distortion 呻く声は扉を開く前から聞こえていた。ノックに返事がないのは予想がついていた。鍵を外して部屋へと入る。白いベッドの上で丸くなった体は胎児のようだった。あの頃まで、喜怒哀楽の全ての中に放り投げられる前まで戻れたのなら、そこから動かずにいるのが一番幸せなのかもしれない。
「痛むのか?」
命に別状はない、という診断結果だったけれど、動きを止められる程度には攻撃を受けているのだからとても軽傷とは言えない状態だった。乱れたシーツから覗く足首には包帯が巻かれている。まっさらな白は、病室の中にあっても馴染まずに浮いて見える。
「じきに鎮痛剤も効いてくる。少しの辛抱だ」
さっき投与されたのは、鎮痛剤と呼ぶには少し強すぎる代物だ。彼を苛んでいるのはおそらく傷の痛みだけではない。俺の声が聞こえているのかどうかも定かではなかった。包帯を巻かれた足がシーツを蹴る。また新しく弧が描かれる。強張った手が暴れるように動く。今にも波間に沈もうとしているようだった。
2475