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    aiporonica

    @aiporonica ワクワクおじさん。

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    aiporonica

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    刀ミュ新作のパライソ前日譚序章部。
    観劇後にご覧下さい。今回は主にその後の部分のみ。前日譚に関しては随時ポイピクに投げていきます。年明けくらい纏め&書き下ろしを添えて本にします。

    【全体を通しての内容はこんな感じ】
    鶴丸は二度目の島原の乱だった
    三日月と鶴丸が二人だけで出陣した過去がある
    今回よりももっと凄惨な歴史改変を試みている
    鶴丸国永が山田右衛門作に残した仕掛けの話
    みかつるではない

    #三日月宗近
    mikazukiMunechika
    #鶴丸国永
    kuninagaTsurumaru
    #刀剣乱舞
    swordDance
    #大倶利伽羅
    theGreatKhuligala

    酷薄のインフェるノ「――オロロン、オロロン、オロロン、バイ」
     男は、海に向かって謡っていた。
     白髪頭、皺が寄った手、決して若くはない。
     太陽が赤く染まる逢魔時、その男は海に向かって歩き出した。


          ◆

     彼らが本丸に帰城したのは、黎明の刻。言葉も交わさず、それぞれが自室へと帰って行く。しかし、出陣した六振りのうち一振りだけはこの本丸の主である審神者のもとへと向かった。
     白く美しい眞白の刀、平安時代に五条国永の手によってこの世に生まれた名刀、鶴丸国永。あちこちを転々として辿り着いた先は明治天皇のもと。今では御物として納められ、人目に触れることはない。彼は今、刀剣男士として顕現を果たし、歴史改変を目論むとされる歴史修正主義者と相対する者としてこの世に存在している。今回の出陣で部隊長を務めたのは彼だった。
    「――こんな時間にすまないな」
    「いえ、構いませんよ」
     障子の前に跪き、薄暗い部屋の中に向かって声をかければ穏やかな声が返ってくる。この向こうにいるのが本丸の主、審神者だった。
    「中に入られますか?」
    「いや、ここで構わん。任務は無事に完了した。詳しい報告が必要であれば、また明日にでも呼びつけてくれ」
    「いえ、あなたを信頼しておりますのでそれだけで十分です」
    「……そうかい」
     鶴丸国永は頭を僅かに垂れると数秒沈黙した。ズキンと腫れ上がった左頬が痛む。だが、すぐに晴れやかな声で「良い朝を迎えてくれ」と告げると音も立てずに審神者の部屋の前から立ち去った。
     砂埃がついた白い衣を脱ぎ捨て暁闇の庭をひとり進んでいく。ふと、人影に気づく。この薄暗闇の中で一振りの刀が佇んでいた。彼が持つ色は、太陽が隠れた今の時間では分からない。だが、突き刺すような神気が何者なのかを教えてくれる。
    「――早いな、鶴丸国永よ」
    「三日月宗近か」
     天下五剣が一振り、三日月宗近。三条宗近が打ちし、日の本一美しいされる名刀中の名刀。現代では国宝として存在し続ける清廉潔白の刀。この本丸では古参の刀であり、鶴丸と並んで双璧とも呼ばれている。未だこの本丸に刀剣男士があまり顕現していない頃は二人で組んで出陣していた仲でもあった。だが、仲が良いかどうかは本人達すらその答えを知らない。
     顔を合わせれば笑顔で会話、出陣から戻れば労いを一言、だが、共に月を眺めて酒を酌み交わすことも、進んで鍛錬のために刃を交えることはない。背中を預けられるのに正面で向き合うことはないなんて、いったいどういう仲なのか。だから、鶴丸も彼を見たのは一瞬だけ。会話をする時に彼の瞳を見ることもない。
    「きみは相変わらずだな」
    「はて、何のことやら」
     漏れ出たのは皮肉の言葉。自分らしくもない。こんな風に苛立ちを彼に露わにするなんて。いつだって「面白い」と手を叩いて笑うくらいの度量があったはずなのに。しかし、脳裏にチラつく赤い残像がこの心を混迷の渦に叩き落とす。刀だった頃には知らなかった感情が刀剣男士としての矜持をねじ曲げようとしている。
    「珍しいな、お主が傷を負うとは」
     痛む左頬をそっと手で隠す。くだらない言葉遊びをするつもりはない。今はただ眠りたい。静かな場所で、ただゆっくりと。
    「手入れ部屋は空いていたぞ」
    「――必要ない」
     含んだ笑みに嫌気が差す。鶴丸は貼り付けたような笑みを消して、心の中で力の限り彼を罵倒した。どれだけ酷い言葉を列挙させても口には出さない。それは鶴丸国永としての矜持か、それとも心を得てから根付いた美徳故か。否、目の前のこの刀を喜ばせたくないという一心だったのかもしれない。さぞ面白いだろう。――明らかに誰かに殴られて腫れ上がったこの左頬は。
     感情を無くした金色の瞳が目の前の暁闇に紛れた刀を睨み付ける。だが、それ以上は無かった。
     鶴丸は目を伏せて小さくため息を零すと、引き摺っていた眞白の羽織を肩にかけ、そのギラついた金色の眼を細めた。
    「おやすみ、三日月宗近」
     ただ一言、そう告げて彼の隣を通り過ぎる。
     お前と話すことなんかない。絶対にお前に声などかけるものか。
     ―――お前なら、どうしたかだって?
     そんなこと、心底どうでも良いことだ。
    「ああ、おやすみ。……鶴丸国永よ」
     かけられた言葉に軽く手を振る。居室がある奥御殿へと続く小径の砂利の音に、ふと先ほどまで居た島原のことを思い返す。
     本丸へ戻る前、他の四振りに事後処理を任せて大倶利伽羅と共に事の顛末を見届けに向かった。今回の任務は島原の乱を成立させること。あの地を血の海に沈めればお役御免だった。
     それでも、天草四郎の存在を確立出来たか確認の必要があると理由を付けて少年たちの首を集めている幕府側の陣地へと向かった。止めようとする大倶利伽羅の手を振りほどいて。そこで浦島虎徹を兄のように慕っていた兄弟の兄の遺体と再会した。否、正しくは会いに来たのだ。
     少年の首には鶴丸がかけていた十字架の首飾りがかかっていた。あれは、皆がいなくなった後、は鶴丸自身手ずからかけたもの。大倶利伽羅はどう受け止めていたかは分からないが、鶴丸にとってあの行為は、ただ、彼の死を悼むためにかけたものではなかった。
     一度、天草四郎として相見えた知恵伊豆こと松平信綱であれば、あれを天草四郎に仕立てあげるだろうと考えた。天草四郎こと、益田四郎は既に死んでいる。母親が首実検をしたところで息子の遺体がない以上、彼女が認めなければ天草四郎の存在が不安定になる。その保険としてあの少年の遺体に首飾りをかけて天草四郎に仕立て上げたという訳だ。我ながら薄情だと思う。
     知恵伊豆は言った。この少年は間違いなく天草四郎だと。この首飾りこそがその証なのだと。母親に首実検させずとも間違いないと大声を放ち、母親も認めたと書けと指示を出していた。実に聡い男だ。しかし、そのおぞましい斬首の様を憂色に包まれた表情で見つめる老年の男がいた。
     ――山田右衛門作。島原の乱の唯一の生き残りにして、これから約二十年間の年月を生き延びなければならない男。
     右衛門作は泣き叫んでいた。あの少年とは面識もあったし親しくしていたからこその涙だろう。打ちのめされるような深い悲しみが右衛門作を襲っているに違いない。今回の戦で右衛門作が失ったものは多い。幕府と内通し、せめて戦いに前向きでは無い者や女子や子供などへの慈悲を懇願していた右衛門作にとって最悪の結果だっただろう。何より、自分の命以上に守りたかった妻子も殺されたことを聞かされたはずだから。
     実は、あの少年の首に十字架をかけたのにはもう一つ理由がある。それが実るかどうかは分からない。届かず終わるかもしれない。
     それでも祈るのだ。
     どうか、どうか、――どうか。
    『右衛門作、……長生きしろよ』
     人の身を得て、心を持ち、感情が育ち、刀としてただ振るわれていた頃とは違う自分になっていく。気づけば、刀を持って戦争に赴く人間たちのことを愛おしく疎ましく思うようになった。
     どうして人は間違いを犯すのか。
     どうして、この刀で赤い血を流すのか。
     ――島原の乱という歴史は果たしてこの国に必要な物語だったのか。
     事実は変わらない。歴史も変わらない。
     ただ、身勝手な人間たちが起こした間違いで死んだ人々の命が戻って来ることはないという事実に熱くなった瞼を片手で覆った。


         ◆

     木々の隙間から零れ落ちる朝陽でまばらに明るい小径を抜けると馬小屋がある。鼻をむずむずさせる藁の匂いと動物特有の体臭が風に乗って鼻孔を刺激した。ヒヒンと嬉しそうな鳴き声が聞こえる。一振りの刀が馬の背中の曲線にそってゆっくりと櫛でとかしていた。褐色の肌に黒茶色の髪、長い襟足の先だけが赤錆色に染まっている。
     彼の名は大倶利伽羅。今朝方、島原から戻ってきたばかりの刀である。数ヶ月ほど島原に居たとはいえ、時間の流れは本丸とは並列ではない。それでも、僅か数日とは言え、愛馬たちの世話を怠るつもりはなかった。馬当番であろうとなかろうと人が来ない早朝に大倶利伽羅はいつだってここに顔を出す。心なしか、馬たちも久しぶりの大倶利伽羅に嬉しそうにその場で足踏みをして自分の番を待ち望んでいた。
     そんな彼の手が止まる。そしてゆっくりと後ろを振り返ると、そこに佇む刀に眉を顰めた。
    「――何か用か」
    「いや、散歩していただけさ」
     彼がこちらへとゆっくり近づいて来る。……下手な嘘だ。彼が当番を除いてここに近寄ることは滅多にないことを大倶利伽羅は良く知っている。彼が自分に話しかけに来る理由はひとつだ。
    「難儀な任務だったのだろう?」
    「あんたに話す必要はない」
    「随分と嫌われているようだ」
     わざとらしく肩を落とす男に背を向け、大倶利伽羅は再び馬の背中を櫛でとかし始める。話は終わりだと言わんばかりに。
    「俺は、誰とも馴れ合うつもりはない」
    「鶴丸をのぞいて、か?」
     だが、それを許してくれる相手ではない。優美で穏やかな熟慮の刀、――三日月宗近。本丸の誰もが彼を尊び、敬っている。大倶利伽羅も、彼のことは鶴丸国永と並ぶ双璧としてこの本丸を支える刀であると信じていた。だが、ある出陣以来その考えに疑問を持つようになった。
    『――あなたにも伝えておきますネ』
     出陣から戻ってきたある刀が真っ先に俺の所に来たかと思うと、死んだはずの人間の生存を伝えられた。彼は「吾兵」と名乗り、農民として生き続けていたのだという。涙ぐみながら喜ぶその刀を前に俺はそれを喜ぶことは出来なかった。
    「………黙れ」
    「そう邪険にせんでくれ」
     何故、その男だけを救ったのだと。どうしてあいつを救ってくれなかったのだ、と。どうしようもない憤りを覚えた。
    「あれはもとより俺と鶴丸の二人にきた任務だった。それをあやつが勝手に編成を決めてしまったせいで俺は外されてしまったのさ」
     貼り付けたような笑みを浮かべる彼を睨み付ける。鶴丸が考えることは良く分からないことが多い。けれど、出陣が終わった後なら分かることもある。
    「あんたがいなくても、あんたの代わりがあの時代にいただろう」
    「出会ったのか」
    「……物部と、名乗っていた」
     そうかと彼は口元から笑みを消す。清廉潔白の日の本一の刀とはよく言ったものだ。背筋を駆け抜ける悪寒に足を踏ん張って堪える。褐色の肌の上を一筋の汗が滑った。
    「主からは任務は成功したと聞いておる。皆も大きく成長したと喜んでおったぞ」
    「それを俺に話して何になる」
    「お主が言いたいことは何となく分かる、だが、それを口にしないとはお主も賢い。あの伊達政宗を主に持つだけある」
    「あんたはおしゃべりだな」
    「ははは、じじいだからなぁ」
     ここに来れば大倶利伽羅と会話が出来る。そして、馬の世話をしている最中ならば、途中で投げ出してここから立ち去るはずがないと踏んでここに来たのだろう。立ち去らぬ三日月を大倶利伽羅は一瞥した。
    「……して、あれはなんて言っておった?」
     やはりかと内心ため息を零す。誰に対しても隔たりなく接する彼。その姿は全てを受け入れ、慈しんでいるようで無感情。全てを同列で語るなんて興味がないと変わらない。そんな中、彼が唯一気に掛ける刀がいる。それが鶴丸国永だ。
    「お主の前ならば自らの感情を吐露しておったのだろう。あれが心を許しておる数少ない刀だ」
    「お前に言う必要があるのか」
     彼が鶴丸を気に掛ける理由は知らない。だが、それでも自分が知っている彼をこの男に教えてやるつもりはさらさらない。
    「ないな。……ただの興味本意さ。俺はあれのことを信頼している。どれだけ打ちのめされようとも折れぬ心を持っていることも理解している。だが、今回ばかりは気になってな」
     その言葉に引っかかる。こちらの僅かな表情の変化にも気づいたのだろう。彼の口元に、妖しげな笑みが浮かび上がる。
    「なんせ二度目の島原だ」
    「二度目、だと?」
     もともと鶴丸は多くを語らない。必要な情報ですら語りたがらない。
     仲間たちを育てる傍ら、無駄に傷つけることを嫌う。彼こそ清廉潔白、剛毅直諒の刀。故に、心に課せられた闇は底知れず。だが、彼に言われて気づいたこともある。彼のあの不可解な行動の数々が二回目だとすれば全て説明がつく。気になっていたのだ。どうして、ああまでも山田右衛門作にきつく当たるのかと。
    「お主にも言わなんだか、……まあ、そうだろうな」
     蚊帳の外に放られたような感覚に靴の中の爪先を丸める。
     この男が気に入らないのは今に始まった話ではない。彼らよりも遅くに顕現を果たしている以上、大倶利伽羅には絶対に立ち入れない二人の過去がある。無論、この男が知らないあいつを俺は知っているかもしれない。だが、先日の出陣でようやく理解した。あいつが俺に今まで見せていた顔には能面が貼り付けられていたのだと。あいつは全てを背負ったような顔をして、自分の苦しみを蔑ろにして誰かの悲しみに寄り添う。今回の出陣を経て、過去の疑問は確信に変わった。
    「あんたがあいつを苦しめているのか」
    「……まさか」
     馬用の櫛を硬く握りしめると、ミシという音が聞こえた。刹那、馬の怯えた鳴き声が耳に届く。怖がらせてしまったことに気づいて大倶利伽羅は握りしめた拳を解いた。
    「――……、行ってくれ」
    「ああ、邪魔したな」
     馬のなだらかな背中を優しく丁寧に櫛を通していく。怖がらせてしまったことを悔やみながら。
     悲しみを隠すなら誰かの悲しみの中。彼も自分と同じ事をしていたことにようやく気づいた。彼は悲しみの中で立ち続けている。立ち続けるために、悲しみの渦の中で微笑んでいる。
    『――連れて行ってやれよ、静かの海へ、パライソへ……! やれるものならやってみろ……ッ』
     あんな悲痛な怒号、初めて聞いた。いつだって笑みを絶やさない温厚篤実に務められる刀だったのに。彼の中に渦巻く底なし沼のような悲しみにほんの少しだけ触れられたような気がした。
     刃のようなあの言葉の矛先は果たして誰だったのか。
     甘えるようにすり寄ってきた馬を優しく撫で、温かく生気に満ちたその肌に額を預ける。あの男は、鶴丸はあの地獄は二度目だと言った。きっと、この島原の乱だけではない。あいつは数多くの地獄を見てきたのだろう。俺が目を瞑り続けていた間も、ただ一人で向き合ってきたというのか。
     考えなければ、考えて背負って生きていかなければ。
     いつか彼が背負っているものを受け取れる日が来るのだろうか。
    『――三日月殿からの伝言です。あまり無理をするな、と』
    『しゃらくせぇって伝えてくんな』
     その身を震わせるほどの怒り。あんな姿も初めてだった。きっと、立ち入らせては貰えない。そしてあの男も態々こんなところまで来て牽制していったのだ。
     ―――三日月宗近は、天を見上げていた。土から空に向かって伸びる高い木々の向こうに覗く深い色をした青空。まだ太陽は昇りきっていない。日光によってまだらに照らされた地面が葉の動きによって緩やかに揺れている。
    「お前はこの本丸の太陽だ。明るく、優しく照らし、……その身を、命を燃やし続ける刀」
     ふと、冷たい風が通り抜ける。天へと吹き抜けた風は葉を揺らし、カサカサという音を立てたかと思うと、刹那、枝先で羽根を休めていた鳥たちを空へ飛ばした。
     天から葉と羽根が降り注ぐ。
    「――しゃらくせぇ、か」
     口元に手を当て、くつくつと喉を鳴らすと葉だらけの小径を歩き出す。道の脇に転がった小石に気づかず、まだ若々しい枝を踏み折ることも厭わず。
     三日月宗近は歩き続ける。
     脇目も振らず、ただ歴史を守るために。


     ―――審神者の手から離れて。


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    aiporonica

    DONEこれはまだ、俺が刀剣男士になれていなかった頃の話。

    本丸が出来て間もない頃、同じ平安刀のよしみで共に出陣を繰り返していた三日月宗近と鶴丸国永は島原の乱に出陣することになる。二人が向かった先はかつて山田右衛門作が暮らしていたという口之津村。その港口に潜んでいた歴史遡行軍と遭遇するが……
    酷薄のインフェるノ②「オロロン、オロロン、オロロン、バイ」
    「変わった歌だな」
     男は幼子を大切そうに抱えながらその歌を謡っていた。
     皺が寄った口元に、穏やかな表情を浮かべて。
    「この土地に伝わる子守歌です」
    「へぇ」
     物珍しそうに近寄れば、彼は眉尻を下げて何かを懐古しながら嬉しそうに微笑んだ。
    「私が謡うとすぐに寝付くものだから、子守歌を謡うのは私の役割だったんですよ」
    「なあ、俺にも教えてくれるかい?」
    「はい、もちろんです」

     ―――これはまだ、俺が刀剣男士になれていなかった頃の話。


         ◆

    「今回の任務もあなたたち二人にお願いします」
    「島原の乱か、……厳しい出陣になりそうだな」
    「なに、鶴丸と一緒ならば平気さ」
     本丸が出来て間もない頃、刀剣男士の数も少なく少数精鋭で歴史改変の阻止に赴かなければならない頃があった。二振りで出陣なんていうものはザラにある。中でも同じ平安刀であるよしみから、三日月宗近と鶴丸国永は中でもより難度が高いとされる地に出陣させられていた。顕現したばかりの刀剣男士はまだ感情が定まっておらず、出陣に支障を来すことが稀にある。特に、自分たちが辿ってきた歴史の地に出陣した時には自らの感情に飲み込まれてしまう者も少なくはなかった。
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    aiporonica

    DONE刀ミュ新作のパライソ前日譚序章部。
    観劇後にご覧下さい。今回は主にその後の部分のみ。前日譚に関しては随時ポイピクに投げていきます。年明けくらい纏め&書き下ろしを添えて本にします。

    【全体を通しての内容はこんな感じ】
    鶴丸は二度目の島原の乱だった
    三日月と鶴丸が二人だけで出陣した過去がある
    今回よりももっと凄惨な歴史改変を試みている
    鶴丸国永が山田右衛門作に残した仕掛けの話
    みかつるではない
    酷薄のインフェるノ「――オロロン、オロロン、オロロン、バイ」
     男は、海に向かって謡っていた。
     白髪頭、皺が寄った手、決して若くはない。
     太陽が赤く染まる逢魔時、その男は海に向かって歩き出した。


          ◆

     彼らが本丸に帰城したのは、黎明の刻。言葉も交わさず、それぞれが自室へと帰って行く。しかし、出陣した六振りのうち一振りだけはこの本丸の主である審神者のもとへと向かった。
     白く美しい眞白の刀、平安時代に五条国永の手によってこの世に生まれた名刀、鶴丸国永。あちこちを転々として辿り着いた先は明治天皇のもと。今では御物として納められ、人目に触れることはない。彼は今、刀剣男士として顕現を果たし、歴史改変を目論むとされる歴史修正主義者と相対する者としてこの世に存在している。今回の出陣で部隊長を務めたのは彼だった。
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