
戦力の減退を嫌ったロイズの援護に感謝しつつ、アムは再び攻撃の為に地を蹴り出した。
指揮官への道を閉ざそうとする魔導兵器たちの間をすり抜け、リスキーモブに取り付く。
この大鎌を今失う訳にはいかない。がっちりと挟まれている大鎌の、刃の部分が軋みを上げる。
また集中砲火が命じられる前にアムはアヴァターをその身に憑依させて得た超常の剛腕で強引に隙間へ腕を入れこじ開け、大鎌を取り戻すついでに内部機関に向けてコムニオを放つ。
コムニオの光の向こうで、デプラスマンで跳んでいくロイズを見た。あれは確か、赤魔道士の連携技で……レンも拳に闘気を集めて……まずい。
「大惨事になるに、決まってるじゃない!」
内部から攻撃され、更にここぞとばかりに追撃が入ったリスキーモブはそれは見事に爆発した。そう、爆発したのだ。爆心地にいたアムは咄嗟にヘルズイーグレスで抜け出したがそれでも爆風の煽りを受け、雪原を散々転がされた。
癒し手であるココアに説教されながらアムはアサイラムの陣の中に居た。
リスキーモブが爆発してほぼ同時、支配下にあった魔導兵器も次々と稼働を停止。一応の安全は確認されてリスキーモブ討伐の証も回収されている。
後は生きて戻るだけだ。ぬう、と肩に一瞬触れたアヴァターの気遣うような気配に笑う。
「長持ちする囮だった」
一言。それだけ投げかけるとロイズは行ってしまった。
「ちょっと……!」
「あっ、待って、ココアさん」
憤りを見せるココアを制止する。納得のいかない顔に苦笑してアムは頭を振ってみせる。
「俺も半分盾役のつもりで動く時あるし、平気だよ」
戦士の立ち回りが身に染みているので、咄嗟にそのつもりで動いてしまうことがある。盾役が一時戦線離脱してしまう場合だってあるし、たまにだが攻め手でいても盾役の代理を務めることだってあった。だから、別に気にしていない。
寧ろ期を逃さず畳み掛けてくれてよかった。そう告げるとココアは唇を尖らせて押し黙った。アムとて、無傷で済むとは思っていない。多少の傷を負う覚悟はある。
──でも、今回はそんな必要なかったなあ。
受けたダメージはせいぜいが雪原を転がされた時の打ち身くらいだ。それも既に治療済みだし、この程度の負傷ならすぐに治るだろう。
──このパーティーで良かったな。
アムはしみじみ思った。