※ステージ上で大門さんが『D』と名乗ってる感覚で、『Fantôme Iris』の世界の中の"蓮"は『L』となっています
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満月が我が城を照らす、至って当たり前の光景に一つ非日常が混ざる。
ソファの陰に隠れ小さく丸くなっている姿が影として視認出来たのは、眷属達と過ごす特別な宴を終えてからのことだった。
「L」
「…っ、あ…、FELIXさま……」
「矢張りそれでは足りなかったようだね」
影に近付き足元に捨てられた血液のパックを拾い上げると中身は空になっていた。
美味とは言えない血ではあるが、これ一つあれば数日は持つというのに影の主は『まだ足りない』という目で僕を見つめ上げた。
「ほら」
「…え、」
吸血衝動を抑えるために噛んでいた腕を掴み口元から引き離す。
その代わりにそっと乾いた唇に人差し指を押し当て唇を撫でる。
ゆっくりと唇の間に指を差し込むと、控えめに口を開き指を受け入れた。
「君が思うまま、欲望が満たされるまで好きにするといい」
困ったように眉を下げ瞳を潤ませながら、辿々しい舌使いで指を舐め上げていく。
指の根元が歯に触れた瞬間鈍い痛みが走る。
噛まれた箇所からじわじわと血が滲み、指を伝い第一関節の辺りまで到達した我が血液をゆっくりと舐め取る熱い舌の感触に、体の芯が震えた。
「…ふぇりくすさま、足りない、ぜんぜんたりない……!」
未だ血の滲む指から身を引いたかと思えば、勢い良く手を払い除けてそう言い放ったLの瞳は煌々と月の光を受けて輝いていた。
吸血の衝動は我が血液を摂取したことにより、更に強いものへと変わってしまったらしい。
怯える子供の様に嫌々と首を振って涙を流す姿は幼き日の自分を思い出させた。
「L、おいで」
「ふぇりくすさま…」
「その力を怖がる必要は無い、ゆっくりと覚えていけばいいさ。…ほら、おいで」
「…はい……」
差し伸べた手を取ったLを引き寄せ、立ち上がらせる。
交わった視線は鋭く、この身を焦がさんとする程に熱い。
「…場所を変えようか」
「え?」
「立ったままでは吸いにくいだろうから」
「…あ、はい……」
「L、…今夜は忘れられない夜になるね」
「…え…?」
「ふふ、行こうか」
「……え、なに………?」
吸血鬼の王の血を摂取した吸血鬼がどうなるのか、聡いLが知らないはずがない。
それでいてこうして後を着いてくるのだから、愛とは"生物"を狂わせるものだと身を持って感じる。
袖を掴んで後ろを着いてくるLの声音は戸惑いを纏い、我等の姿は闇へと紛れていく。
吸血鬼を統べる王としてではなく、一人の人間を愛した愚かな吸血鬼として今宵は夜闇に紛れよう。
窓から差し込む月の光は我等を祝福しているかのように耀き、我等を穏やかに見守っている。
さぁ、人の子であった我が愛しき吸血鬼よ。
共に闇へと沈もうか。