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    vv_carlo_vv

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    vv_carlo_vv

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    エンゲージリングは仮初めで

    年齢操作してます。

     人生の分岐点とは突然やって来るものではない、と僕は思う。地続きの生活がずっと続いてて、その流れで決めたことが後々振り返ってみれば、「あれがターニングポイントだ」なんて語っちゃうんだ。大抵のことは、多分そうなのだろう。僕達で当てはめるとするならば、司くんとえむくんが出会った日こそが全てのはじまりなのかもしれない。二人が出会って司くんがワンダーステージのキャストに抜擢されなければ、きっと僕は今でも一人で終わりの来ないゲリラショーをしていたことだろう。
     しかし、あからさまな分岐点、というのも実際には存在するもので。高校二年生の頃から付き合いだして早七年になる僕達の目の前には、「結婚」の二文字が横たわっていた。さすがに二十四歳ともなると、ずっと学生気分のままではいられない。身を固める、と言ってしまえば堅苦しいが、僕らが次のステップに進むとするならば結婚以外には考えられなかった。
     
       *
     
     大学を出てからの司くんは非常に多忙な毎日を過ごしていた。「未来のスターとは何か」という根本について考えた彼は、世界一のスターこそが自分の思い描くスターだ、という結論に至った。目標を決めた彼は早かった。彼は一つの劇団に留まることをせず、世界各国の劇団と交渉してあらゆる舞台に立ち、演技に磨きをかけていた。最初こそ交渉に不慣れなところもあったし門前払いを喰らうことも少なくはなかったけれど、海外のちょっと大きめな舞台で主役を張ってから周りの見る目が変わったらしい。それ以降、大変有難いことに「ぜひ今度はウチで」とお誘いを受けることもしばしば増えたと言う。
    「世界一のスターも、手の届かない夢ではなくなったんじゃないかい?」
     司くんの元に出演オファーが舞い込むようになってすぐの頃、僕は彼にこんな軽口を叩いたことがある。……まあ、これには純粋な応援の気持ちと、少しの独占欲を含めていたけれど。でも、僕の一等星はこんなたった一言では動じなかった。
    「何を言っている? オレ自身が認められたわけではないからな、まだまだ満足なぞしていられん」
     遥か先で到着を待ち侘びている「世界一のスター」という名の一番星を、真っ直ぐに見据える琥珀色の瞳は宝石の如く煌めいていた。そんな彼を特等席で眺めている僕は、世界一の幸せ者だと思う。
     一方の僕はと言うと。日本を拠点に据え、ショーが中心のフリーの演出家として生計を立てていた。依然、駆け出しの身ではあるが、期待の新星として日々邁進している。本当は司くんのショーにしか演出を付けたくないのだけれど、そんな我儘を本人に言ってみたところ「オレのショーと言えば類だと言われるくらいの演出家になれれば、それも夢ではないんじゃないか?」とかなり真剣に考えられた回答をいただいた。その時のさも当然と言わんばかりな司くんを目の当たりにして、つい我に還ってしまったのはここだけの話だ。
     
       *
     
     必然的にお互い顔も見せないような日々もあるのだが、僕達は順調にお付き合いを続けている。僕の隣には司くんが、司くんの隣には僕がいて当たり前になってからそれなりの時間が過ぎた、今日。久しぶりに司くんとデートをすることになった僕は、予定よりも随分早くに待ち合わせ場所へと赴いていた。このところは僕も司くんも海外での案件が増え、連絡を取り合うのですら精一杯だった。今日が楽しみすぎてうまく寝付けなかったのだって、学生時代の修学旅行ですら味わったことがなかった。
     目印として指定した大噴水の縁に腰をかける。右足を組み、特に何の反応もない携帯の液晶画面をぼんやり眺める。いつもなら司くんの方が早く着いていて、『早く来い』という催促のメッセージをいただいている頃だ。それでも僕が必ず遅れて行くのは、僕を待つ彼の姿にひっそりと充足感を得ながら「やあ」だなんて余裕を顔に含ませるのが、いつしか癖になっていたから。
     やっぱり慣れないことはするんじゃなかったかな? こういう時、どういう顔をしながら待てばいいのかがわからない。やけに胸の内側がざわついている。まるで高校生にでも戻ったようじゃないか。
     ──あぁ、君はいつもこんな気持ちで僕のことを待っていてくれたのかい?
     これなら確かに司くんが「早く来てくれ」って言いたくなるのも頷ける。僕は足を組み直し、何度も携帯の画面をつけたり消したりを繰り返していた。……こんなことしても、司くんが早く来ることはないのに。僕の後ろでは噴水が勢いよく水を打ち付けていた。飛沫がじわじわと背中を濡らしていく。少しでも気を紛らわせたい僕は、延々と同じ動作を繰り返していた。
    「──今日は随分と早いんだな」
     手持ち無沙汰な僕の頭上から、ずっと心待ちにしていた声が降り注いできた。その声に釣られて頭を上げると、そこにはやっぱり待ち焦がれていた一等星が煌めいていた。
    「司くん、」
    「いつもこのくらい早いと助かるんだが?」
     久しぶりに対面する恋人を前に胸を躍らせている僕とは対照的に、彼は合流して間もないのにも関わらず「はぁ、」と溜息をついた。でも、それは一瞬の出来事。司くんは息を吐き切ると顔を緩ませ、ふわりと笑って見せた。
    「……待たせたか?」
     眉をへにゃりと曲げて、彼は首を右へ傾げる。さっきまで強張っていたのに、今は僕の心配をしている。その動作の一つ一つがとっても愛らしい。
    「いや? 君を待っていたらあっという間だったよ」
     フフ、と僕が笑えば、司くんは胸を撫で下ろしたように一息ついていた。僕の言葉でころころと変わる彼が、どうにも愛おしく思ってしまう。司くんが世界一のスターになろうとも、この輝きは依然として僕の手元にある。それがなぜだか堪らなく僕を満たしていた。
    「──司くんは、結婚について考えたことはあるかい?」
    「急になんだ」
    「僕と結婚してほしいな、って思っているんだけど、君はどうかな?」
     自分でも不思議なくらい、すんなり言葉が出てきた。僕の後ろで天へと噴射している噴水が、さらに一段高く打ち上がる。司くんはぱくぱくと口をわななかせている。なんだか餌を必死に頬張ろうとする鯉のようだ。永遠にも思えた沈黙の後、ずっと震わせているだけだった彼の唇から言葉が放たれた。
    「今言うことなのか⁉︎」
    「プロポーズに対する第一声がそれなんだね」
    「いや他にも言いたいことはあるんだが⁉︎」
     こんなに振り切れた司くんを見るのはいつぶりだろう。我ながら呑気だとは思うが、微笑ましくなる。しかし当の本人はふわふわした僕の気持ちとは真逆に、忙しない動きを見せている。先ほどから「あー」だの、「うー」だの、意味もない言葉で呻きながら頭を抱えながら身を捩らせている。
    「そっ、そもそもだな⁉︎ あんまりにも脈絡がなさすぎる!」
    「おや。サプライズはお気に召さなかったかい?」
    「思いつきはサプライズとは言わんッ[#「」は縦中横]」
     ……ふむ、さすがは七年も同じ時を過ごした間柄と言うべきか。司くんはこの突拍子もないプロポーズが、僕の口から無計画に飛び出た言葉なのだとあっさり暴いてしまった。それを喜ぶべきなのか、はたまた嘆くべきなのかは隅の方に置いておこう。
    「僕は本気なんだけど、君は冗談だとでも言いたいのかい?」
    「うぐぅ……」
     眉を八の字に歪めてお得意の困り顔を披露して見せれば、司くんは少したじろいだ。フフ。君はすこぶるこの顔に弱いよね。それを自覚しているだろうに、いつも僕に絆されてしまうんだ。
     確かに何の策もなく声に出してしまった僕にも非はあるのだが、司くんとの結婚は単なる思いつきというわけではない。僕が誰かと籍を入れるとするならば、司くん以外には考えられないとずっと考えていた。ただ悲しいかな。いかんせんタイミングが悪すぎたみたいだ。
    「オレだって、な、何も嫌だったわけじゃないんだぞ……?」
    「……うん」
     ほのかに赤らめた頬を見るに、司くんの言葉は本心なのだろう。ダメ押しとして彼の左手をきゅっと握る。わずかに司くんの体がわかりやすく跳ねた。
    「何が、だめだったんだい?」
     聞かせてくれないかな? と甘く呟けば、掌の体温は徐々に上がっていく。やっぱり、司くん以上に尊い存在なんてこの世にいないだろうな。こんなに可愛い人、僕は他に知らない。
     司くんは再び小さく唸りだした。次に出す言葉を慎重に選び取るかのように、彼は言葉を絞り出す。
    「……ムードが、なさすぎる……」
    「へ」
     琥珀色の瞳が瑞々しく揺らめいた。あまりに意外な彼の言葉。──あぁ、君はこんなにもロマンチストだったなんて。これは、演出家として恥ずべきことをしてしまったな。猛省すべきだろう。
    「──さ、て」
    「む?」
    「……やり直させて」
     君に期待されてしまっては、それに応えない僕ではない。ここで応えられなければ、演出家の名折れだ。何より、恋人として恥ずべきことだろう。
    「最高の演出で君にプロポーズするから、やり直させて」
    「ぃ……いや、別にそこまでは──」
    「やり直させて」
     少し語気を強めると、司くんはそれ以上の言葉を噤んだ。ごめんね、司くん。これは僕のとんでもないエゴなんだ。
    「きっと最高のプロポーズを君に捧げてみせるよ」
     ちゅ、と優しく手の甲にキスを落とす。僕の頭上では、司くんの顔がみるみるうちに赤くなっているんだろうな。ふっと目線を上げると熱を孕んだ琥珀色の瞳があった。
    「なっ! ここではやめんか‼︎」
    「フフ、ほんの気持ちだよ」
     プロポーズされた時より手の甲にキスされた時の方が照れるなんて、本当に君は可愛い人だね。
     そうして僕の苦悶の日々が始まった。
     
       *
     
     司くんに最高のプロポーズをすると決めてから数週間が経った。あれほど元気よく啖呵を切ったのに、自分でも驚くほど案が思いつかない。いや、訂正しよう。案は思いついても、それが「最高のプロポーズ」だと思えないのだ。何をすれば司くんが喜ぶのかは大方想像がつく。しかしそれを全部採用するとしたら、とんでもなく大掛かりな演出になってしまう。それこそ「ショー」になってしまうのだ。それは司くんの望むところではない。
     彼はショーこそ派手で目立つ演出が好きなきらいがあるが、こと恋愛においてはその範疇にない。どちらかと言えば慎ましやかでプラトニックな方が好みだったりする。その証拠として、彼は多感で健全な男子高校生を前に「高校生の間はキスまでだ」と言い放って見せたのだ。でも、僕も分からず屋ではない。心に固く決めていた司くんを尊重して、大学進学後に僕達の初めてを迎えた。……まあ、今となっては可愛い話なのだが、当時の僕は無防備な彼を前に理性と本能の狭間で酷く苦しめられていたけれど。
     そんな司くんのことを考慮したプロポーズを考えると、どうしても地味な演出しか出てこなくなっていた。それでは演出家として「最高のプロポーズ」とは言い難い。
     どうするのが正解なのか、何度頭を悩ませても最適解が見当たらない。これほど悔しいことがあるだろうか? とにかく、僕はこれまでにないほど追い詰められていた。
     
    「あんた達って、昔っから変なところで意地になるよね」
     呆れたように溜息をつきながら言葉を吐き捨てたのは、幼馴染の寧々だった。高校卒業後の寧々は、ミュージカル女優の夢をもう一度追い始めた。大学生のうちに中規模の劇団に入り直したらしい。それから、職業柄なのか寧々と司くんは連絡を取り合うことが増えた。近況報告やショーの出演依頼など、その内容はプライベートの枠を越える時もある。……たまに、僕よりも寧々の方が司くんの近況に詳しい時もあるのが、少し胸をざわつかせるけれど。
     そんな寧々から、僕も舞台演出の依頼を請けることもある。最初は劇団に僕のことを紹介するのに気が引けていたようだが、演出を手掛けた舞台が劇団内外から好評だったのもあって、それ以降も何度かお誘いを受けるほどの間柄になった。僕もそのご厚意を有り難く頂戴している。
     今日も舞台演出の依頼を受け、寧々の劇団の練習風景を見学していた。その帰り、僕達は久しぶりに二人で帰路についていたのだった。
    「……司くんから何か聞いたのかい?」
    「あいつ、私が何も聞いてないのに勝手に喋り出すんだよね」
     いい迷惑、と付け足した寧々はぶすくれていた。それもそうだろう。こうしたやりとりは何も今日が初めてではない。高校、大学、そして社会人、と一つずつ歩みを続けてきた僕達だが、その傍らには必ず寧々とえむくんがいた。ここまでくると腐れ縁と称しても構わないと思う。だが、今回のように僕と司くんの間に何かしらの問題が起きると、どうしても二人に飛び火する。僕も司くんも、相談出来る相手として寧々とえむくんを真っ先に思い浮かべる。えむくんは協力的、……というより自ら首を突っ込んでくるタイプなのだが、寧々は真逆だ。「自分達でなんとかしろ」、「私とえむを巻き込まないで」だなんて何度言われたか知れない。
     しかし、今日の寧々は少し違っていた。
    「──今回ばかりは、司に少しだけ同情するけど」
     僕には聞かせたくないのであろう声量で寧々はぽつりと呟く。司くんが何と言って寧々に聞かせたのかはわからないが、彼女がこうして司くんに気持ちを寄せるのは滅多なことではない。きゅぅ、と心臓が縮んでいく。
    「そろそろ司のところに行ったら?」
    「おや? 今回は随分司くんの肩を持つじゃないか」
    「持ちたくて持ってるわけないでしょ」
     一際大きな溜息をつく寧々。両肩を落としていかにもやつれたように見せている。いつも大変な役回りを押し付けてしまってすまないね、だなんて三文小説の一節にもなりやしないセリフをぐっと喉の奥へ押し込めた。
     
       *
     
     太陽が完全に沈み、空は深い紺色に染まっている。そう時間も経たないうちに、星々の煌めきが散らばることだろう。──そして、僕だけの一等星も、もうすぐでここに来る。
     プロポーズのやり直しを申し出た日から、早いもので一ヶ月経っていた。まあ、それだけ彼を待たせてしまったということになるんだけど、人がいい司くんは何も言うことなく今日まで僕からのお誘いを待っていてくれた。本当に僕は司くんに愛されているのだとつくづく思う。
     僕は懐かしい場所にいた。僕達にとっての原点、そして、共に青春を駆け抜けた、フェニックスワンダーランドのワンダーステージ。ステージが一番見渡せる真ん中後方に浅く腰掛け、僕は彼が来るのを待ち構えていた。あの日と違って、やたらと心臓の音が大きく身体中に響き渡る。足を組んでいる余裕すらもないほどに。
    「類……?」
     ワンダーステージへと繋がる道の方から、待ち焦がれた声がする。いつかのデジャブが脳裏を駆け巡った。僕は司くんの声を聞くなり立ち上がり、声の方へと歩み寄る。一歩がやたらと重く感じるのは、きっと気のせいじゃない。
    「よく来てくれたね、司くん」
    「あぁ。……というか、今は閉園時間だろう? こんな忍び込むような真似してよかったのか?」
    「うん。えむくんから許可をもらっているからね」
     大学卒業後のえむくんは本格的にフェニランの経営に携わるようになったのだ。様々な経営部門がある中でも、ワンダーステージでのキャスト経験のある彼女は、ショーステージ全般の運営を任されることになった。そんなえむくんのツテを使って、本日のワンダーステージは閉園後に限り、僕達二人のために貸し出してくれたのだ。
    「類くんが最高のショーをするためだったら、私、なんでもするよ!」
     桃色の両目を輝かせながら二つ返事をしてくれた彼女は、高校生の頃から全く変わっていない。「それに、それが司くんのためのショーなら断る理由なんてどこにもないもん」と付け加えていたえむくんには、本当に頭が上がらない。
    「む。それならいいのだが」
     まだどこか不安を拭いきれないのか、司くんは眉を顰めていた。それとも──これから何が起きるのか、考えているのかな。
    「司くんに見てほしいものがあってね」
    「……まあ、大体の検討はつくがな」
    「フフ、今日の司くんは手厳しいじゃないか」
     こちらへ、と司くんの手を引いて彼のための特等席にご招待する。僕に導かれるまま、司くんは静かに着席した。僕だけのお星様は昔から変わらず素直でいらっしゃる。
    「──きっと類のことだ。ショーでプロポーズ、なんてことを考えていたんじゃないのか?」
    「おや? その予想に何か根拠が?」
    「長年の勘だ」
     にやり、と口角を釣り上げて笑う司くんはいたずらっ子のような顔をしていた。「オレには全てお見通しだぞ」、とでも言いたげな彼にどうにも胸が満たされてしまう。
    「君には本当に敵わないな」
     思わず肩を落としてしまう。長年連れ添っているという自覚を持っていたのは、僕だけではなかったのだ。
    「でも、今回は君の予想通りではないよ?」
     僕はその場で跪く。ポケットに忍ばせておいた小さなプレゼントボックスを左手で引き抜き、司くんの前へと差し出す。右手でゆっくりとボックスを開ける。その中ではマリッジリングが静かに鎮座していた。
    「──僕と、結婚してください」
     ありきたりなセリフに、ありきたりなシチュエーション。どれほど考えても、これ以上のものがなかった。
     世界が滅んでしまったのかと思うほどの沈黙が、僕達の間には流れた。……それもそうだろう。きっと司くんはもっと盛大なプロポーズを期待していたに違いないのだから。心音がばくばくと鳴り止まない。僕は司くんの言葉を待つしかなかった。
    「……よろこんで」
     消え入るような声だった。しかしはっきりと聞こえた。
    「類にしては、普通なプロポーズだな?」
    「色々考えたけれど、やっぱりこれしか思いつかなかったんだよ」
    「──類でも、やっぱり緊張するんだな」
    「そりゃそうだよ。なんせ、一世一代のプロポーズなんだから」
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     しかし、あからさまな分岐点、というのも実際には存在するもので。高校二年生の頃から付き合いだして早七年になる僕達の目の前には、「結婚」の二文字が横たわっていた。さすがに二十四歳ともなると、ずっと学生気分のままではいられない。身を固める、と言ってしまえば堅苦しいが、僕らが次のステップに進むとするならば結婚以外には考えられなかった。
     
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     大学を出てからの司くんは非常に多忙な毎日を過ごしていた。「未来のスターとは何か」という根本について考えた彼は、世界一のスターこそが自分の思い描くスターだ、という結論に至った。目標を決めた彼は早か 7343

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