繰り返し暗くて冷たいリビングでヴォックスを待ち構え、「おかえり」と言う。そして何度目か分からない浮気を理由に、何度目か分からないケンカが始まった。一通り文句を言い終えて、お互いにデカい溜息をついて黙り込む。
「……上着を置いてくる」
ヴォックスはそう言って、エアコンと明かりのスイッチを入れて部屋を出た。声をかける言葉が見つからず、オレはヴォックスの背を睨んだまま見送る。バタンと扉が閉まると、一気に体の力が抜けた。そのまましゃがみ込んで、エアコンがゴーゴーとうるさく鳴り始めるのを聞くと、一人でただじっとしてる自分が滑稽に思えてきた。気付いたら、死ぬほど怒鳴ったせいかムカついて熱くなったせいか、死ぬほど喉が渇いている。整頓されたキッチンの戸棚から、ヴォックスが買い置きしているミネラルウォーターを一本取り出す。カシュッ、と音を立てて蓋が開いた。そのまま、口の端からこぼれるのも無視してがぶがぶ飲む。なんだか、いつもより甘い気がして一気に飲んでしまった。満足して口を離すころには、ボトルの半分ぐらいしか残ってなかった。
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