【ゼン蛍+カーヴェ】とある建築家の憂慮 自分の背丈を優に超える幅広の書棚、行儀よく整列した書物の数々。居候先とまではいかないが、壁と通路にいくつか鎮座するそれらが、この場所を立派な知恵の部屋たらしめていた。
「すごいな。個人でこれほどの資料を集めるのは、大変だったろう?」
「私ひとりの力じゃないよ。……でも、ありがとう」
自慢の書庫なんだ、と胸を張る少女はどこか誇らしげに見える。
洞天への誘いを受けてから、まだほんの数日。広大な敷地のどこに何があるかまだ把握できていないカーヴェは、蛍に案内されながら各所を見て回っていた。外から内へ、玄関からリビングへ。動線に沿いながら進んでいき、最後に奥まった場所にあるこの書庫へと通された。
「カーヴェは、読書好き?」
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