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    ひなた

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    ひなた

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    2021.8.1 Privatter掲載

    4520
    愛を詰めこみました。

    花言葉に託して== 花言葉に託して ==


    一、


    「母さん、その花どうしたん」
    「花菖蒲。お隣さんにもろたん。花言葉は」
    「『あなたを信じる』やろ。毎年言うてるから覚えたわ」
    「菖蒲って5月5日の誕生花なんやって。狂児のお花やねえ」
    「はいはい」

     狂児の母は花を活けることが好きな人だ。家の近くの公民館で、生花のナントカ流を数年ほど習ったことがあるらしい。おかげで家にはいつも大小何かしらの花が飾られていた。季節の花、節句の花、行事の花。5月5日、狂児の誕生日が近くなると決まって花菖蒲を活けて飾った。柔らかくも深い紫色の花びら、剣のようにスッと伸びる鮮やかな緑の葉。母は花を活けるたび、その花にまつわる花言葉や季語や誕生花の話をしてくれた。狂児がその話に耳を傾けていたのは、小学校を卒業するまでだったが。
     中学と高校、それ以降の長い間、狂児の眼中に花はなかった。狂児が歩く道端に季節の花は咲いていたし、街中の店やショーウィンドウに花は飾られていたが、狂児の頭は花を美しく感じ、愛でる対象として認識することはなかった。それよりも刺激的な何か、人間関係だったり、女だったり、どす黒さや曖昧なグレーに染まった世の中の側面や暴力が、その眼には映っていた。

     狂児が祭林組に入って、まだ間もない頃。
     小林の後ろについてシマのキャバクラを見回りに行った時、キャストの女の子がいきなり花束を差し出してきた。
    「成田さん、もらってください!」
     透明なフィルムに包まれた、9本の赤い薔薇。街中のキャバクラで突然始まった告白劇に、客席は大いに盛り上がった。
    「モテる男は違うでぇ!女から花束もらっとるわ!」
    「ニィちゃんシュッとしとるもんなぁ」
     客は羨ましげに茶化し、ボーイは真顔になり、他の嬢らは笑顔でその子を睨みつけた。小林はニヤニヤしながら成り行きを見守るだけで、若い狂児に助け舟を出そうとはしない。
    「そぉや、成田くんそろそろお誕生日やって言うてはりましたものねぇ」
     艶やかに微笑んだママがわざとらしくも適当な嘘を吐き、早よ受け取れと狂児に目配せをした。ヤクザになりたての、まだ素人に近かった狂児は花束にも冷やかしにもどう反応したらいいか分からず、とりあえず「ありがとう」とお礼だけ言って花束を受け取った。
    「受け取ってくれるん?ありがとう!」
     女の子は感激した目で狂児を見つめた。狂児が花束を受け取った瞬間、客席から拍手が沸き上がった。客の誰かが戯れにバースデーソングを歌い出し、店内は皆、若い二人を祝福するフリをして合唱した。歌い終わって手を叩いた後、一連の茶番は幕を閉じた。
    「また連絡しますねっ」
     嬉しそうにそう言ってその子は客席へと戻って行った。いや、こんなんもろても腹の足しにもならんのやけど?そもそも俺の誕生日は半年先やで?と狂児はうっかり正直に言いそうになったが、それは腹の内におさめた。

     小林との見回りが終わり、狂児は本日の寝床(ヒモ先)に向かった。家主である女に先ほどもらった9本の薔薇の花束を見せると、彼女は口に両手を当てて嬉しげな悲鳴をあげた。
    「これ、やるわ」
    「えっ!!ホンマ?!ホンマにこれ、もろてもええの?!」
     顔をぼおっと赤く染め、狂児と花束を何度も交互に見つめた。狂児の顔をじっと見つめる目にはうっすらと涙が浮かび、「やだ、どうしよう」としきりに呟いている。要るのか要らんのか、早よしてくれんかな。女に花束を差し出したまま狂児はそう思っていると、女はやがて意を決したように花束を受け取った。
    「うれしい。…ずっと待ってたの。ありがとう、狂児。これからもよろしくね…」
     待ってたって何やねん。この女の部屋を時々の寝床に使って半年くらいになるが、待ってたって何を?これからもよろしくねとはどういうことかと疑問が狂児の頭を掠めた。女はたった9本の薔薇の花束を大事そうに抱きしめ、花瓶がないからこれでとビールジョッキに薔薇を活けた。
     その晩、寝る前のセックスの間中、女は「うれしい、狂児から言ってもらえて」「ずっと一緒におってな」と言っていたような気がするが、溜まったものをさっさと出してしまいたいお年頃の狂児の耳に、その言葉は届いていなかった。

     その一週間後。
     その日、小林は非番だった。非番とはいえ、呼び出しがかかればすぐに事務所へと出向く。特に事務所に行く用事がない日、非番。
     気の向くままに片付けだの洗濯だの普段は疎かにしがちな生活に時間を使い、夕方になってきたので夕飯でも食べに行くかなと思っていた矢先だった。玄関の呼び出しを何度も押され、その乱暴さに小林は身構えた。用心深くインターホンとドアスコープを確認すると、玄関前に立っていたのは狂児だった。
    「なんや、狂児か。来る前に電話くらいせえや」
    「すんません、あの、ちょっと、訳がわからんで」
     珍しい。いつもはビールをぶっかけられても平静としている狂児が、珍しく狼狽えている。狂児は自分の携帯を小林に差し出した。携帯はずっとチカチカと点滅をしていて、引っ切りなしの着信を知らせていた。背面のディスプレイには二つの電話番号が交互に表示されている。
    「どないした、狂児。これ、どういうことや」
     聞けば、先日のキャバクラの女の子と、ヒモ先の女がかけてきているのだと言う。
    「俺もよお分からんで…二人ともなんや、めっちゃ怒ってて」
    「…ちょっと電話出てみ」
     着信ボタンを押した後、小林にも聞こえるようにと狂児はスピーカーボタンを押した。たちまち小林の部屋にヒモ先の女の泣き喚く声が響いた。
    「狂児?アンタ、なんで他所の女のとこ行ってんのっ!なんでウチんとこ帰ってきいひんの!付き合うって言うたやんかっ!」
     小林は携帯を指差し、口パクで(付き合うてんの?)と狂児に伝えたが、狂児は何度も首を横に振った。
    「ウチ、狂児が帰ってくるの、ずっと待ってんねん!ねえ、何とか言ってよ!」
    「俺、オマエと付き合うなんて言うてないで」
     携帯に向かってぼそっと狂児が言うと、女は急に怒り始めた。
    「ハァ?!アンタ、この前、花束くれたやん!赤い薔薇やったやんか!9本!!」 
    「それがなんやねん。あの花はもらいモンや。キャバクラのネエちゃんにもろたん、お前に渡しただけや」
     淡々と事実を伝えると、電話の向こうからヒュッと息を飲む音が聞こえた。小林は心の中で、そこは正直に言うたらアカンやろ!とツッコミを入れたが、放たれた言葉は戻ってこない。
    「ひどい、ウチ、アンタがウチのために買うてくれたもんや思って、」
    「もう俺そっちに行かんから」
     電話の向こうから「狂児!」と縋るような女の声が聞こえたが、狂児はそれきり通話を切り、着信拒否の設定までしてしまった。
     花束を渡してくれたキャバクラの女の子とも似たような会話が繰り返され、彼女の番号もまた着信拒否に設定されてしまったのだった。

     小林には引っかかることがあった。二人とも花束、9本の赤い薔薇をくれたから、と言ったのだ。
    「アニキ、9本の赤い薔薇って何?」
     狂児も同じく気になったようだった。小林は懇意の生花店に電話をし、その意味を問うた。
    「おっ小林さん、恋人でっか?ついにマツリの小林にもエエ人が!赤い薔薇の花言葉は『あなたを愛しています』、9本やったら『いつも一緒にいてください』って意味ですわ」
    「本数にも意味あるんか」
    「そうなんですわ。せやから、花束作るときにはよお確認せんとあきまへん。花によっては物悲しい花言葉もありますし、本数によっては意味が全く違うてきます。小林さん、赤い薔薇108本はどないです?あなたを愛してます、結婚してください。プロポーズにはバッチリですわ!男前の小林さんが赤い薔薇108本持って歩いとったら、そら映画やな。絵になるやろなぁ。いつもお世話になっとる小林さんのプロポーズや、お値段もね、オマケしとかなあきまへんなぁ!」
    「いや、ええねんええねん、それはまた今度」

     近くの中華料理屋で夕飯を食べながら狂児に花束の真相を説明してやると、狂児は心底面倒くさそうに「そんなん分かるわけないやないですか」とのたまった。
    「さっさと言うてくれたらわかりやすいのに、花言葉て」
    「あのな、狂児、二人とも言うに言われんかったんやと思うよ」
     あの花束を通じてキャバクラの女の子は狂児に愛を告白し、ヒモ先の女は狂児から愛を告白されたと思ったに違いなかった。狂児に対して面と向かって言えない言葉を、あの花束に託したのだ。
     彼女らが狂児に気持ちを伝えるまでに感じていたであろう恥じらいや、もどかしさ、花束を目の前にした時の喜び、渡すまでの心の揺らめきを小林は思った。しかし、噛み砕いて説明をしても狂児の表情はいつまでも合点がいかない様子で、挙句には鬱陶しいとまで言い始めた。
    「そんな面倒臭いことしてくる女、さっさと切って正解やったと思います」
    「オマエなぁ、そんなん言うてたらいつか刺されるで…」
     小林はラーメンを啜りながら思った。狂児、オマエ恋したことあれへんやろ。会いたいけど会われへんとか、手を握ることもできひんとか、そういう胸がぎゅうっとなる甘酸っぱいの、やってないやろ。まぁ女を宿泊先くらいにしか思うてない奴には、わからんよな。

     恋をするしないは狂児の勝手だ。そこには言及しない。しかし、たとえ相手を好きではないとしても、寄せられた好意への対処法は教えておく必要がある。何せ狂児はお顔が良い。これからもこの手の揉め事は絶えないだろう。
     今回は流石に花言葉とは思い至らなかった。狂児の対応は、一瞬の希望を持ってしまった彼女らには辛いものだったに違いない。これからあの女の子はキャバクラを辞めてしまうかもしれないし、ヒモ先の女が何かしら狂児に危害を加えるかもしれない。身の安全を考えるなら、甘い言葉で薄い希望だけを持たせておき、ほとぼりが冷めた頃、優しい言葉で仕方がないんだと関係を切る。そこんとこのズルさや匙加減を狂児には教えとかなあかん…
    「とりあえず、お前、当分うちにおり。あのキャバクラには近付いたらあかん」
    「はぁ」
    「あとは花束、もう受け取るなよ。渡すのもあかん」
    「はぁ」
     狂児の顔からは、自分の何が悪いのかわかりませんという不満がありありと見てとれた。小林は小さくため息を吐きながら、何から教えたものかなと思案した。

     まさかその二十数年後、遅かりし初恋を咲かせた四十路の狂児が一生懸命スマホで花言葉を調べる、そんな光景を見ることになろうとは思いもよらなかったけれど。

    「オマエまだ悩んでんの」
     ここ数日、狂児は東京に住むかわいい思い人に花束を渡そうかどうしようか、悶々と悩み続けている。事務所のソファーに座ってひたすらにスマホで花を検索する日々。
    「アニキ、ハタチのオトコのコって花言葉なんて知っとるもんやろか…」
    「狂児は全然知らんかったよな〜」
    「せやねん。やっぱり知らんよなぁ」
    「そんなん、好きやってはっきりパシッと言うたったらええやん」
    「言える訳ないやないですかっ」
     ほ〜〜〜ん。恋しちゃったんだ、ねえ。あの狂児が、ねえ。食いつき気味に返事をした狂児を、小林はニヤニヤと笑いつつ眺めた。狂児は携帯を見つめたまま、ぶつぶつと独り言をつぶやいている。
    「もう、伝わらんでもええような気になってきた。せやな、渡すだけ渡して…」
     悩ましくも幸せそうに恋に振り回されている狂児を、小林は黙って見守った。人間変わるもんや。恋せよ男子。あぁ、今日もエエ天気やな。窓越しの青空に向かってほわっと吐き出した煙草の煙は、丸くなってすぐに消えていった。


    ****
     

    二、


     人生で花束を貰うのは、これが4度目だった。そのうち3回は卒業式、残りの1回は目の前にいる男から。
     ピンクと黄色のチューリップ。ヤクザな男が持ってくるには、あまりにもキュートで可愛らしい。

     とある4月の夕方、何の連絡もなく急に聡実の自宅にやってきた狂児は入ってくるなり、花束を聡実に差し出した。
    「受け取ってくださいッ」
    「…ありがとうございます。ってどないしたん?」
     聡実が花束を受け取ると、狂児の顔はぶわわわわっと赤く染まった。
    「いや、あの、誕生日、聡実くん、ハタチの誕生日やからね」
    「誕生日って先々週、もう祝ってくれはったやないですか」
    「4月は全部、聡実くんの誕生日やで」
    「なんでや。で、なんで花束」
    「ええねんええねん、これ花瓶。あとこれ、水に入れたら花、長持ちするらしいで。最近は花もハイテクやなぁ〜。ほなまた」
     しどろもどろにちぐはぐな会話をし、あれもこれもそれもと聡実に押し付けると、狂児は玄関のドアを開けてそそくさと帰ってしまった。滞在時間、5分。

    「…これまでで最短やったな」
     玄関に向かって聡実はひとりごち、花束を台所のシンクに置いた。渡された手提げ袋にはとっくりのような形をしたガラスの花器が入っていた。とりあえず水を入れ、花束をほどいて活けた。若干、花瓶に対してチューリップの背丈が長すぎるような気もして、ハサミで茎の下の方をちょきんと切り、もう一度活けると今度は収まりが良くなった。
     3本の黄色いチューリップと4本のピンクのチューリップは、まるであかるい電気のように4畳半の部屋を彩った。チューリップの色を、やわらかな曲線を、聡実は綺麗だなと思った。もうすぐ開くであろうチューリップの蕾をとんとんと指先でつつき、綺麗なものを眺めるのがとても久しぶりであることを思い出した。そういえば、聡実の部屋に花が飾られたのは初めてだった。
     こんなに綺麗なものを持ってきてくれたのに、狂児は聡実の側にいなかった。狂児なんで帰ってしもたんやろな。なんで花束。なんでチューリップ。相変わらずやることが突拍子ない。聡実はスマホを見たが、狂児からのメッセージは入っていなかった。『ありがとうございます』と送ったメッセージに既読は着いたものの、返信はなかった。
     
     花のある生活は、まるで生き物を飼っているようだった。
     狂児が贈ってくれたチューリップは、倒したり落っこちたりしないよう机の奥の方に飾られた。レポートを書く時もごはんを食べる時も、黄色とピンクがちらちらと聡実の視界に入った。聡実はこまめに水を換え、花瓶の水が濁っていないか気をつけた。自然と「おはよう」「ただいま」と声をかけるようになり、自分が居ない間の部屋の温度が気になるまでになってしまった。蕾が開いたときには、小学1年生の鉢植えを思い出した。
     数日が過ぎ、美しさの盛りを終えてただ大きく開いていくばかりとなった花は、ある日ばらりと花びらを机に落とした。花のある、ささやかに幸せな日々が終わろうとしていた。
     聡実は落ちてしまった花びらをつまんだ。少し色褪せ、かすかに皺の寄った花びら。相変わらず狂児からの連絡はない。でも次に会う日は決まっている。5月5日。狂児の誕生日。自分も狂児に花束でも用意しようか、そう思うと疑問がわいた。狂児はなぜ、自分に花束なんかくれたのだろう。黄色いチューリップとピンク色のチューリップ。
     ふと聡実は、中学校の卒業式で歌った『ライラック』という合唱曲を思い出した。

     思い出花束にして
     旅立つ君に贈ろう
     思い出花束にして
     新たな道へと向かおう
     僕らの友情ひとつひとつが
     未来を支えてくれますように

     在校生への返歌だった。みんなへの感謝と未来への決意を胸に歌いましょうと音楽の木村先生は言った。
    「ライラックはヒヤシンスのように小さな花が集まってるお花なんやね。小さな花のひとつひとつが、この歌の中では思い出であり、友情に例えられてるのよ。ライラックの花言葉は『思い出、友情』。そんな隠された意味も歌に込められています」

     花言葉。聡実は急いでスマホでチューリップの花言葉を調べた。
     黄色のチューリップは、望みのない恋。
     ピンク色のチューリップは、誠実な愛。
     3本は、あなたを愛しています。
     4本は、あなたを一生愛し続けます。

    『望みのない恋とはわかっています。でも、あなたを愛しています』

    「ハハ、なんやそれ…」
     望みのない恋ってなんやねん。ヤクザやから?年の差?いっつも自信満々な顔して僕んとこ来るくせに。それでも愛してますって、ずっと愛しとけやボケ。
     玄関で花束を渡してきた時の狂児を思い出す。聡実に告白できない狂児からの、物言わぬ花の手紙。
     聡実の眼からひとつぶ涙がこぼれる。
     アホやなぁ、狂児。ほんま、アホ。肝心なこと隠したまんま、僕に花渡したら満足やったんか。なんで僕がずっと会うてると思ってんねん。望みがないわけないやんか。望みなんかなんぼでも、あるっちゅうねん。


    ****
     

    三、


     チューリップをかかえたあの子はやっぱり可愛らしくて、聡実くんはお花も似合うんやなと狂児は思った。腕の中で優しく抱かれたチューリップは綺麗で、口には出せない聡実への想いを聡実に抱きしめてもらったような気分になった。帰りの車の中で狂児は清々しかった。聡実の部屋に残してきたチューリップだけ、自分の気持ちを知っていればそれでいい。

     
     5月5日。
     狂児は聡実の部屋を訪れ、聡実はささやかに狂児の誕生日を祝ってくれた。机の上には凛とした濃紫の花菖蒲が1本、飾られていた。聡実が用意してくれた近所の洋菓子屋さんのケーキは美味しく、プレゼントは素敵なネクタイだった。

    「ちょっと待っとって」
     聡実はそう言うと、立ち上がって台所の方に行ってしまった。浴室のドアを開けて閉める音がした。
    「これもプレゼント、です」
     聡実の手には、赤いチューリップの花束があった。
    「え、あ、それ」
     聡実の頬がぶわぶわと薄赤く染まっていく。狂児は慌ててスマホを取り出し、検索サイトに文字を打ち込んだ。
    「12本、ですから」
     聡実はそう言うと、狂児に花束を差し出した。

     赤いチューリップの花言葉は、愛の告白。
     12本は、恋人になってください。

    「ほんまに?ほんまにええの?」
     聡実はこっくり頷いた。
     狂児は聡実をぎゅうっと抱きしめた。そして薄く色づいた蕾のような聡実の唇に、そうっとキスを落とした。





     伝えたくても言えない想いを、花言葉に託して。

     望みのない恋とはわかっています。
     でも、あなたを愛しています。
     誠実に、あなたを一生愛し続けます。

     あなたを愛しています。
     あなたを信じています。
     だから、恋人になって。



    End.





    *花言葉を参考にしたサイトです。

     菖蒲:https://charlor.net/3629
     薔薇:https://prrr.jp/note/rose/
     チューリップ:
     https://prrr.jp/note/bouquet/1068/
     ライラック:
     https://lovegreen.net/languageofflower/p23441/

    *合唱曲「ライラック」は架空の歌です。
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