花吐き病本「恋愛初心者論」カーヴェ視点 誰もいない家の真っ暗なリビングに、軽い咳の音が響く。歩くたびに足元に小さな色が舞って、後ろを浮遊していたメラックがそれを丁寧に拾い上げて集めていた。
玄関からまっすぐ歩いた先にあるテーブルに片手をついたまま、手のひらを口に当てた。
「ぐ……う……ゴホッ。ゴホッゴホッ」
胸を圧迫されるような感覚に、ぐっと詰まる喉の奥。抑えきれずに吐いた息は、色づいて手のひらに舞った。
口から溢れると同時に形を織りなす花弁。手のひらで抑えきれなかった小ぶりの花が床に落ちる。
「はぁ……はぁ……」
吐き出せばいくらか楽になる。止めていた息を吸うように何度も胸を膨らませ、目を閉じて苦しさをやり過ごす。
握ったせいで少し萎れた小さな花は、控えめな電子音を奏でたメラックがそっと回収していった。空中に浮かんでいる花弁は色とりどりで、スメールでは見かけない花もある。
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