あなたが欲張りでよかった 空中庭園に夜がやってきて、紺碧の緞帳が世界を包み始めた。残しておいたじめにゃんのクッキーを咀嚼して、今日も一日が終わる秒針を、体で感じる。
俺は欲張りだから、悪人なのに友達なんてものを欲してしまった。
じめにゃんのこと。
あれから俺の誘いに応えてくれて、こうして顔を合わせる密会のようなものを定期的につくっている。用もないのに。俺は用事がなければ人と会うことがなかったから、最初はあれこれ用事を繕っては約束をしていた。用事がなくても呼んでくれていいんですよ、といわれたときには晴天の霹靂だった。いいのか。――いいんだ。
嬉しかった。
喜んで欲しくて、ブランドのサシェとか、茶葉とかを持ってきたけれど、二人で使いましょうと手に戻される。
猊下とも仲がいいわけで、金に物を言わせるようなことのあしらい方もわかっているのだろう。
「いばにゃん」
「じめにゃん。おつかれさまであります」
「えへへ、おまたせしました。ハーブティーを持ってきたので、クッキーと一緒にのみましょうね」
「はい」
ベンチに広げたクッキーと水筒のハーブティーが、夜の入り口でふわふわとひかっていた。ともしびがあたりを照らして、夜の底に二人で座っている。
「しかしプロテインクッキーなのにじめにゃんの手作りはおいしいですな」
「ふふ、ありがとうございます、おまじないをかけたので。凛月お兄ちゃんから教わったんです」
「秘伝のレシピなんですね、後学のために是非教えていただきたいところ……」
食欲がなくてもこれだけは食べられた。食べることを忘れた時も、これを齧ればなんとかなるので不思議だった。
「これからまた仕事ですか?」
「まあ少しだけ」
「あんまりむりしちゃだめですよ? 休憩にこのクッキー、たべてくださいね」
夜色が微笑んで、それが澄んでいた。やっぱり自分には遠いところにいる優しさなんだ、とぼんやり思う。
「最近の俺はじめにゃんのクッキーで形成されていますな! あっはっは」
だめですよ、とわらわれればよかったのに、じめにゃんは静かに俺を見て云う。
「そうだったらいいです」
手をそっと取られて、握り締められる。やわらかいけれど、それは男の手だった。
「ぼく、いばにゃんの全部、ぼくでいっぱいになったらいいって思っちゃいます。うさぎは欲深いんですよ……」
どきりとする。
夜色はやっぱり綺麗で、俺を捉えて離さない。
「じめにゃん……」
そんなの信じてしまいそうになる。
あなたが欲張りで、よかった、と。
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いばにゃんが「欲張り」な男に見せかけて、実はじめにゃんのが「欲張り」だった…みたいなシチュエーションが見たいです……!
(220404)