彼氏がオトコマエ🍙🌾最近決まった曜日、決まった時間に一人の男性客がおに宮に来るようになった。いつも酔っていておに宮でも飲む。毎回おにぎりも頼むから気に入ってくれてるとは思うんだけど、酒癖が悪いのかやたらおさむに絡む。
始めは「おっちゃん堪忍してやー」とか「飲み過ぎやで」とか軽くかわしてたけど、だんだん味に文句つけたり若いうちから店なんて持ちやがって、みたいに悪態をつくように。
店の雰囲気も悪くなるし、他のお客さんにも迷惑。おさむも立場的に強く言いにくいところがあって、どうしたもんかと悩んでいた。
ある日きたさんと久しぶりに会えることになったとき「なんかおさむ調子悪いか?」と心配をかけてしまう。実は、と打ち明けると「それは嫌やな」と共感してくれて「その日俺も店行くわ」と言うきたさん。
もしおっちゃんが米の味にまで文句つけるようなこと言い始めたら嫌な気持ちにさせてしまうから遠慮するおさむだけど「まぁええから」と本当にその日お店に食べにきたさん。
またいつものように戸を開けておっちゃんが来るとおさむは「いらっしゃいませ」と言いながらもカウンターの端に座るきたさんに目配せをする。
オーダー通りのおにぎりとビールを提供すると、だんだんおっちゃんの口調が悪くなる。
とうとうそれを見かねたきたさんが「なぁ」とおっちゃんに話しかける。
「おっちゃんお酒好きなん?」
「ほうか。俺も好きなんやけど、まだ飲み方よぉわからんくて、色々教えてや」
ここで治と企てたお酒と見せかけた一升瓶に入れた水を提供する。
「そうなんや、さすがめっちゃ詳しいな。ちなみにその米の味はどうや?」
「ほんま!嬉しいなぁ。それ俺が育ててん。でもおっちゃんの言うとおり、もっと頑張らないとあかんな」
「え、娘さん結婚したん。めっちゃおめでたいですやん…あぁ、そら寂しいですね」
「旦那さんも一人で店やってて、この店長に重ねてしまったんやなぁ」
普段のきたさんからは想像できない活発に飛び交う会話に、おさむは営業しながらも驚いていたが、娘さんの結婚の話になり泣いてしまったおっちゃんには仰天した。
後日、おっちゃんが奥さんとおに宮に飲みに来て
「こないだまでは本当すまん。悔しい気持ちが晴れなくて、おさむくんに当たってしまった」どうやら奥さんに一連のことを打ち明けてこっ酷く叱られたようだ。
それからはおっちゃんは奥さんや友だちとおに宮に楽しく飲みにくるようになった。
「んでね、北さん。昨日実は…」
治が北に話した結末は。
「おっちゃん、その旦那さんと昨日飲みに来てん。んで、ここの米とおにぎりは一等美味いからしっかり食って、こういう美味しい飯が食べ続けられるように、娘をこれからもよろしく頼んだって言うたんですよ」
「そらよかったな」
「おっちゃんもかっこよかったですけど、俺、あん時きたさんにもっと惚れてしまいました」
俺の恋人は、オトコマエだ。