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    流浪 @阿七おいしい

    遙か7阿国さん激推しの阿七狂い。
    阿国さんが幸せなLOVE&ピースな世界が好きです。

    漫画と小説で一応世界線分けてますが、基本イチャイチャしてます。
    小説の方が真面目(?)な阿七です。

    *エアスケブ始めてみました。

    Pixiv -> (https://www.pixiv.net/users/6550170)
    *主にまとめ、長めの小説に使ってます。

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    遙か7 阿国さん
    ガラシャさん救出後〜VSパパの間の、阿国さんとガラシャさんのある晩の語らい。
    根っから弟な阿国さん書くのさては楽しいな??※妄想入ってます。

    珍しくサックサク筆が進んだ。たまにあるこの感覚が気持ちいいから文字書きはやめられない。
    2023.3.7

    姉弟 半月の晩だった。筒見屋の邸の庭は虫の声だけが響き、仄かな月明かりと、面した一室からほろほろと零れる橙の灯明だけが僅かに暗がりを染めている。その方向、開け放たれた障子はこの夜でもとろりとした夏の暑気にせめてもの風を通すため。この季節は時刻を問わず庭に面する部屋はどれもそれが常だった。
     月に誘われるようにふらりと庭に出た阿国が見遣った橙の先、視線を遮る為に置かれた衝立の向こうに人の気配を感じる。まだ休んでいないのか、と案じてそちらに寄ると、砂利を踏む足音に気付いたのだろう、衝立から控えめに顔が覗いた。
    「…やはり。あなたでしたか」
    「まだお休みになっていなかったのですか」
    「寝付けなくて…つい。阿国……いえ、今は光慶、でもいいのかしら?」
    「お好きなように──姉上」
     夜の姿で阿国は薄く笑む。先日石田三成の手から匿った彼の姉、細川ガラシャもどこか嬉しそうに微笑むのだった。


    「…あなたのその姿を見るのは初めてです。夜はいつも?」
     縁側に腰かけた阿国の隣にガラシャが膝を折る。二人で月を見上げるように並んだ。上品な衣擦れの音、静かだが息詰まりのしない空気感。阿国はじんわりと不思議な気分になる。思えば家族として当たり前に共に暮らした頃でさえ、こんな風に夜に姉と二人月を見上げることなどなかった。そもそもあの頃の自分はまだまだ幼くて、こんな時分にはもうとっくに夢に遊んでいたのだ。
    「姉上は私が一日中あの姿だと思っていましたか?」
    「そういう訳ではないけれど、少し驚きました」
     流石というべきか、すぐにそうと気付けたのだ。さしてそう思ってもいなさそうなガラシャに阿国は苦笑を漏らす。しかしガラシャは暫し阿国の姿を下から上に感慨深けに見つめると、不意にふわりと頬を和らげた。
    「──こうして改めて見ると、本当にとても立派な男子になりましたね、光慶。姉として弟の成長を見届けられたこと、とても誇らしく思います」
     母性を感じる慈愛に満ちた笑みだった。子の母でもある彼女なのだから、それが自然と滲み出るのは当然なのだろう。だが阿国が感じたのはそれだけではない何かを堪えるような、惜しむような声色。何より懐かしさや郷愁を誘うそれは、きっと彼女の弟である自身にしか感じえないものだった。意表を突かれた阿国はぐっと胸に迫ったものを飲み込むと、顔を俯ける。俄かに頬が熱かった。暗がりに仄かな明かりたち、今が夜で良かったと、そう思う。
    「…ありがとう、ございます……」
    「ふふ、それに昼間の姿は母上によく似ていると思っていたけれど、やはり男の子ですね。父上の面影も見えて、本当にとても懐かしい…」
    「よしてください。そんな風に言われるのは面映い」
    「よいではありませんか。もうこんな話ができるのはわたくしとあなただけなのですから」
     寂しいことをさらりと言う。きっともう彼女の中では慣れた事なのかもしれない。阿国は返事に一瞬困ってしまうが、確かにもう二人にしか共有できないことはある。
    「…私はこうしてお会いして、自分は姉上に似ているのだと思っていましたが、私たちは母上に似ていたのですか」
    「ああ…そういえばあなたは母上と共にした時間は少なかったのですね」
    「ええ、もうとっくに面影さえ朧げです」
     明智家が滅ぶずっと以前、姉弟の母は彼岸に旅立っていた。光慶の物心がつく前だった。父がよく愛したという妻が既に逝去していた、その事実も彼の野心を後押ししたのかもしれないと、阿国はふと考える。引き止めるものが少なければ少ないほど、人の心は誘惑に容易い。
    「母上はとても美しい人でしたよ。優しく聡明で、父やわたくしたち子らをとても愛してくれていました」
    「…それは、なんとなく分かります。確かに姉上とよく似ている」
     どこかしんみりしてしまう気分を誤魔化すように阿国はおどけて笑ってみせる。記憶を辿るように細められていたガラシャの目が一瞬丸く開き、しかしすぐにまた細まる。今度は阿国と同じく悪戯な色だ。
    「ではわたくしに似ているあなたも、やはり母上似ということでよいですね。心根まで美しく優しくて、人を愛しているあなたはとても素晴らしい。…母上のように」
    「姉上…」
     弟というものは姉には永遠に敵わないものなのだろうか、阿国は今度こそ面と向かって頬を染めてしまう。それをガラシャはくすくすと笑い、更に狼狽するような話題を向けてくる。
    「神子様とは近頃どうですか?わたくしの見る限り仲は良好なようですが、将来を話し合ったりはしているのですか?」
    「──将来…ですか?」
     阿国はぎょっとする。随分と気の早い話だった。ガラシャは小首を傾げる。
    「あなたたちは恋仲でしょう?もうよい歳ですし、そういった話もするものではなくて?」
    「お、お待ちください姉上…、何か思い違いをしてらっしゃいませんか?私と神子はまだそういった関係では…」
    「ええ?でも想い合っているのでしょう?」
    「いえ、その…はっきりとした話はまだなくてですね…」
    「しかしまだ、まだ、とあなたは言っているではありませんか。少なくともあなたにはその気があるということでしょう?」
    「いえ、それはそうなのですが…なんというか私としてはですね…その…あの…」
    「なんですかまだるっこしい。はっきりなさい光慶。男でしょう」
     思い違いと遠慮のない家族ならではの押しの強さ。末の弟はひたすらたじろぐしかない。恐縮するように身を窄めてガラシャの追求を浴びていた阿国は、ついに項垂れて肩を落とす。背を丸めたまま顔だけを半月に向かって上げた。今宵は弱い星明かりの代わり、月が慰めるように柔らかい。
    「…確かに、私は神子を恋しく想っています。ずっと共にいたいと思う大切な相手です。そして神子も…こちらの自惚れでなければ、憎からず私を想ってくれている」
    「ええ、わたくしからもそう見えますよ」
    「ですが、神子のそれが本当に私と同じ色なのかはまだ分からないのです…。あの子は私などよりよほど優しく思いやりに溢れて、そして万物に愛されている。私のように舞と彼女しかいない、そんな狭い世界では生きていない。…このまま求めて本当にそこで生かしていいのか、どこかで私は迷っている…」
     隣にいて欲しい、共に生きたいと、あの夜阿国は彼女に願ってしまった。返事は待たず、心が求めるままだったあの抱擁に彼女は応えてくれたが、今になってそれを少し後悔している。相手の気持ちを確かめる前にそうしてしまったことで想いは更に膨らみ、それに比例して臆病になってしまう自分に気が付いていた。いつの間にか阿国はまた俯いてしまっている。
    「…神子様は織田の姫君でしたね。幼いあなたの許嫁だったなお姫様…」
    「ええ…」
    「あなたの迷いにそれは関係しているのですか?」
    「…どうでしょう。彼女は私に憎しみなど微塵も向けず、寧ろ同情してくれました。同じだと、受け止めてくれた…。とても救われた心地がしました」
    「そうですか…」
    「多分、私も彼女も後ろめたく思うことはもうないのだと思うのです。光慶としてではなく阿国として、今の私は彼女を想っている。彼女の八葉であることさえも誇りとして、私は前を向いて生きていける……そう、思うのですが…」
     阿国は浮かんでくる自嘲の笑みを抑えられない。これでは折角立派になったと褒めてもらえたのに、まるで格好がつかない。気まずく思いちらりと姉の方を見ると、凛と力強い瞳とかち合った。
    「姉上…」
    「──光慶、あなたは神子様のことを信じていますか?」
    「──はい」
     姉の威厳さえ感じる真摯な姿勢に、阿国は自然に背筋を正していた。かつてはそれが当たり前だった。辺りの景色が遠のき、代わりにいつかの懐かしい情景が浮かんでくるようだった。家族に囲まれ、光に溢れていたあの城内。
    「わたくしは神子様ではないから神子様の本心などは分かる由もなく、また無責任に言うこともできません。ですが、信じることはできます、あなたと同じように。あの方は正直で、いつもあなたへの思いやりで溢れ、見つめる眼差しはとても暖かい。わたくしはそれを見るにつけいつも嬉しく思うのです。姉として、これほど想われている弟に心から安心しているのです」
    「………」
    「所詮は男と女、しかも他人同士ままならないものです。互いの心など初めから縒り合うはずもないでしょう?共に過ごし語り合い、そうして少しづつ歩み寄り、お互いが理解を示し求め合う。あなたがあなたなりに神子様を求めるように、神子様もまた神子様なりにあなたを求めるのです。光慶、それでよいとは思いませんか?一度始まってしまえば後のことなどどうにでもなるのですから」
    「それは──…随分と簡単におっしゃる」
    「簡単なことですから」
     呆気に取られるしかない阿国にガラシャはきっぱりと撥ね付ける。
    「悩むだけ時間の無駄です。神子様を信じているのなら尚更。まったく、そこは父上によく似たようですね。父上も生真面目な方でしたから、あれこれとよく何やら沈思してらっしゃいました。そこは母上の方がよほど果断でしたよ」
    「…返す言葉もなく……」
     阿国は額に手を当てうめく様に呟く。こうもあっさり看破されては本当に居た堪れなくなる。
    「…本物の女性というものは誰もがこうも力強いものなのでしょうか。それとも姉上や神子が特別なのですか…?」
    「わたくしは強くなどありませんよ」
     白旗を挙げて情けなくぼやくが、対してガラシャは首を横に振った。その面に今宵初めて切ない影が射して、阿国は目を見張る。
    「…本当は偉そうにあなたのことを言えた身ではないのです。…いえ、我がことではないからこそ簡単に言えたのでしょう」
    「それは…忠興様のことですか…?」
     憚るように問うと、ガラシャは更に淋しそうに微笑する。
    「夫婦となった当初、わたくしは殿を夫として愛しておりました。それは激しいものではなかったけれど、とても穏やかで心地のよいものでした。けれど父上があのような大事をしでかし、わたくしの運命は変わってしまった。殿のお立場を推し量れば仕方のなかったこととはいえ、わたくしは己の不遇を嘆き、ずっと殿から目を逸らしてしまったのです」
     ガラシャは胸に掛けられた十字の章を心許なく握る。
    「愛など何がきっかけで変わるか分かりません。しがみつくにはこの世で最も不確かなものとさえ言えるのかもしれない…。あなたと約束した通り、わたくしはもう一度殿と向き合うつもりでいます。けれどそれは決して以前と同じものではない、自らを生かす為にです。わたくしも殿も、もう以前のように手を取り合うことはきっとないでしょう」
    「姉上…」
    「だからこそ光慶、あなたには神子様への想いを貫いてほしい。不確かなこの世を胸を張って生き抜いてほしいのです。…また、あなたにわがままを言っているのは承知していますが」
     ガラシャの強くも切実な声音には、不確かな未来へ縋るしかない不安さえ滲んでいる。それは阿国自身にも似通って、どこまでも二人の血縁を感じてしまう。お互いにまだ全てが解決した訳ではない。共に希望を持って強く生きていこう、と約束をしただけだ。不安はきっと同じだった。阿国は一つ息を吐く。
    「…寝付けない理由はそれでしたか」
    「ふふ…、まだはっきりしないのはお互い様でしたね」
     楽しいからではない、思いがけず切なさを共有して静かに笑い合う。二人を照らして浮かぶ半月は、まだどちらにでも転ぶのだと、そう暗示するような淡い輝きだった。ただ願わくば互いに満ちる方向へ、阿国はそう祈らずにはいられない。
    「そういえば細川家ですが…、つばきさんがようやく今朝店の者を使いに出せたそうですよ」
    「わざわざ使い…ですか?文ではなく?」
     目を丸くするガラシャに阿国は頷く。
    「この混乱した時世…しかも事が事ですから当然の用心かと。それに商人であれば目を欺き易いだろう、と。ただ忠興様の耳へ入るのがいつのことだか知れないのが申し訳ない、と言っていましたが…」
    「まぁ…。つばき殿が煩うことではないのに…」
    「そうですね…」
     まだ当分迎えは来ないだろう、その心積りを伝えると、ガラシャはすぐに心得てくれた。
    「筒見屋さんにはよくよくお礼をしなければなりませんね。もっとも今のわたくしには何も返せるものがありませんが」
    「そのお心だけでつばきさんなら分かってくれますよ」
    「だといいけれど…。あなたも、ありがとう」
    「いいえ、私だって当事者ですから。当然です」
     それから暫く二人は言葉少なに月を眺めていたが、阿国は隣の気配が段々と緩み始めたことを察すると苦笑を零した。
    「もうお休みになれそうですか姉上?」
    「ええ、お陰様で。あなたも遅くまで付き合わせてしまってごめんなさい」
     常は凛としたガラシャの目尻は、少し微睡んで下がっている。阿国はそれで安堵して腰を上げる。
    「では私はこれで失礼いたします。少しでも良い夢を…」
    「あら、含みを持たせますね。…あなたも良い夢を」
     やはり苦笑で返すしかない。阿国はまた庭の方へ足を向ける。しかしそれを不意にガラシャの声が引き止めた。
    「今宵はあなたと話せて本当によかったですよ。ありがとう、光慶。おやすみなさい」
    「──ええ、私もです。姉上、おやすみなさい」


     戻り着いた部屋は庭以上に暗く、そして静かだった。景色は夢のようにもうとっくにあの城を離れている。阿国は人知れず溜息を落として座り込む。振り返ってみれば本当に不思議な時間だった。
    「家族…か…」
     以前はもう二度と見えることはないと思っていた。生き別れた姉が今も細川家に在ることはもちろんずっと知っていて、だからこそあの日、つばきの誘いに乗ることを阿国は渋ったのだ。ましてや今夜のように姉弟水入らず穏やかに語り合うような、そんなことは微塵にさえも考えていなかった。それはまさに夢のようで、阿国は泣きたくもなる。ただ今更、どうやら根に染み付いていた弟としての顔を晒させられたことだけはどうも口惜しい。例え装いをまるきり変えていようが、明日また顔を合わせることをやや気恥ずかしくも思った。そして彼女──七緒に対してもそれはきっと同じだった。
    「あれは赤裸々に語りすぎだろう…」
     これは後悔ではなく羞恥だった。気を許してもいい相手であってさえ話し過ぎた気がする。お陰でまた想いは募ってしまった。だが話してよかったとも思える。少しだけこの想いへの向き合い方が分かった気がする。彼女のありのままを受け入れられる己でありたいと覚悟を持てる。こちらのありのままを受け入れてくれる彼女のように、強く。
     誰もがまだ問題は山積している。怪しい呪符、やがて大戦へともつれ込んでいくだろう方々不穏にくすぶる戦の気配。そして、阿国自身の夢と過去。不確かな明日を、それでも誰もが胸を張って生きられるよう、ガラシャのように阿国はそれを世の中へと願う。弱き人々にこそ光あれ、と。きっと、その為にこそ自分は生きてきた。
     見上げた視線の先、静かに柔らかい半月は少し西へ傾いていた。明日へ向けてまた刻は移ろっていく。それは小さくも強い、ひたむきな願いを乗せてゆっくりと。


     
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    k_ikemori

    CAN’T MAKE遙か7_兼七。前半はTwitterに上げててそれと対になる様にとED後のやつも書きたかったんだ…合歓木


    長雨が続き、しばらく道中の宿にて逗留を余儀なくされていたが、数日たった今日、ようやく雨が上がった。
    足元は雨上がりのためいいとは言い難いが、本来の行程を歩むべく一行は宿を後にした。
    しばらく歩き続けたそんな折に、ふと山際へと視線を向けて歩く兼続に気付き、七緒は不思議に思って横へ並ぶと声をかけた。
    「兼続さん?なにか気になることでもありましたか?」
    「ん、神子殿。ああ、大したことではないのだが…」
    そう言いつつ、つい、と指を木々へと向ける。
    「陽を浴びて新緑眩しいこの時期に、撫子色のアレは目を惹くなと思ってな」
    兼続がいうアレとはいったい何なのかと、指さす方へ視線を凝らせば、確かに緑の中にちらちらとピンク色の綿毛のようなものがあり、七緒は納得の声を上げる。
    「ネムノキですね。確かに、この時期に木に花が咲くのってあまりないからついつい目が留まってしまいますね。ふわふわの綿毛みたいで可愛いですよね」
    「……ああ、その通りだな」
    くつくつと笑い、兼続はちらりと視線だけで七緒へ視線を合わせるとにんまりと口角を上げて笑う。

    「神子殿に似て、愛らしいと思って見ていたんだぜ」





    1069

    k_ikemori

    DONE天文台で毎夜星を眺めてる長政さん超エモいなと思って荒ぶったけど自分で書くとそうでもないなと冷静になった…この冬の時期に七緒が出勤して初めに行うことは、分厚い上着を掴み取る事から始まる。
    裏口から入るのでそこからは望遠鏡が置いている部屋と、望遠鏡の前に陣取る人影がきっといるのだろうが、生憎とここからは見えない。
    小部屋にはそれほど大きくはない机と仮眠が出来るようベッドが置いてあり、部屋の隅にミニキッチンが付いている。凍えそうな夜はそこでコーヒーかホットココアを入れて寒空の下、それを飲みながら観測する事が至福のひと時である。
    小部屋に入って、壁に掛けてある上着が自分の物とは別にもう一つ残っていることに気付いて七緒はキュッと柳眉を寄せた。
    「…もう」
    手早く自分の上着を着込み、もう一つの上着を腕に抱くと七緒は小部屋を後にした。
    ある程度厚着をしているだろうが、分厚い防寒着があると無しでは雲泥の差だと七緒は思っている。
    小部屋のドアを閉めるとシンと静まりかえったこの場所によく響く。
    七緒が出勤した際にドアを開け閉めした音に気付かぬ人ではないのだが、放っておくと明るくなるまで望遠鏡の下から動かないような人だということを思い出す。
    ゆっくりと望遠鏡の下まで辿り着き、七緒が傍まで来たのに微動だにしない 3117