拳は少し赤くなった「まさか、俺とお前のふたりにこんな話が来るなんてな……」
お洒落伊達眼鏡の奥の菫色の瞳から企画書に目を落としながら、陽が感心したような声を出す。俺の手元にもある同じ企画書。カサカサと音を立てる紙の束は思いのほか分厚くて、ここまでしっかりと準備してくれたスタッフさんの気持ちが伝わってくる。
「すごいよなぁ。でも、俺は意外って感じじゃないかも」
「えっ、マジか」
「マジだぜ☆」
そう言えば陽はじとりとした目でこちらを見てくる。最近ふたりの時はツッコミを放棄してこんな風に無言で睨んでくるのだ。そんなキミでも可愛いよ、と返そうかと思ったけど、右手に握られたあのボールペンが飛んできたらちょっとやだなと思って、口を噤んだ。女の子には甘い陽くんだけど、気を許した仲間にはなかなかに暴力的なところがあるから。それも実は照れ屋な彼の照れ隠しだったりするから、可愛いのだけれど。
1971