それはまさに棺で、一目見たとき私は亡骸ではないのかと思った。厳重に閉じられた棺から出てきた人間は、死者と呼んでもいいような華奢な姿をしている。
「ここどこ…」と虚ろな表情で、か細い声で話す姿はとても生きていると思えなかった。
差し伸べた私の手を遠慮がちに受け取ったとき、生きているなと、確認できたほどだ。
擦り切れたカードに製薬会社のエンブレム付きのコート。一瞥すれば、会社勤めのただの医師だとみえそうだ。
けれども、ただの医師を棺に閉じ込めるほどロドスという組織は暇な様子はない。
死者を起こして、無理に生き返らせたような希薄な姿。中身のない虚ろな人間に最初は思えていたのだが、日々を過ごす程にその異常な姿に気がついた。
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