海底ランデブー「あーしたーはーまべーをーさぁまーよえーばー」
浜辺へと続く防波堤の階段を童謡を口ずさみつつも足取り軽く登っていく。この浜辺は幼少時のお決まりの散歩道で、だからか成人した今でもこの道を通るときはついつい祖母とよく歌っていたこの童謡が口をついて出る。
夏だというのに周囲に人影はない。観光客で賑わっているのは山を回ったところにある海水浴場だ。ここは駐車場もないので、地元の人間しか来ない。その地元の人間も軒並み高齢化していてわざわざ泳ぎに来る物好きは自分一人くらいなもの。なので、気にせず口ずさんでいた。
「むーかーしのーこーとーぞしのばるるー……」
大学進学を機に一人暮らしを始めた青年――名を水木という――のもとに、梅雨が明ける頃に実家から電話が入った。なんでも鳥取で一人暮らしをしていた祖母が倒れたというのだ。幸い、すぐにご近所に気付いてもらえたそうで、命に別状はない。しかし入院が必要になり、リハビリを含めると夏の間は家が無人になりそうなので、家守りをしてもらえないかとのことだった。
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